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■■ Japan On the Globe(550)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

        国柄探訪: 日米中の組織文化
                    〜 グローバル競争を勝ち抜くには
                 グローバル競争を勝ち抜くには、自分の個性を
                を強みとして発揮していく戦略性が必要。
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■1.ヒラリーの個別指示■

     あるアメリカの会社で大勢の顧客を招待してパーティを開く
    ことになった。総務部長のヒラリーは10人ほどの部下を使っ
    て、その準備にかかった。さすがエリート社員として将来を属
    目されている才女ヒラリーである。てきぱきと10人の部下に
    それぞれの仕事を命じていく。

         ビル、あなたは今からあの酒屋に行って、缶ビール6ケ
        ースとワイン12本を買ってきて。予算は200ドル以内
        にね。1時間ほどで済むでしょうから、帰ってきたら、会
        場設営をジョージと一緒にやって、、、

     命令された10人の部下は一斉に仕事に取りかかった。他の
    人が何をしようと関係なく、一人ひとりがヒラリーの命令を全
    うすれば、パーティの準備は滞りなく進められるのだ。

     しかし、それでも予想外の事が起こる。ビルは酒屋に行った
    が、予算が200ドルでは足りそうもないと知り、ヒラリーに
    電話してどうしたら良いか、新たな指示を求めてきた。ヒラリ
    ーは、別の店をあたって、何とか200ドル以内で済まないか、
    チェックするよう命じた。

    「ビルは相変わらず気が利かないわね。次回の査定ではもう一
    ランク落とそうかしら。それで、自分から辞めてくれるなら、
    好都合だけど」とヒラリーは考えながら、携帯電話を切った。

■2.胡夫人の「差不多(チャープドゥオ、だいたいこんな感じ)■
  
     上海近郊の中企業のオーナー社長である胡さんは、社員全員
    を招待して、年間売上達成の祝賀会を開くことを決め、その準
    備を夫人に頼んだ。胡夫人は同社の総務部長でもある。

     胡夫人はしっかり者の上海女性を何人か選び、買い物や会場
    の準備を命じた。その中には経理部の温さんもいた。胡夫人の
    お気に入りのやり手女性の一人だ。別の部のスタッフを勝手に
    使うことは本当なら越権行為なのだが、オーナー夫人の意向に
    は、経理部長も文句は言えない。

         温さん、あなたはどこかでオードブルをみつくろって買っ
        てきて。見栄えが良くて、たくさんあるのをなるべく安く
        お願いね。

     胡夫人の命令は、中国語で「差不多(チャープドゥオ、だい
    たいこんな感じ)」と言うように、大雑把で適当だ。ただし、
    目的意識は非常に明確である。

     温さんは、行きつけの店で20分ほど激しい値切り交渉をし
    た後、近くの別の企業で働いている夫を携帯電話で呼び出し、
    大量のオードブルを運ばせた。

     それを見た胡夫人は「温さん、さすがね。もっと重要な仕事
    を任せても良い頃ね」と皆の前で褒めた。それを聞いていた経
    理部長は、そろそろ自分の首も危ないかな、転職先を探し始め
    よう、と思った。

■3.部下たちのチームワーク■
    
     東京にある中堅貿易商社の総務部長・福田氏はあまり自分の
    意見を出さない人だった。来社するインド人バイヤーたちの歓
    迎会の設営で、福田部長が部下たちに指示したのは、「インド
    のお客さんに失礼のないよう、心の籠もった歓迎会にしてくだ
    さい」ということだけだった。

     部下たちは早速ミーティングを開いて、どんな形の歓迎会に
    するか話し合った。式次第やアルコール、料理の内容が決まる
    と、それぞれ分担を決めて、準備に入った。

     デパートの地下に焼き鳥を買いに行ったA君は、おいしそう
    なタンドリー・チキンが特売されているのを見つけたので、当
    初案から変更した。これは結構、辛いので、ビールの消費量が
    増えるだろうと考え、アルコール仕入れ担当のB君に携帯電話
    でその旨、連絡した。B君はビールを増やした分、ワインの本
    数を減らした。

     A君が買い物を終えて社に戻ると、会場の設営が予定より遅
    れていたので、すぐに手伝い始めた。
    
■4.モジュール型、ネットワーク型、擦り合わせ型■

     以上、似たような設定で、アメリカ人、中国人、日本人が組
    織としてどう働くか、というケース・スタディをしてみた。

     アメリカ人の組織は「モジュール型」である。一人ひとりが
    組織を構成するモジュールであり、ボスから個別指示が与えら
    れる。各モジュールは同僚のことなど考えなくとも、それぞれ
    がボスの指示をきちんと遂行していれば良い。あるモジュール
    の動きが悪ければ、比較的簡単に取り替えることができる。

     中国人の組織は「ネットワーク型」と言えよう。会社の部課
    といった公的な組織とは別に、個人どうしのネットワークがあ
    り、そのネットワークを通じて仕事がなされる。このネットワ
    ークを中国語では「圏子(チュエンツ)」と呼ぶ。

