11月13日  星が降る日
車に乗ったときに流れてくる音楽が今日から変わったんだ。さっきママが「ちょっと待っててね!」と走ってお店に入って行って戻ってくるやいなや箱をあけて聞き出した。運転しながらママはなんだかすごく嬉しそう。流れてくるどの曲もどの曲も、一緒に歌ってる。ボクはキャリーの細い窓からママの横顔をじっと見てた。懐かしそうに目を細めたり、逆に眉をしかめてみたり、、ママは何かとても楽しかったことや、とても悲しかったことを思い出してるみたいだ。

はっきり言ってママの鼻歌はちっとも上手じゃないけど、曲にあわせて”トントン”キャリーの屋根を叩いてくれて、ボクも赤ちゃんのころみたいな懐かしい気持ちになって、子守唄聴いてるみたいだ。なのに「なあ、とっぽ!あんたもそう思うやろ!」なんて突然意味不明に話し掛けてきたりして、飛び起きるボク。今流れてる歌にはどんな思い出が詰まってるんだろう。

これからしばらくはこの音楽ばかり聴くことになりそうだ。それならボクもこの音楽が流れた時に思い出すことのできる楽しいことを いっぱいいっぱい積み重ねていくんだ。ママと一緒に、パパやお兄ちゃんやお姉ちゃんと一緒に!

「そういうば、あと4日後に流れ星がいっぱい降るねんで!」ママがまた思い出したようにボクに話し掛けてる。お星様が降ってくるの?散歩の時に探そうね、いつもの公園から見えたらいいね。

あれあれ、また鼻歌が始まった。。。。
今度こそボクは”おやすみなさーい。”

         
72年  10月9日
         あなたの電話が少ないことに慣れてく
         私はひとりぼんやり待った

         
遠くよこぎる流星群


                         
    words&music:Yumi Matsutoya


11月19日午前2時  悲しいほど、、曇り空
ママに呼び起こされた。なになに?今からお散歩?ママは分厚いコート姿。ボクを抱っこしてそーっとドアを開けて、そーっと階段を降りて一体どこへ行くの?

夜の散歩でも来た陸橋の上。ママはため息をついた。「さっきは晴れてお星さまいっぱい見えてたのにね、、、」。ああ、そうか、この前ママが言ってた星が降ってくる日だんだ。「あかんわ、、とっぽ。帰ろっか、、」とママは残念そう。ボクならいいんだよ、どうせボクの目ではお星さま見えないし、寒いから帰ろうよ。「あーあ、がっかり。。」何度も空を見上げながらボクとママはおうちに戻ってきた。

でも、ボク楽しかったよ。夜中に散歩に行けて。ママがボクを連れていったのはボクに流れ星を見せるためじゃないのはわかってる。ボクとママの思い出を作ってくれてるんでしょう。いつかボクは家族より先にお星さまになってしまうんでしょう。でも、また何年も何年も先に今日みたいにお星さまが流れる日、ボクはママの上に降ってくるんだ。ママにはボクが見つけられなくても、ママの横でお座りして一緒に空を見上げていたボクを必ず思い出してくれるんだ。

大丈夫、またこんな機会はきっと来るから。ほらほら、明日も朝早いんだから、早く寝ようね。朝のニュースを楽しみにして。
11月20日  星が運んだもの
昨日は残念だった。ボクたちが帰ったあと3時過ぎから雲が晴れて感動的な流星群を見ることができたんだ。ママは人からその話を聞くたびうなだれてため息ついていたよ。「とっぽ残念やったなあ、次くるのは30年後、、、」そこまで言ってママがボクを見つめた。

でも、実はお星さまは素敵なことをママに運んでいてくれたんだ。もうすぐ昔のお友達と久しぶりに集まりがあって、ママがお世話役をしてるんだ。そのお返事の締切日が今日だったんだけど、ママのパソコンには懐かしい人からのメールが、お星さまのようにたくさん飛び込んできたんだよ。感激やさんのママはうるうるして、来る人にも来ない人にもお返事を書いている。おーい、お散歩忘れてないかーーって吠えようかとも思うけどもうちょっと待ってあげよう。

ママがあんなに楽しみにしていた流星は見れなかったけど、ちゃんと願いは叶ったんだよ。良かったね!
「02年11月19日しし座流星群」はこうして、ママとボクのかけがえないのない思い出になった。
           
          
 淋しくなるとまた来るかしら
           光る尾を引く 流星群