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■■ Japan On the Globe(554)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■ The Globe Now: 米中石油冷戦と日本の国策 石油をがぶ飲みする中国が、アメリカの 石油覇権に挑戦している ■転送歓迎■ H20.06.29 ■ 38,207 Copies ■ 2,880,897 Views■ ■1.石油をめぐる国益のぶつかり合いが激しくなる■ ガソリン価格が高騰している。多くのガソリン・スタンドで は1リットル170円台を突破し、7月には史上初の180円 台が見込まれている。 国際的な原油価格の高騰と円安のダブルパンチによるものだ が、前者は中国・インドなど新興国の需要増と、石油増産余力 の少ないこと、そしてこの需給ギャップを見込んだ投機資金流 入が原因である。投機資金の流れは市場心理や規制などで変わ る可能性があるが、実態としての需給ギャップは構造的・長期 的な問題である。 原油高騰は、家電製品・包装容器等に多用されるプラスチッ ク類、衣類に用いられる化学繊維など広範囲の石油化学製品の 価格高騰を招く。同時にガソリン価格の高騰は、輸送費・交通 費の上昇に直結し、広範囲に物価を押し上げる。 石油は各国経済の土台をなすだけに、石油をめぐる各国の国 益のぶつかり合いは激しさを増すだろう。その象徴が、世界の 石油支配を覇権の切り札にしてきたアメリカと、石油をがぶ飲 みして経済発展を続けてきた中国の激突である。 ■2.加速する石油消費量増加■ 米国エネルギー省の2005年2月3日付け発表によれば、世界 の石油消費量は現在の一日8200万バレルから、2025年には1億 2500万バレルへと、50%以上増える。 多くの地質学者は、現在の技術では1日の石油産出量は1億 バレルがせいぜいであり、1億2500万バレルを掘り出すには、 新しい技術と膨大な資金が必要だと考えている。 もちろん今後20年の間には、石油採掘技術も進むだろう。 問題は、需要増大のスピードに供給拡大のスピードが追いつく かどうかである。 石油消費量の増加ぶりは近年加速している。1977年に一日 6千万バレルだった石油消費量が、7千万バレルに到達したの は1995年で18年かかっている。それが8千万バレルになった のは2003年で、8年しかかかっていない。さらに9千万バレル に達するには、4,5年しかかからない、と専門家は見ている。 [1,p22] この加速する石油消費量の増加は、主にアメリカと中国によ るものである。 ■3.石油をがぶ飲みする「世界の工場」■ 中国の石油消費は2004年時点で、日量670万バレル(世界シェ ア8.3%)と、米国に次ぐ世界第2位である。前年からの増 加は約90万バレルと年率15%もの伸びで、同年の世界の消 費量増加の36%を占めている。アメリカの増加量シェアは、 20%で、二カ国で世界の増加量の6割近くを占めていること になる。[2] 問題なのは、中国のエネルギー効率がきわめて悪いことだ。 GDP(国内総生産)100万ドルを産出するのに、中国は 1600バレルを必要としているが、これは米国の約2倍、日 本の約4倍もの消費量である。しかもこのエネルギー効率は近 年、それほど改善されていない。 日本のエネルギー効率の高さは、石油ショック以来、現場の きめ細かな改善活動や省エネ設備の導入などで、営々と築き上 げてきたもので、一朝一夕に中国がコピーできるものではない。 中国はその人件費の安さから「世界の工場」として製造業を 急速に発展させてきたが、それはエネルギーをがぶ飲みする、 極めて効率の悪い「工場」なのである。エネルギー・コストが 大幅上昇するにつれて、人件費の安さは相殺され、中国製造業 の国際競争力は失われていくだろう。 それでも中国は今後も石油に頼らざるを得ない。