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                 人の心を大事にする経済学

                                                   伊勢雅臣
■転送歓迎■ No.1280 ■ H19.04.30 ■ 8,914 部 ■■■■■■■

     宇沢弘文・東京大学名誉教授は、戦後の数理経済学の牽引役
    として世界的な業績を挙げ、ノーベル経済学賞の有力な日本人
    候補と言われていた人物である。

     やがて公害などの社会問題がひどくなると、現実から切り離
    され形骸化した数理的経済理論から、公共経済学などの現実経
    済の研究に進んだ。そして『経済学と人間の心』『経済に人間
    らしさを』などの著作を発表した。

     その転機は、昭和天皇との会話にあったようだ。日経新聞の
    「私の履歴書」(H14.3.25)の中で、宮中のお茶会でのエピソー
    ドを次のように綴っている。

         私は一九八三年、文化功労者になった。文部省で行われ
        た顕彰式の後、宮中で天皇陛下がお茶をくださるという。
        小さな部屋に案内され、陛下の前で今まで何をしてきたか
        を順番にお話しする。そのうちに私の番になった。私はすっ
        かりあがってしまい、ケインズがどうの、だれがどうした
        とか自分でわけが分からなくなってしまった。すると昭和
        天皇が身を乗り出され、『キミ。キミは経済、経済と言う
        けれども、要するに人間の心が大事だと言いたいんだね』
        とおっしゃった。私はそのお言葉に電撃的なショックを受
        け、目がさめた思いがした。・・・経済学では人間の心を
        考えるのはタブーとされていた。この問題を天皇陛下はず
        ばり指摘されたのだ。私はそのお言葉に啓発され、経済学
        の中に人間の心を持ち込まなければならないと思った。

     以来、宇沢氏は「社会的共通資本」の研究に取り組む。これ
    は人間の生活、生存に重要な関わりをもつ自然資源(大気、水、
    森林等)、社会資本(交通、水道、電力・ガス等)、制度資本
    (教育、医療、行政等)を共通の財産として社会的に管理して
    ゆこうという考え方である。

    「経済」とは「経世済民(世の中を治め、民を救う)」の略で
    ある。その学問が、数学などと同様「人間の心を考えるのはタ
    ブー」としているようでは、大いなる欠陥と言うべきだろう。

     国民の安寧をひたすらに祈る事を使命とされていた天皇にとっ
    てみれば、「経世済民」の学において人間の心を大事にするこ
    とは、至極当たり前のことであったろう。宇沢氏はこう続ける。

         社会的共通資本が評価され、97年に文化勲章をいただ
        いたのは大いに勇気づけられた。改めて、昭和天皇にお目
        にかかったことは大きな転機であったと思う。

     宇沢氏に続いて、「人の心を大事にする経済学」を研究する
    学者が続々と登場して貰いたいものである。

■参考■
1. 日本政策研究センター 『明日への選択』H14.4
 

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