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■■ Japan On the Globe(439)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■ Media Watch: 「天網恢々、疎にして漏らさず」 〜 中国のメディア・コントロール(下) 中国政府は世界で最大かつ最先端の ネット統制システムを構築した。 ■転送歓迎■ H18.04.02 ■ 34,173 Copies ■ 2,008,060 Views■ ■1.万里の長城のインターネット版■ 2001年10月17日、APEC(アジア太平洋経済協力)会 議を取材するために、上海を訪れた各国のジャーナリストたち は、報道センターのコンピュータから、いくつかの海外メディ アのウェッブページにアクセスできないことに気がついた。 VOA(Voice Of America)の記者は、報道センターからは 自社のホームページにさえアクセスできない、と不満を述べた。 その他にもBBC(英国放送協会)、ワシントン・ポスト紙、 ニューヨーク・タイムズ紙、それにいくつかの台湾メディアに も、接続不能であることが判明した。 中国外交部(外務省)の報道官・章啓月が記者会見を開いた 途端、取材陣から、なぜこれらのウェッブサイトへのアクセス を遮断しているのか、説明して欲しい、という声があがった。 章啓月は「インターネットのデータ交換に問題が発生している のかもしれないが、私には分からない」と述べて、記者たちの 嘲笑を買った。そして、政府がファイヤーウォールを利用して インターネットを規制するのは、きわめて「正常」なやり方で あると弁明した。 ファイヤーウォールとは「防火壁」の意味で、組織内のコン ピュータネットワークに外部からウィルスなどが侵入するのを 防ぐシステムである。この技術を用いて、中国はインターネッ トを通じて国外から(中国政府にとっては)有害な情報が入る のを、国家レベルで統制しているのである。まさに万里の長城 のインターネット版だ。 ■2.5万以上のサイトにアクセス禁止■ ハーバード大学の調査によれば、中国のある地点から世界各 国20万4千のサイトにアクセスできるかをテストした所、5 万以上のサイトが閲覧できなかった。それらのサイトを大別す ると、以下のようになる。 ・人権団体のサイト。中国の人権状況を批判しているアムネス ティ・インターナショナルなど。 ・ニュースサイト。上記のVOA、BBC、CNNなど。 ・衛生関係のサイト。エイズ・ヘルスケアなど。 ・台湾、チベットに関するサイト。 ・宗教関係のサイト。カソリック市民権同盟、法輪巧など。 グーグル検索サイトでの世界で人気のトップ100サイトの うち、42のサイトが中国政府によって遮断され、中国国内か らアクセスできない。 中国国内から国際ネットワークにつなげるためには、当局が コントロールするサーバーを経由しなければならない。それに よって中国政府は海外のサイトへのアクセスの制限が自由にで きるのである。 ■3.ヤフー、グーグルの検閲協力■ 中国政府は単に外国のサイトへのアクセスを禁じるだけでな く、海外の検索サイトの中国版にも協力をさせている。 中国政府への協力という面では、ヤフーが非常に典型的 な例と言えるだろう。アメリカの人権団体『人権観察』は、 アメリカのヤフー社が中国の関係政府部門と協議し、中国 当局のインターネット・ウェッブページへの検閲に協力す ることで合意したと非難している。それによると、ヤフー が提供するウェブ・ページに中国の国家の安全と社会の安 定を脅かす内容のものを掲載しないと合意したのだという。 [1,p346] 中国版ヤフーで「台湾独立」や「中国民主」を検索しても、 何も出てこない。中国当局に協力して、これらのキーワードを 検索禁止にしているからである。 グーグルも同様だ。中国版では「民主主義」「人権弾圧」 「天安門事件」などという特定の言葉を検索禁止として、中国 当局の検閲に協力している。[2] ■4.ネット・メディアの「整頓」活動■ 中国国内のサイトへの検閲はもっと過酷だ。2001年6月以降、 中国共産党は「建党80周年を祝うために良好な世論環境を作 り上げる必要がある」ことを理由に、ネット・メディアの「整 頓」活動が強化された。 たとえば、「熱門話題」というメール・マガジンは、1997年 11月に創刊され、23万5千もの購読者を抱えていたが、 2001年6月18日に、突然、停刊を宣言した。この編集者は、 「耳の痛い忠言を少しだけ語り、ささいな不平不満をほんの少 し漏らしただけであったのだが、こんな片隅でも逃れることが できなかった」と述べている。 「思想的境界」というサイトも閉鎖された。南京大学の青年講 師・李永剛が創設し、学術的話題を議論する場としてインテリ 層の熱い支持を受けていた。しかし、南京市国家安全局から数 回に及ぶ一時閉鎖を強いられた事が、かえって海外の読者の注 目を集め、彼らは李永剛への支持を表明し、海外メディアもそ れを報道するようになった。