     日本人の組織は「擦り合わせ型」である。構成員どうしで自
    発的な擦り合わせをして、助け合い、補完し合って、全体の仕
    事が進む。

     このように世界にはいろいろな組織文化があるが、グローバ
    ル化の時代には、異文化の接触機会が増えて、文化間の摩擦が
    起こる。日本企業に就職したアメリカ人が「モジュール型」で
    仕事をしていると、「擦り合わせ」を当たり前とする日本人か
    ら見れば、「あいつは言われたことしかやらない」と不満が昂
    じる。また日本企業で働く中国人が「圏子」のボスの方ばかり
    を見て仕事をしていると、「あいつはごますりばかりで、皆と
    力を合わせない」などという批判が起こる。
    
■5.アメリカ人の「アップ・オア・アウト(昇進か、転職か)」■

     次に、日米中それぞれの組織文化の中で、人々はどのような
    キャリアを理想としているのか、『鷲の人、龍の人、桜の人 
    米中日のビジネス行動原理』[1]に紹介されている実例で見て
    みよう。

     アメリカ人のジョン・ケリー(仮名)はカリフォルニア工科
    大学で、コンピュータ・サイエンスの学位をとり、IBMに入
    社した。仕事自体は面白かったが、技術者よりもマネジメント
    の仕事をしたいと思い、数年で辞めて、東海岸のエール大学で
    MBA(経営学修士)をとった。

     その後、ヘッドハンターの紹介で、エクソンに入社し、住居
    も東海岸からテキサスのヒューストンに移した。エクソンは一
    流企業で優れた人材も多く、ここではそんなに昇進できないと
    思い始めた頃、再びヘッドハンターから、カリフォルニアのシ
    リコン・バレーにあるハイテク・ベンチャーが技術部長を探し
    ている、という情報がもたらされた。聞いたこともない小企業
    で、ジョンはちょっと迷ったが、転職を決意した。33歳の時
    である。

     そのベンチャー企業は50人程度の規模だったが、M&A
    (合併と買収)を繰り返して、5年も経たないうちに、3千人
    を超える企業に成長した。ジョン自身も1千人の部下を持つ幹
    部に昇進した。そして38歳の時に、別のソフトウェア・ベン
    チャー企業の社長に就任した。おりしもバブル崩壊と同時多発
    テロ事件で「社長20年分の経験をした」が、それを乗り切っ
    て、今では自信に満ちた日々を送っている。[1,p112]

     アメリカ人のキャリア観は、「アップ・オア・アウト(昇進
    か、転職か)」という一言で表される。一つの会社で昇進が望
    めなければ、別の会社に移って、あくまで自分の才能を生かせ
    る場を求める。組織自体がモジュール型であるから、転職もや
    りやすい。逆に言えば、従業員の頻繁な転職に備えて、モジュ
    ール型になっている、とも言えよう。
    
■6.中国人のリスク分散■

     中国人のマギー・ウーさん(女性、仮名)は、上海交通大学
    の工学部の出身である。ウーさんのお父さんは学校の教師だっ
    たが、文化大革命の時に奥地に追放された経験を持つ。それで
    も学歴こそが世渡りの武器であると、ウーさんは小さい頃から
    よく勉強をするように躾けられ、優秀な成績で大学に入れたの
    だった。

     卒業後、ウーさんは3年ほど上海の外資系コンサルティング
    企業に務めていたが、友人の紹介で別の外資系コンサルティン
    グ会社に移った。まだ28歳だったが、ここでは初級マネジメ
    ント職につき、給料も倍に跳ね上がった。しかし、ウーさんの
    狙いは、マネジメントの経験を積むことだった。それは今後の
    さらなるキャリア・アップのための武器になるはずだ。

     転職後、1年経った頃、これまた友人の紹介で、上海の復旦
    大学を出た優秀な男性と結婚した。彼も在中国のGE(ゼネラ
    ル・エレクトリック)からデル・コンピュータに転職していた。

     結婚3年目で、夫がデルのカナダ支社に転勤するチャンスが
    訪れた。ウーさんは会社を辞めて、夫についてカナダに行き、
    MBAに挑戦することとした。お金の面では大変だったが、二
    人の両親だけでなく親戚をあげて応援してくれることになった。

     両方の一族にとって、カナダに親戚がいる、ということは、
    中国で何かあっても外国に頼れる先がある、というリスク分散
    となる。また、この二人をつてに、将来、一族の中からカナダ
    への留学生を出せるだろう。[1,p115]

     強い上昇志向を持ち、転職を繰り返す、という点では、中国
    人はアメリカ人の「アップ・オア・アウト」に似ている。しか
    し「リスク分散」の意識が強い所が中国人のキャリア観の特色
    だろう。国や企業のリスクを、友人や一族といった「圏子」で
    の助け合いを通じて分散するのである。
    
