5月31日  謎の発光物体

朝の散歩でも通った川沿いの道、夜来て見ると、通れないくらい人間がいっぱい橋の上にいるんだ。「ここはボクの大事な散歩コースなんだ、何してるんだ」とボクは侵入者達にワンワン吠えかかった。ママは「すみません、すみません。。。」とペコペコ謝りながらボクを土手の方へ引っ張って行く。ボクは悪いことしてないぞ、、と引っ張られながら草むらに頭をつっこんで抵抗体制に入った時、草を通して見える川面に、黄色い光がふわふわ飛んでいるのが見えた。

むむむ、、何だ!ナンダ!ママは「きれいねー」とカメラを取り出した。きれいだって?ボクには怪しい不気味なヤツにしか見えない。またワンワンと吠えた。「はい、とっぽの耳飾り」と言ってママは草むらから、その黄色い光を取り上げてボクの頭にのせた。やめてよ、怖いんだって!ボクがすぐにブルブルと体を振ったのでその黄色い光はぽとりと地面に落ちた。クンクン鼻を近づけたら突然舞い上がって顔をかすめて暗い夜空へ消えていった。

「あらら、ホタルさん逃げていったよ。とっぽホタルさんが怖いの?」ホタルというのか、あの怪しいヤツは!ここにいる大勢の人間も、ホタルが連れてきたらしい。ママまでホタルの魔力に操られそうだ。早く帰ろう、とボクはワンワン訴えた。「明日はパパも連れてこようね」とママは言ったけど、ボクはいつものように静かな散歩がしたいんだよ

6月1日  ボクも好きだよ!

今夜は、にわか雨が降ったせいか、ホタルの橋には誰もいなくて、ボクもイライラする事なく川を眺める事ができた。こうして見るとママがうっとりするのも納得の景色じゃないか。川の中にクリスマスツリーの飾りを敷き詰めたみたい。と言ってもきらびやかな明るさではなく、ほんのりとした黄色い光が草むらの中で点滅し、ほわーっと浮かび上がってボクの方へ近づいて来たりする。それは、あの光が生きている証拠だ。ママもボクも黙って静かに光を見つめていた。

 帰り道ママが「これやから此処を離れられへんね」と言った。ボクの住む町は山すそにあり、ママはボクをよく山に連れてってくれる。人の誰もいない林の中でも、ボクと一緒なら怖くないと、どんどん奥にはいっていく。時々不思議な生き物の気配を感じたり、きれいな鳥の声に大きな耳を向けてみる。子連れの猿を遠くから見ていたらボスザルが出てきてボクに襲いかかった事もあった。お兄ちゃんが家の前でシカを見つけた時には、そのまま町中に下りて行ったのでは、と心配で、ママと一緒にシカの匂いを追いかけた。途中でおまわりさんに聞いたら「市役所の人が山にもどしましたよ」と教えてくれてホッとしたよ。

 ボクは家の中ではずっとハウスに入っている。これは友達からみれば「特別な暮らし」に思うだろう。でもママが連れて行ってくれる美しい自然の中の散歩も、街の友達には出来ない「特別な暮らし」なんだ。だからボクは友達と比べて不幸だなんて思った事は無い。 明日はヘビイチゴを探しに行こうって。ボクも此処が大好きだよ!