そのため、南京市国家安全局はサ イトの完全な閉鎖を命じ、あわせて李永剛にこんな声明を出さ せた。「サイト閉鎖は政府や政治とは無関係である。今回の件 はまったく個人的な考えによる閉鎖であり、閉鎖を強いられた わけではない」 マイクロソフト社も、中国当局の意向を受けて、中国政府の 抑圧的政策を批判する人気ブログを閉鎖した。 ■5.「自主規制」■ こうした規制の下では、各サイトは当局から閉鎖を命ぜられ る前に、自主規制を行うようになる。たとえば、読者からの投 稿を受け入れるサイトでは、トップページに必ず「削除と禁止 の規定」がある。北京大学に所属するコンピュータ企業が開設 している有名なサイト「北大三角地」では、次のような規定を 表示している。 第2条 作者の削除、登録番号の取り消し、IPアドレス の封鎖 書きこみのなかに下記の内容が一度でもあれば、ただち に上記の処罰を実施する。 1 邪教法輪巧 2 国家指導者への攻撃 3 海外の反中メディアによる報道の大量貼り付け 4 デマの流布、騒ぎの扇動 第3条 いくつかの説明 ・・・・ 3 中華人民共和国の関係法律・法規に基づき、本サイト には関係機関と協力して立ち入った調査を行う権利と 義務がある。 こんな恐ろしげな規定に挑戦する人は希だろう。その心理的 圧力が、投稿者に「自主規制」を強いるのである。 ■6.「関係機関と協力して立ち入った調査を行う」■ それでも、こうした圧力を跳ね返して、各種のサイトを立ち 上げ、言論の自由を行使しようとする勇気ある人々がいる。 「民主与自由」のように30回も一時閉鎖を繰り返すサイトも あった。しかし、2003年10月以降、このサイトも当局によっ て完全閉鎖に追い込まれた。5名のフォーラム主催者が逮捕さ れ、そのほかに、一人が勤務先から解雇され、もう一人が公安 局の家宅捜査を受け、二人が警察の尋問を受けた。 前述の「関係機関と協力して立ち入った調査を行う」とは、 こういう事なのだ。単なる脅しではない。 2000年6月、四川省の「天網」サイトの創設者・黄埼*が逮 捕され、「政府転覆陰謀罪」で告訴された。その「罪」とは、 彼のサイトで天安門事件で殺害された学生達の母親による公開 書簡が掲載され、当時の民主化運動を復興せよと呼びかけてい た事である。(*原字は、土偏の替わりに王編) 2000年5月、「財経消息」サイトは当局から2週間の閉鎖を 命ぜられ、サイトの責任者は罰金1万5千元を課された。役人 の腐敗に関する記事を掲載し、「政府のイメージを損なうデマ を流した」という理由であった。 2002年8月、HIV感染者の民間支援団体「北京愛知行動プ ロジェクト」の世話人・万延海は、ネット上に河南省衛生庁の エイズに関する報告書を掲示したため、北京国家安全局に27 日間も拘束された。 ヤフー社はネットで発言する民主活動家の情報を中国当局に 提供し、それがもとでその活動家は「国家転覆扇動罪」で懲役 8年の刑を言い渡された。 こうして強制閉鎖されたサイトは昨年だけで2千以上、ネッ ト上の発言などを理由に収監されている人が80人以上にのぼ ると報道されている。[3] ■7.メールの検閲■ 中国政府のインターネット規制は、メールにも及んでいる。 巨大なネットワーク・フィルターを設置し、メール内に禁止用 語が含まれていないか、監視しているのである。 禁止用語は「不法文字符号」と呼ばれ、たとえば「民主」 「人権」「自由」などが含まれている。これらの用語は、メー ル内ですべて「XX]という伏せ字に変換されてしまう。その ほかにも中国の国家指導者の名前と不敬な単語を組み合わせる と、メールそのものが削除されてしまう。 もちろん、機械的な検閲なので、たとえば、物理学用語の 「自由落下」は「XX落下」とされてしまう。「法」のローマ 字表記の「Fa」も使用禁止なので、英文メールの「Fall」も、 「XXll」となる。 多くのネットユーザーが「当局はなぜこんなに不法文字符号 を決めたのか」とネット上で不満をぶつけ始めると、当局はこ の議論を止めさせるために、「不法文字符号」という単語自体 を不法文字符号として登録した。以後、「不法文字符号」とい う単語を含んだメールは、「不法」通信として削除されてしま うようになった。 日本でも戦後、占領軍が6千人以上の検閲員を雇って、月4 百万通の私信、350万通の電信を検閲し、2万5千通の電話 を盗聴していた[a]が、それに優る規模の徹底した言論検閲の システムが現代中国で稼働しているのである。 ■8.インターネット・カフェの「規範化経営」■ いくら中国政府がインターネットへの統制を強化しても、イ ンターネット・カフェなどから、個人を特定できない形で発信 すれば、大丈夫ではないか、と思うかもしれない。しかし、そ の程度の抜け道はすでに封じられている。 それはインターネット・カフェでのアクセスの際にICカー ドを用いたユーザー認証を必須とするというシステムである。 