[トップページ][平成18年一覧][Media Watch][070.14 中国の言論統制]
■■ Japan On the Globe(438)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■ Media Watch: 情報鎖国で戦う記者たち 〜 中国のメディア・コントロール(上) 全世界で不当に監禁・投獄されている記者の およそ三分の一は中国政府によるもの。 ■転送歓迎■ H18.03.26 ■ 34,264 Copies ■ 1,999,648 Views■ ■1.「こんな大事件は外国なら絶対にトップニュースなのに」■ 2002年9月14日の早朝、南京市郊外の湯山鎮で、約4〜5 百人の学生と出稼ぎ労働者が、中央市場の路地にある飲食店 「和盛園」の作った焼きパンやゴマ団子などを食べて、中毒症 状にかかり、死者が続出した。 しかし、中央テレビ局がこの14日の重大ニュースとして発 表したのは、次のような内容だった。 ・再就職会議が全国に大反響。レイオフ労働者が総書記の思い やりに感激。 ・大陸ファッション祭が楽しく和やかな雰囲気のうちに閉幕。 悪いニュースも少しはあったが、それは「9・11事件の捜 査で逮捕されたヨルダン人学生が米政府を告発」といった外国 に関するものであった。 1日半ほど経って、この事件がインターネットで広まり始め ると、さすがに怒りの声があがった。 人命がいちばん大切なんだぞ! こんな大事件は外国な ら絶対にトップニュースなのに、中テレ(中央テレビ)が ノーコメントとは。[1,p224] 中国共産党にとって都合の悪い出来事は報道されない。この 徹底した報道統制ぶりを見れば、次の評価も納得できるだろう。 2002年10月、本部をパリに置く「国境なき記者団」が 全世界の報道の自由度ランキングを初めて発表した。合計 139の国と地域によるランキングで、中国大陸と北朝鮮 はそれぞれ138位と139位にランクされた。2003年 10月20日に再び公表されたランキングでは、168カ 国のなかで北朝鮮は最下位、中国は下から6番目であった。 [1,p88] ■2.世界で最も多くのジャーナリストを監禁、投獄している国■ この厳格な報道統制の中で、多くのジャーナリストが戦いを 続けている。 中国は4年連続で世界で最も多くのジャーナリストを不 当に監禁、投獄している国である。その数は全世界で不当 に監禁、投獄されているジャーナリストのおよそ三分の一 にあたる。(ジャーナリスト保護委員会(CJP)2003年 レポート)[1,p232] 監禁や投獄だけではない。国外に亡命したジャーナリストも 少なくない。『中国の嘘 メディア・コントロールの実態』 [1]を発表した何清漣もその一人である。構造腐敗の問題を現 場感覚でとりあげた『現代化の落とし穴』がベストセラーとな ると、国家安全部門の監視化におかれて、身の危険を感じたた め、2001年6月、監視の隙をついて、アメリカへの出国に成功 した。現在はニューヨーク市立大学などで学級生活を送るかた わら、対中批判の言論活動を展開している。 この『中国の嘘』に登場する多くのジャーナリストたちの戦 いぶりを見ると、その無私の正義感に心打たれるとともに、報 道の自由が健全な国家社会の実現に不可欠であることを改めて 知ることができる。 ■3.「腐敗プロジェクト」■ 高勤栄(男性、1955年生まれ)は、新華社山西支社で『記者 観察』誌の担当をしていた。1997年、山西省運城地区の農民か ら、同地の灌水事業がペテンそのものの「腐敗プロジェクト」 だと聞きつけ、調査に入った。 運城地区政府の報告では、このプロジェクトは累計2億85 百万元(約120億円)を投資し、約180万畝(約687平方 キロ)の土地にスプリンクラーを設置して灌水できるようにし た、との事だった。 高勤栄は、一年あまりをかけて、運城地区の7、8県を駆け めぐり、多くのスプリンクラー用貯水池を観察した。 貯水池に取水管はあるければ、管が地面に突き刺さって いて、これを抜いてみると管の入り口を木の杭がふさいで いるんですよ。