中国のエネ ルギー源の三分の2は石炭だが、煤煙を取り除く技術・設備の 遅れから大気汚染は深刻な状況となっており、これ以上石炭に は頼れない。 また安くて公害の少ない天然ガスは、ガス化装置、輸送パイ プライン、貯蔵施設などの整備がほとんどできておらず、天然 ガスへの大規模な転換には、膨大な投資と時間がかかる。 結局、中国は経済発展を続けるためには、高い石油のがぶ飲 みを続けなければならないのである。 ■4.中東への侵出■ その中国は石油を求めて、世界各地でアメリカとの対決を始 めている。イラン、クウェート、サウジアラビアへの接近につ いては [a]で述べたが、ここで少し補足しておこう。 中国はイランから大量の石油を輸入している。その見返りに、 イランに原子力発電を中心とした核技術の輸出をしている。核 兵器やミサイルの技術も売っていると、CIAは疑っている。 イランの核開発疑惑に対して、2004年に国連の安全保障理事 会が現地査察を含めて干渉しようとした時には、中国は常任理 事国の特権を利用してこれを妨害し、その代償としてイランと の大量の石油取引契約を結んでいる。 中国は同時に世界最大の石油埋蔵量を誇るサウジアラビアに 触手を伸ばしている。いつのまにかに国立石油企業サウジ・ア ラコムの株を20%取得し、共同でサウジアラビア国内で製油 施設を作ることになったという。さらに天然資源開発のための 共同事業を開始した。アメリカが同様な提案をした際には、サ ウジアラビアは色よい返事をしなかった。 サウジアラビアは親米国であり、アメリカの聖域だと言われ ていたが、いまや中国寄りに傾きつつある。その原因は、中国 による兵器の供給であると言われている。 イランはイスラム原理主義者たちによる独裁体制であり、サ ウジアラビアも王家による独裁下にある。両国が、自由民主主 義国家のアメリカよりも、共産党独裁国家の中国に親しみを感 じるのは、体質的にごく自然なことなのである。 アメリカの引き起こしたイラク戦争は失敗だったと言われて いるが、中東の石油産出国でアメリカの覇権下にあるのは、イ ラクとクウェートだけである。フセイン体制がまだ続いていた ら、中東全域が中国よりの独裁体制になっていたはずだ。 ■5.「アメリカの裏庭」中南米へも■ 南米は「アメリカの裏庭」と言われてきた。アメリカがベネ ズエラから輸入する原油は、日量120万バレル、石油輸入総 額の12.4%で、カナダ、サウジアラビアに次いで第3位と なっている。 しかし、ベネズエラは世界最大の麻薬密輸国であり、麻薬マ フィアが政治も経済も取り仕切っている。アメリカの情報機関 は、チャベス大統領自身も麻薬組織に関係していると考えてい る。アメリカは麻薬コネクションを野放しにしているチャベス 大統領を許せないと考えている。 ベネズエラ国内では、反大統領派が勢力を広げて内戦状態が 長く続いているが、アメリカは反体制派を助け、軍事力で介入 する姿勢をとり続けてきた。 こうしたアメリカとベネズエラとの確執を見て、中国はすか さず間に入ってきた。2005年、中国の石油会社がベネズエラ国 内で油田を開発し、製油施設を建設するという契約をチャベス 大統領と結んだ。そこから一日12万バレルを中国に輸出する というのである。 しかし中国のタンカーは大きすぎてパナマ運河を通れない。 そこでコロンビアの太平洋側の港まで、石油パイプを敷設する 契約をコロンビア政府と結んだ。 同時に、中国はもともと共産主義者であるカストロ政権と契 約し、キューバでの製油業に乗り出すことになった。また腐敗 したエクアドル政府とも契約して、石油採掘を行うこととした。 さらに民主主義勢力を弾圧しているペルー政府とも覚書を締結 し、石油・天然ガス建設についての技術援助と資金提供を申し 出ている。 こうして見ると、中国は中南米の腐敗した政府を支援するこ とによって、石油を手に入れようとしているのである。 ■6.スーダン独裁政府の陰のパトロン■ 中国が独裁国家に接近して石油を得ようとする動きは、アフ リカでも見られる。 