いち早くこのシステムが導入された江西省では、インターネッ ト・カフェのパソコンにはICカード読み取り器が接続されて おり、ユーザーはあらかじめ与えられた「江西省インターネッ ト・カフェ実名アクセスカード」というICカードを挿入しな ければならない。ICカードの情報は同省の国家安全部門に送 られて認証を受けた後で、ようやくインターネットにアクセス できるようになる。 2003年上期までに、中国全土で身分証を登録して初めてイン ターネットにアクセスできる制度が確立され、誰がどこから、 どのような発信をしたのか、すべて追跡できるようになった。 そして2003年6月に北京のインターネット・カフェで発生し た火災事故を契機に、ユーザーの安全確保を理由として、イン ターネット・カフェの一斉取締りを行い、全国で100社程度 の業者にのみ、インターネット・カフェのチェーン展開を許す 「規範化」経営を実施すると発表した。 ■9.「天網恢々、疎にして漏らさず」■ こうしたインターネット規制を技術的にサポートしているの が、米国のハイテク企業である。たとえば、ネットワーク業界 の雄・シスコシステムズ社は、ネット上に特定の言葉が出ると、 自動的に警察に通報する「ポリスネット」というソフトを開発 して、中国側に提供した。 ヤフー社、グーグル社、マイクロソフト社も、中国でのビジ ネス展開と引き換えに、検閲に協力している事はすでに述べた。 本年2月15日に開催された米国議会下院国際関係委員会で は、これら米国の大手インターネット関連企業の中国政府への 協力に対し、「あなた方の中国での忌まわしい行動はまったく の恥辱」(トム・ラントス民主党議員)とか「グーグル社など は中国政府の役人のように行動している」(ジム・リーチ共和 党議員)と激しい非難の声があがった。[2] 欧米諸国のハイテク企業の協力のもと、「ファイアウォ ール」の設置から巨額の投資を見込む「金盾(ゴールデン ・シールド)プロジェクト」計画に至るまで、そして世界 最大のネット警察(サイバー・ポリス)の組織化もあわせ て、中国政府は世界で最大かつ最先端のネット統制システ ムを構築した。このシステムは彼らの専制政治をより緻密 にする手助けとなろう。[1,p335] この「金盾(ゴールデン・シールド)プロジェクト」とは、 インターネット監視だけでなく、全国に設置した監視カメラや 盗聴器を結び、顔認識機能や音声認識によって、誰がどこに出 入りして、どんな話をしたか、すべて監視できるシステムであ る。 かつてこのプロジェクトに関与した専門家たちの予測に よれば、2008年に中国はあらゆるところに監視コントロー ルを張り巡らせた、世界最大の警察国家になる見通しであ る。[1,p335] 老子に「天網(てんもう)恢々(かいかい)、疎(そ)にして 漏らさず」という言葉がある。天が悪人を捕らえるために張り 巡らした網は非常に大きく、網の目は粗いが取り逃がすことは ない、という意味である。 中国共産党は、この言葉を最先端のインターネット技術を用 いて、具現化している。自由と人権を求める民を監視し、弾圧 する「天網」が大陸全土を覆いつつあるのである。 (文責:伊勢雅臣) ■リンク■ a. JOG(098) 忘れさせられた事 戦後、占領軍によって日本史上最大の言論検閲が行われた。 b. JOG(438) 情報鎖国で戦う記者たち 〜 中国のメディア・コントロール(上) 全世界で不当に監禁・投獄されている記者のおよそ三分の一 は中国政府によるもの。 ■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け) →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。 1. 何清漣『中国の嘘 恐るべきメディア・コントロールの実態』★★★ 扶桑社、H17 2. 産経新聞『米議会、ネット企業の中国対応「忌まわしい」 弾圧への協力糾弾』H18.02.17 3. 産経新聞『弾圧加速2000サイト閉鎖』、H18.02.17 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ■「天網恢々、疎にして漏らさず」に寄せられたおたより 「だいすけ」さんより 情報統制・言論弾圧の程度は、逆を言うと、政府が抱く統治 の不安の度合いを示すものだと思います。滑稽なまでの情報統 制、言論封鎖、弾圧を繰り返すということは、自己の施政の失 敗を自ら認め、それを世に知らしめているようなものです。そ して、そのような非人道的国家が、国連においてある程度重要 な地位を占めている。 一方で、日本の報道においても、近隣国の中韓・ロシア等で の当該国に不利益な事件に関する報道は、数回あるかないか、 瞬く間のうちに消え去っていってしまうのは何故なのでしょう か。勿論、ある種の思想等の表現物である報道であるが故の偏 向、という点もあると思いますが、それだけではなく、その背 後にある情報封鎖国家に、何やら空恐ろしいものを感じてしま います。 ■ 編集長・伊勢雅臣より 報道統制は、実は「弱さ」の表れなのですね。© 平成18年 [伊勢雅臣]. All rights reserved.