これでどうやって貯水できるんでしょう。 まったくのでたらめなんですよ。もっとひどいのは、池に 出水管がほとんど見あたらなかったことです。つまり、完 全な見せかけ工事なわけです。[1,p241] 地元の農婦は「貯水池を作ったけど、使ったこともないし、 何の役にもたってないんですよ!」と語った。また地方政府の 幹部への現場説明会のために、農民達が駆り出されて、6日間 で貯水池を作れと命令されたこともあるという。 ■4.「調査・処分せよ」■ 高勤栄は記者としての社会的責任感と義憤に駆られて、この 腐敗プロジェクトを暴く記事を書き、『人民日報』に送った。 この記事は1998年5月27日の『人民日報』の「読者の投稿」 に掲載され、中国国内の多くの新聞やテレビで紹介された。 世論の圧力を受けて、中央規律検査委員会は山西省当局に 「調査・処分せよ」と指示した。中国の慣例では、汚職・腐敗 の告発は、告発された当事者に回され、調査・処分が任される。 12月4日の夜、北京に滞在していた高勤栄は、暗がりで数 人の男に取り巻かれた。彼は両腕を縛られて、車で山西省の運 城まで連れ戻され、拘置所に入れられた。身柄を拘束してから、 罪状を探す手口だった。翌年4月28日、運城市人民検査院は 高勤栄を「収賄罪、詐欺罪、売春斡旋罪」で起訴した。 ■5.「政治犯については非政治化して処理せよ」■ 起訴状の「売春斡旋罪」の項で「1996年6月、・・・被告人 は電話で明生と呼ばれる人物(基本的状況は不詳)と連絡を取 り、ひとりの売春婦(基本的状況は不詳)を呼んだ」としてい る。客も、売春婦も明らかにされずに、高勤栄が斡旋をしたと して訴えられたのである。判決は懲役12年だった。いくつか の新聞や雑誌が、この冤罪の真相を公表しようとしたが、当局 からの警告で制止された。 不幸中の幸いは、地区委員会書記が「見せかけのプロジェク トを推進し、・・・党と人民に巨大な損失をもたらしました」 と自己批判した点である。偽スプリンクラーの見せかけを隠し 通せなくなったのだろう。しかし、別件で刑を受けている高勤 栄は今も山西省晋中監獄で服役中である。 1994年に江沢民は上海で秘密指示を下達している。「政治犯 については非政治化して処理せよ」。それまでは中国共産党政 権の思想・言論統制に従わない者は「反革命罪」として摘発し てきた。しかし、これではいかにも共産党独裁の実態が丸見え なので、政治犯に対しては非政治的な刑事犯罪、たとえば、売 春、詐欺、汚職などの罪で処理せよ、という趣旨である。そし て、それが無理な場合は「国家機密漏洩罪、政府転覆陰謀罪、 国家安全危害罪」を適用せよ、とされた。 それだけ報道統制が隠蔽され、巧妙になった。高勤栄のケー スは、この方針に忠実に従ったものである。 ■6.記者たちの受難■ [1]には、高勤栄のような正義感に燃えた記者の受難がいくつ も紹介されている。 香港の『文匯報』の東北駐在事務所主任・姜維平は、1998年 からペンネームを使って遼寧省の最高指導者たちの汚職・腐敗 を暴露する記事を書き始めた。瀋陽市副市長がマカオでの賭博 で公金4千万元(約6億円)をすった、とか、大慶市長が公金 で29人の愛人のためのアパートを購入していた、等々。国家 安全部は香港でのスパイを使って、これらの記事の執筆者が姜 維平であることをつきとめ、2000年12月に彼を密かに逮捕し、 1年あまりの秘密裏の拘禁の後、「海外への国家機密不法提供 罪」などの罪状で、懲役8年の実刑判決を下した。 2000年7月、江西省の雑誌『農村発展論叢』社・副社長の桂 暁埼*は、『農民負担軽減工作ハンドブック』を出版した。農 民が地方政府から「労務奉仕」という名の強制労働や、教育資 金などという名目での金銭巻き上げの被害を受けていることか ら、それらを規制するために中央政府や省政府が過去に出した 法規をまとめたものだった。農民達がこのハンドブックを元に 合法的な「農民負担軽減工作」をする事を恐れた当局は、この 本を買った農民達を脅して回収し、桂暁埼を停職・審査の処分 とした。その情報を得た桂暁埼は、第2の高勤栄になることを 恐れて、江西省外に逃亡し、今も流浪の身となっている。 (* 「埼」は、原文では土偏の代わりに王偏) 西安の『各界導報』の記者・馮剣*侠が、2002年1月15日、 人里離れた所で、死体で発見された。馮剣侠は地方政府の暗黒 面を暴露する多くの記事を書いていた。喉を深くえぐられてい たが、公安当局は早々に自殺と断定し、不審に思った各紙の記 者数名が公安局に取材に出向いた所、公安科長はこう言った。 「私に言えることは、自殺だったということだけだ。メディア がこれ以上騒ぐなら、君たち個々にも圧力がかかることになる ぞ」。その後、この事件はいっさい、報道されなくなった。 (* 「剣」は原文では金偏) 「世界で最も多くのジャーナリストを不当に監禁、投獄してい る国」では、こういう報道統制、言論弾圧がごく日常的に起き ているのである。 ■7.暴力による取材妨害■ 記者たちの受難は、取材の段階から始まっている。多くの記 者が暴力によって、取材を妨害されている。 2001年12月30日、江西省万載県の爆竹工場で爆発事故が 起こり、建物はすべて倒壊、周囲数百メートルまで焦土となっ た。現地では厳重な交通管制が敷かれ、警察車両と救急車以外 はすべての車両が現地に近づけなくなった。各検問所では警官 が配備され、記者の現場への立ち入りを禁止した。駆けつけた 『中国青年報』の記者2名は撮影機材を奪われ、地面に押し倒 されたあげく、派出所に連行された。その後、万載県は、死亡 者は9名だけだったと言い張り、後に14名と訂正した。 2002年1月5日、山東省の『済南時報』などの記者3名が、 礼陽県泗店鎮西孟村に向かった。村の支部書記が汚職にまみれ、 私設監獄を作り、村人たちを拷問しているという訴えがあった からだ。しかし、ほどなく7、8台のパトカーがサイレンを鳴 らしながら追いかけてきて、三人を県の宣伝部に連行した。そ こで10数名の私服警官から、殴る蹴るの暴行を受け、一人は 頭部を強打されて重傷を負った。夜の12時過ぎに『済南時報』 の特別チームが到着して、3人はようやく解放された。 ある人が、新聞で報道された記者への暴行事件を調べたとこ ろ、2000年9月から12月の3ヶ月間だけで、中国全土で9件 もあった。11月8日は、中国政府が記者の権益を保護する 「記者デー」であるが、ちょうど、この前日にも広州市郊外の 靴工場が起こった大火災を取材しようとした記者4名が、工場 の息のかかった連中に恐喝され、暴行を受ける、という事件が 発生している。 ■8.「糧道を断つ」■ 本年1月下旬、『中国青年報』の付属紙『冰点週刊』は、共 産党中央宣伝部から停刊処分を受けた。原因は同紙の1月11 日付に掲載された中山大学の袁偉時教授による中国の歴史教科 書批判論文だった。論文は清朝末期の義和団事件などを例に、 愛国主義を高揚するため、史実に反し、中国人の誤った行為ま で正当化していると指摘、歴史への反省なくして現代化できな いと主張した。党側は、論文を「史実をねじ曲げ、中国人民の 感情を傷つけた」として、同紙の停刊を命じた。 しかし、この処分は、国際社会で言論弾圧として大きく報道 され、それに驚いた胡錦濤政権は、同紙編集長らを左遷しただ けにとどめた。これは以前とみると考えられないほど軽い処分 である。[2] なぜ新聞や雑誌の停刊処置くらいで、国際社会が騒ぐのか、 胡錦濤政権には分からなかったろう。これまでの中国で停刊の 処置を受けた新聞・雑誌は数知れない。[1]の著者・何清漣の 関連だけでも、以下のケースがある。 ・今日中国出版社は何清漣の『現代化の落とし穴』を出版した ため、1995年に登録を取り消され、営業停止処分となった。 同書の企画者と担当編集者は、文化方面での仕事につけなく なった。 ・『書屋』誌は2000年3月号に何清漣の論文を掲載したため粛 清された。編集長と編集部スタッフは全員解職された。 ・2001年初めに漓江出版社は何清漣の文集『我々はなおも星空 を仰ぎ見ている』を出版したため、中央宣伝部により営業停 止処分を受けた。 このように、新聞・雑誌の停刊処分、あるいは新聞社・出版 社の営業停止処分によって「糧道を断つ」戦法も、報道統制の 有力な手段なのである。 ■9.「日本政府もメディアを指導すべきだ」■ 本年1月初めに日中両政府の局長級による非公式協議が北京 で開かれた。朝日新聞は、これを論評する社説の中でこう述べ た。[3] 協議のなかで、日本のメディアが中国の否定的な面ばか りを報じると中国側が不満を示した。「良い報道がなされ るよう中国はメディアを指導している。日本政府も指導す べきだ」と述べたという。 政府がメディアを監督して、「良い報道」がなされるよう 「指導」するのが中国の「常識」なのだ。そして、その「指導」 とは記者を投獄したり、新聞を停刊処分にしたりする事を含ん でいる。 日本の一部のメディアに、眉をひそめるような感情的な 中国攻撃があるのは事実だ。もっと前向きな報道が増える よう良好な関係にすべきだというなら大賛成だが、政府が メディアを「指導」することは民主国家では許されない。 中国でも環境汚染などで当局を批判する報道が出てきた。 自由な言論は民主主義の根幹であることを改めて指摘して おきたい。 至極もっともな指摘ではある。しかし、中国で身の危険を顧 みずにこの「指導」と戦っている記者たちにとっては、報道の 自由の保障されている日本で、中国の「指導」のお先棒担ぎを してきた朝日新聞がこんなお説教をしても、偽善としか映らな いのではないか。[a,b,c] (文責:伊勢雅臣) ■リンク■ a. JOG(042) 中国の友人 中国代表部の意向が直接秋岡氏に伝わり、朝日新聞社がそれ に従うという風潮が生まれていた。 b. JOG(044) 虚に吠えたマスコミ 朝日は、中国抗議のガセネタを提供し、それが誤報と判明して からも、明確に否定することなく、問題を煽り続けた。 c. JOG(179) 3度目のお先棒担ぎ 歴史教科書つぶしに奔走する「中国の友人」たちの無法ぶり は、真の日中友好を阻害している。 ■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け) →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。 1. 何清漣『中国の嘘 恐るべきメディア・コントロールの実態』★★★ 扶桑社、H17 2. 産経新聞「『氷点』停刊 焦国標元北京大助教授に聞く」 H18.03.03 3. 朝日新聞「(社説)日中対話 政治家の姿を見たい」 H18.01.11 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ■「情報鎖国で戦う記者たち」に寄せられたおたより 「Yutaka」さんより 中国の報道統制を論じる場合、日本人は無意識のうちに中国 も他の先進諸国と同様の歴史や価値観を持っていると考え勝ち ですが、冷静に振り返って見ると、中国は真の意味での近代国 家を経験したことがなく、古代封建制の清朝から内乱を経て一 気に外見だけは近代的国家となったと言う事情があります。 一方わが国は明治維新以来百数十年に亘り議会制民主主義 (天皇制も立憲君主制であり中国の王朝などとは次元が異なる) を取ってきており、当然のことながら、言論には 言論で対応 すると言うことが全国民の常識となっています。中国要人のマ スコミを指導する 云々と言う発言が端無くも中国の前近代的 強権主義の体質を露呈したものと思います。 共産主義国家を標榜したソ連と中国がいずれも情報統制に見 られる強権的な体質を色濃く持っていたのは、必ずしも共産主 義思想の産物ではなく、両国が真の意味でも国民国家を経験す ることなく、絶対王政から共産国家へ移行したことと無関係で はないと考えます。この両国は極めて後進的であるにも関わら ず、国土が大きく人口も多く、例え外面的 とは言え強大な軍 事力を有していることで言わば大きな顔をして国際社会で発言 をしていますが、本来その資格はないのではないでしょうか? ■ 編集長・伊勢雅臣より 言論や報道の自由の概念を持たない中世国家が、最新のテク ノロジーを駆使して、言論弾圧をしています。© 平成18年 [伊勢雅臣]. All rights reserved.