中国が輸入する石油の7%がスーダンから来ている。中国は 積極的にスーダンでの油田開発に協力し、パイプライン建設に 多大な資本投下を行っている。紅海に至る1400キロのパイ プライン建設では、この工事に投資しただけでなく、労働者を 装った兵士を多数投入している。 スーダンではこの20年間、内戦が続いており、大量虐殺も 起こしている。そのスーダン政府に中国は武器を売り、それと 引き換えに石油を輸入しているのである。 2004年9月、国連の安全保障理事会はスーダン政府が凶悪な 軍事勢力を支援することをやめない場合には経済制裁を行うと 決議した。アメリカの議会関係者の情報によれば、中国はスー ダン政府などに対して、「(常任理事国としての)拒否権を使っ て、(経済制裁の)国連決議をつぶしてしまうから」と述べて、 見返りに石油の提供を求めている、という。 スーダン政府の国民虐殺は世界中から非難されているが、そ の陰のパトロンになっているのが中国なのである。欧米諸国を 中心に、北京オリンピック・ボイコットの声が上がっているの は、このためである。 ■7.中央アジアを「中国のエネルギー供給基地」とする戦略■ 中国は中央アジアでも暗躍している。カザフスタンとウズベ キスタンは石油資源、天然ガスに恵まれた地帯である。両国に はアフガニスタンなどから潜入したイスラム過激派アルカイダ が政府転覆を謀っていると言われ、そのため従来、両国はアメ リカのテロリストとの戦いに協力し、同時に石油や天然ガスを 輸出する約束をしていたのだが、そこに中国が介入したのであ る。 中国はカザフスタンとは戦略同盟協定を結び、中国への石油 と天然ガスのパイプラインを作る構想を推し進めている。 ウズベキスタンは、アフガニスタンへの攻撃用にアメリカの 空軍基地を作らせることに同意していた。だが、2005年5月、 ウズベキスタンのイスラム・カリモフ大統領が、民主選挙を求 めて立ち上がった民衆数百人を虐殺した事から、アメリカとの 関係がこじれていく。これはアメリカ側が親米的な民主政府を 作ろうとする工作であった、と言われている。[a] アメリカはじめ世界各国はカリモフ大統領を非難し、国際的 な調査を要求した。ところが中国は直ちにカリモフ大統領を支 持し、民衆虐殺をテロリストに対する戦いとして、国際的な調 査に反対する声明を発表した。その数日後、ウズベキスタンか ら中国に約6億ドルのエネルギーを提供するという条約が結ば れたのである。 中央アジアからアメリカを追い出し、「中国へのエネルギー 供給基地」とする戦略は着々と成功しつつある。 ■8.米中石油冷戦が始まっている■ こうして見ると、中国が中東、南米、アフリカ、中央アジア などの独裁政権に接近し、武器を与え、国連常任理事国として の庇護を提供して、見返りに石油を購入するという明確な戦略 が見て取れる。それはアメリカの世界戦略へのあからさまな挑 戦なのである。 2005年7月21日、22日にわたって、アメリカの上下両院 合同で、中国のエネルギー政策に関する公聴会が開かれた。中 国のCNOOC(中国海洋石油公司)によるアメリカの石油企 業ウノカル買収の動きが表面化し、米議会は、これを中国によ るアメリカのエネルギー戦略への挑戦と激怒して、この日の公 聴会となったのである。 この公聴会では、エネルギー専門家が上述のような事実を報 告した。それらの意見をまとめると次のような結論となる。 [1,p17] ・中国は、世界各地で石油を確保する努力を続けている。 石油をめぐって世界のあらゆる地点でアメリカと対決を 始めている。 ・中国が海軍力をはじめ、核戦力を強化しているのは、将 来起きている石油危機に備えてアメリカと対決しても石 油を確保したいと考えているからである。 石油を巡る米中の冷戦がすでに始まっているのである。 ■9.「危機」を「好機」に変える国策■ 迫り来るエネルギー危機、および、それを前にした米中石油 冷戦にわが国はいかに対応すべきか。