英語落語
                   ふ た り の 旅 は ・ ・ ・
                       4日間連続公演
 「せんせい、コップ返してください。」「英語落語するって言ったら返す。」「英語落語します・・・」・・・これが、ジェニファーが英語落語をするきっかけとなったことであるらしい。8月終わりの「桃山合宿」で、同じ班になった僕がソフトボールをしているとき、上記の言葉を言ったらしい。ちなみにジェニファーは桃山学院高校2年の男子生徒である。その名は合宿で先輩たちが彼につけたニックネーム。1週間ほど前にこの名前が女性のものであることに気づいた。
 2000年11月23日(木)に京都の龍谷大学で京都私学フェステバルがあり、そのイベントのひとつとして演じることになった。9月のはじめに京都の先生から僕に「どうですか?」という話があり、僕だけじゃなくて生徒もいっしょに、と伝えると快諾していただき、ジェニファーと僕がデビューすることになった。
 その4日前、月曜日の放課後にたまたま部屋に居合わせた先生と生徒を前にしてジェニファーに演じてもらうことになった。ところが、それまで覚えていたものがとんでしまい、「頭の中が真っ白になった。家の風呂では完璧やったんやけど。」と言う。涙を流しているジェニファー。どうしたものかと考え込む僕。「半分でもいいよ。それから、カンニングペーパーを見ながらでもいいよ。やろうとする姿勢を見せてくれるだけで十分。」気をとりなおして、ジェニファーは「今日、家でもういちど、練習してきます。」
 火曜日には、学校の和室で、本番のようにして行った。2人の先生と2人の生徒の前で。まず、ジェニファーが「WONDERFUL JAPAN」をして、途中のところで彼が僕を呼んで、「この先生にやってと頼まれたんですが、その話、3日前なんですわ。」「3日前?長い3日前やなあ。」「へへへ、それで、このあとの続きは先生にやってもらおうと思ってるんです。」そういうやり取りをして僕が演じた。「ひとつの落語を生徒と先生で作り上げる、これぞまさしく愛ですよね。おっとっとそこの人涙を見せないで・・・」などと言いながら。
 水曜日には大阪の青年の先生約15人の前で演じることになっていた。1ヶ月ほど前に「出演依頼」があり23日のまさしくリハーサルとなるものだった。会議の前のウオーミングアップにということで、なごやかな雰囲気のなか、よく笑う英語の女性の先生が最前列にすわり和らいだ感じで始まった。最初は僕の「WHITE LION」その女性の先生だけでなくほとんどの先生方が笑ってくれている。そして次にジェニファーが。なんと「まくら」もした。まくらはものまね。坂東英二・田中邦衛・デーモン小暮など。なかなかのものであった。そして、火曜日のように途中で僕と交替した。終了後何人かが感想や質問などをしてジェニファーに「がんばって続けてね。」というあったかい言葉をくださった。最後に一番似ている「ものまね」をジェニファーが披露してお開きとなった。期せずして交通費をいただき、それで、近所の豪華中華料理をがばがばごぼごぼ食ったのは言うまでもなかった。もちろんふたりで。
 本番は、龍谷大学顕真館というところ。入ってびっくり、厳かな雰囲気。そこでは、プロの落語家3人が「正しい落語」を演じている。お客さんはたったの10人。ちょうどそのとき「大平光代さん」という今をときめく女性の講演会が同時に行われていて99.999%はそちらに行っていた。500人は収容できる立派なホール。舞台の奥には縦書きで「南無阿弥陀仏」と迫力一杯に書かれてある。このあとで僕らが演じるの?控え室も学長室?と思うくらいの部屋に通された。腕組みして「うーーーん」とうなるしかないのであった。ちらっと、ジェニファーに目をやると不敵な笑みを浮かべながら「緊張してきたけど、わくわくしますねえ」と。おいおいおい、月曜日の涙はどこへいったの?本番30分前に着替える。ジェニファーは僕がどこかのホテルに泊まったときにたまたまかばんに入っていた浴衣。これがまた、小さい。彼はかなりでかい!つまりあふれんばかりの肉体をぎゅうぎゅうと押し込んで「衣装」にしている。見れば見るほど笑える。僕は「正しい着物」。控え室で、お茶と菓子をいただきながら、めらめらと沸きあがってくる闘志を二人はしっかりと受け止めていた。「どんな少なくてもやってやろうじゃないの!」「本番でーす。」テープからのお囃子が流れるなか、舞台に出ていった。さすがにちょっと緊張する。お客さんは20人くらい。見渡すと知り合いが2人もいる。その二人を見ながら演じた。僕のはいつもどおり。ジェニファーも水曜日のような感じであった。でも、彼は「まくら」をしなかった。ちょっと恥ずかしかったらしい。
 立派過ぎるホール。そこに10人。「英語落語」が目当ての人2人。お客さんの反応がこちらからはわからない。・・・こういったなかで演じることの辛さ。うううん、いい勉強をさせてもらった。ぼくの知り合いが控え室に来てくれていろいろとお話。4人で京都三条に出て晩秋の古都を歩きコーヒーを友にして語りあった。ジェニファーはどうやら本格的にマスターすることにしたらしい。どうもどうもありがとう。
 ジェニファーと僕との英語落語。これはまさしく「旅」。
 そう、「二人の旅」は、始まったばかり。
     
                             ちょっと本気になろうかな、って冬将軍がのたまう季節に
  2000年11月30日                  たなかえいじ