■7.日本企業の「場」■

     田表有効さん(日本人)は、早稲田大学の政治経済学部を卒
    業してソニーに入った。同級生の中には外資系企業を志望する
    人もいたが、学生時代に人事系コンサルティング会社で実習を
    していた関係で、田表は優秀な人材は一流企業に集まることを
    知っていたので、ソニーを選んだ。

     田表さんはある事業部の経営企画分野の仕事に就き、2年目
    には、優秀な上司の指導も得て、その事業部の抜本的な立て直
    し策を経営トップに直接報告する、という機会に恵まれた。

     それが評価されて何段階も抜擢昇進しそうになったが、どこ
    からかブレーキがかかった。あまりに突出した昇進は、職場の
    安定を損なう恐れがある、との危惧が働いたのだろう。

     それでも日本企業の中では、きちんと実力を示し、人間関係
    もうまくこなせば、相当程度自由にやらせて貰える事が判って
    きた。それに比べれば、外資系に入った友人は、初任給も高く、
    立派な肩書きを貰えたが、所詮、出先機関での末端的な仕事し
    か与えられていなかった。

     5年目になると、同期入社組の中には、ソニーを辞めてベン
    チャー企業を起こす人も出てきた。田表さんも、産学連携して
    何かやりたいと思っていたが、せっかく人材も機会も豊富なソ
    ニーという「場」にいるのだから、その中で業界全体をあっと
    言わせるような新しい事業を具体化しようと考えている。

■8.日本の「職人染色型」■

     [1]の著者キャメル・ヤマモト氏は、このような日本型のキャ
    リアを「職人染色型」と呼んでいる。

         これは、ある一つの会社という場で、染物が染め上がる
        ようにトヨタ人やパナソニック(松下)人など、人材が染
        め上がっていきます。ここにもアメリカの波が押し寄せ、
        一部の業界では、アップ・オア・アウト的なものが出てき
        ていますが、それはまだ辺境的存在です。また、競争激化
        のおり、正社員の数も絞り込まれて、個人のネットワーク
        に頼る中国型も出てきています。ただし日本的な強みを発
        揮できるメーカーなどの中核部分は依然として職人染色型
        でしょう。[1,p112]

     日本の組織文化である「擦り合わせ」も、こうした「染色」
    によって初めて可能になるのであろう。

     ヤマモト氏がわざわざ「職人」という言葉を使っているのも、
    注意すべきである。ヤマモト氏が「アップ・オア・アウト」の
    話をすると、あるアメリカ人はこう言ったという。

         そのモデルは、コンサルティングとか投資銀行とか、ハ
        イテクなど、個人の実力のちょっとした差が会社の業績に
        直接響くような企業には適しているよ。・・・

         でも、そのモデルは、多くの製造業では成り立たないな。
        そういうところでは個人の僅差にはあまり意味がなくて、
        むしろ仕組みやシステムの勝負だからね。[1,p125]

     コンサルティングやソフトウェアなどでは、一人の天才がい
    るかどうかで勝負が決まってしまう。そういう天才を活かすた
    めには、移動性の高いアップ・オア・アウト型が適しているだ
    ろう。

     しかし、多くの設備や部品・材料を使って製品を作り上げる
    製造業では、共通の文化で染め上げられた多数の「職人」が綿
    密な擦り合わせをしていく事が必要である。自動車産業などで
    日本企業が強い国際競争力を誇っているのも、この強みが現れ
    ているのだろう。
    
■9.日本の組織文化の強みを生かす■

     日米中の組織文化の比較をしてきたが、米中はかなり近く、
    日本の独自性が際だっている点が浮き彫りになった。

     今後、グローバル化が進む中で、国内企業でも外国人社員が
    増えているし、また中小企業でも海外に支社や工場を持つ事が
    当たり前となってきている。そうした中で、日本企業として国
    際競争力を維持・強化していくためには、どのような組織文化
    を持つべきなのか。従来通りの「職人染色型」と「擦り合わせ」
    でやっていくべきなのか。それともアメリカ型や中国型に変え
    ていくべきなのか?

     日本企業がアメリカ企業の真似をしようとしても、二流のア
    メリカ企業になってしまうだけで、それでは国際競争には勝て
    ない。

     逆に日本企業がアメリカや中国に工場を立ち上げ、20年ほ
    どもかけて現地人幹部社員を徹底的に染め上げて、日本流の組
    織文化を築き、立派な業績をあげている例も少なくない。そこ
    ではアメリカ型や中国型の組織文化を一部取り入れてはいるが、
    基本としての「職人染色型」と「擦り合わせ」は堅持している。

     グローバル競争を勝ち抜くには、他者に学びつつ自分の個性
    を磨き、それを強みとして発揮していくという戦略性が必要で
    ある。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(526) 御手洗富士夫の和魂洋才経営
    「日本人の魂である終身雇用を育てることが、競争力の源泉」
b. JOG(111) 盛田昭夫の "Made in JAPAN"
    自尊と連帯の精神による経営哲学 

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
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1. キャメル・ヤマモ
 『鷲の人、龍の人、桜の人 米中日のビジネス行動原理』★★
   集英社、H19
    

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