日米同盟を基軸として、 中国の膨張政策に歯止めをかける事が、当面の戦略であろう。 さらに「危機」を「好機」に変え、国家の繁栄と独立、そし て世界の平和と安定を守るための国策がある。代替エネルギー の開発である。 太陽光発電、燃料電池、電気自動車など、石油に依存しない エネルギー開発で日本は世界をリードしている。また日本近海 に大量に存在する「燃える氷」メタン・ハイドレートは、現在 の天然ガス消費量の百年分はあるとされる[b]。さらに海藻類 や糞尿・下水道汚泥、食品廃棄物などをバイオガスとして再利 用するリサイクル技術の開発も進んでいる[c]。 こうした代替エネルギー利用のネックは石油対比のコスト高 にあるが、技術進歩によるコスト低下と原油価格の急騰によっ て、急速に実用的な水準に近づいていくだろう。 わが国が高価な石油に依存せず、地球環境にも優しい次世代 エネルギー技術を確立できた時、効率の悪い高価な石油エネル ギーを使い、公害をまき散らしながら生産と消費を続けざるを 得ない国々は、一挙に国際競争力を失ってしまう。 米国の石油覇権、および中国が世界的に展開している原油開 発投資は意味を失い、米中石油冷戦も雲散霧消してしまうだろ う。 (文責:伊勢雅臣) ■リンク■ a. JOG(515) 石油で読み解く覇権争い 北野幸伯著『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』を読む b. Wing(1337) 先端技術でエネルギー安全保障 c. Wing(1124) 世界を江戸化するバイオマス活用技術 ■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け) →アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。 1. 日高義樹『米中石油戦争がはじまった』★★★、PHP研究所、 H18 2. UFJ総合研究所 「中国ビジネスレポート No.31 世界第2位の石油消費国・中国の石油事情」 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ■「米中石油冷戦と日本の国策」に寄せられたおたより 大場さんより 国際派日本人養成講座を毎回感動しながら拝読しております。 具体例を示しつつ 日本人の素晴らしさを教えて戴き心より 感謝しています。 日本人に生まれたことに誇りを持つができ ました。 さて 6月29日付 「米中石油冷戦と日本の国策」を拝読い たしました。この中で サウジアラムコに関する記載が有りま すが、事実と異なると思いますので指摘したいと存じます。 小生は 現在も 商社に勤めアラムコ向けプラント商談を追いか けております事から アラムコ関連情報にも多く接しておりま す。下名の認識は以下の通りです。 アラムコは国営石油の立場から 一切株式は発行しておらず、 従而20%の株を取得することもありません。 又 アラムコでは 現在 サウジ国内で3件の製油所の新設案件が有りますが、 い ずれも ConocoPhillips (米)、Total (仏)、 Dow Chemical (米) との Joint Venture で 中国資本は入っており ません (既設の製油所に中国資本が入っているということは ありません)。唯一 中国の SINOPEC 社とアラムコ社が 80% / 20% の出資でサウジ国内で一部のガス田開発を実施しておる程 度です(余り成功していない模様)。勿論、これも 将来のサウ ジにおける権益狙いであることは間違いないと思います。 ■ 編集長・伊勢雅臣より ご指摘ありがとうございました。前号の「国立石油企業サウ ジ・アラコムの株を20%取得し、共同でサウジアラビア国内 で製油施設を作ることになった」との文面は、上記の「中国の SINOPEC 社とアラムコ社の共同出資」の間違いのようですね。© 平成20年 [伊勢雅臣]. All rights reserved.