新英語教育研究会
第51回全国大会 京都大会プレ大会 まとめ
 
 2014年度新英語教育研究会全国大会が8月2日(土)〜4日(月)の3日間、京都において開催されます。そのプレ大会が6月28日(土)に実施されました。会場は本大会と同じく同志社中学校。ICT環境の整った環境の中で、小・中・高校それぞれの実践レポートに加え、和歌山大学江利川春雄先生の講演と盛りだくさんな内容でした。プレ大会全体を通じて、英語教育の現状と問題点は何か、本来英語教育が目指すべき目的は何か、様々な困難がある現状の中で具体的のどのような方法で授業を組み立てればよいか。そんなことを参加者みんなで考えることのできる一日となりました。以下に具体的な内容を報告します。
 
◎レポートT 「元海兵隊員アレン・ネルソンが語る戦争と平和を学ぶ」
京都府立乙訓高等学校 西田陽子
 共通進度・共通テストの制約や「受験に役立つ英語」の要求の中で、生徒に読ませたい教材、考えさせたい内容をどのように入れていくか。その一つの方法として、夏休みの課題としてブックレット「アレン・ネルソンの戦争論」からいくつかの章を抜粋して読ませるとともに、完成したばかりのDVDを授業1時間を使って見せ、レポートを書かせるという実践。若手の教職員も含めて、ベトナム戦争や第二次世界大戦中のホロコーストについてほとんど知らないという現状の下、平和な社会を実現する主体者となること、批判的に物事を見て容易にだまされないようにすること、多様性を尊重し人も自分もも大切にできること。そんな教育目標を念頭に置いての実践だった。

■参加者の感想より■
・わずかな時間でしたが久しぶりに研究会に出させていただきました。西田先生の発表はわかりやすく、若い先生たちに大いに役立つと思いました。
 
◎レポートU 「映画のトレーラーに日本語字幕をつける」
大阪府立交野高等学校 吉浦潤次/松葉幸生
 選択科目「リスニング演習」の中での取り組み。映画「インビクタス」のトレーラーに日本語字幕をつけるのが課題。3年生の1,2学期にリスニングの理論・実践を学んだあと、3学期に45分の授業4回を使って字幕を考え、5回目の授業で発表。生徒は4人グループになり、各自がipadを持ちながらこの課題に取り組む。この実践は、@教材の内容が平和・人権学習に深く関わる内容を持っていること、Aトレーラーに字幕をつけるという活動が生徒にとってはハードルが高くやりがいがあり、達成感の持てる課題なので、協同学習の良さが最大限に発揮されていることB日本語訳にこだわるのではなく、そこで話されている英語の意味に注目させる取り組みであること(それが本当のコミュニケーション力や英語力をつけることになる)、という3点で非常にすぐれている。取り組んでいる生徒の様子やできあがった作品がVTRで紹介されたが、生徒が生き生きと活動していて、できあがった作品も素晴らしかった。

■参加者の感想より■
・この授業では、生徒さんたちの達成感、目的を明確にした活動の大切さ、グループワークの意味、限られた時間内で表現する力の養成など様々な要素がちりばめられているのを感じました。一見難しそうに見える活動やゴールでも、指導者が工夫をすれば達成できるのだと勇気づけられました。
 
◎レポートV 「教科書を使うのが楽しくなる授業〜いろんなパターンで子どもたちを飽きさせない!〜
八尾市立曙川南中学校 牧野神奈
 教科書を基本にした指導であるが、様々なプリントを用いた帯学習を使いながら、あの手この手で生徒に迫る実践。すべての生徒を大切にし、苦手な子がついてこられる、そしてできる子も飽きさせない工夫の詰まった授業である。例えばプリントにあえて指示を書かずに口頭で指示することによって先走らせず、集中を高める。まず口頭で言えるようにしてから書かせる、など。牧野先生のちょっと「体育会系」でパワフルな授業の様子も映像で見せていただき、牧野先生自身が楽しんで授業をされていることがよく伝わる発表だった。
 また発表後の質疑応答の中で、「単語を100回書かせる」といった指導が効果的かどうかについて、短い時間の中であるが意見交流をした。

■参加者の感想より■
・ちょっとした心配りが単調なワンパターンの授業を変えますよね。感心です。若い先生方がたぶん一番苦心しておられるであろう教科書の扱い方にも工夫が見られました。悩んでいる先生方が「これならできるかも。やってみよう」と思える発表でした。牧野先生に勇気づけられる先生方が多いと思います。
 
◎記念講演「学校英語教育は誰のため、何のためにあるのか」
和歌山大学 江利川 春雄
 講演全体は@現状編A理念編B実践編の3つの編成からなり、途中には協同学習のワークショップが入るという構成だった。また出版されたばかりの4人組によるブックレット「学校英語教育は何のため?」も会場で販売され、参加者の人気を集めた。
 まず@現状編としては、政府の英語教育政策が1割のエリート育成を目的に行われており、最終的には「世界で戦う」人材を作ろうとしていること。その政策決定方法もまた驚くべきずさんさで、しっかりとした議論を経ないまま首相の私的諮問機関(英語の専門家は一人もいない)によって押し進められている。その結果ますます英語力は下がり英語嫌いが増え、家庭の経済格差が学力に反映するという、世界の流れに逆行する事態が生じている。A理念編として、本来の英語教育の目的が語られた。戦後確認されたように教育の目的は民主的人格形成にあり、外国語教育は実用的な面ばかりが強調されがちであるが、本来は人格形成に資するものであるということで、外国語教育の四目的を再確認した。B実践編として、協同学習を取り入れた授業をワークショップ形式で体験した。競争と格差では人は育たず、協同することによって全員が高まることができる。実際に協同学習に取り組む際のポイントとして、1グループの人数や構成、与えるべき課題のレベルなど具体的なアドバイスを交えてのワークショップを参加者みんなで楽しんで取り組んだ。まとめとして、我々は本来の英語教育の目的をしっかりと押さえながら豊かな実践に取り組むとともに、政府の暴走に対してはあらゆる手段を駆使してしっかりと声を上げていこうという確認をした。

■参加者の感想より■
・とてもわかりやすいお話で現在の教育改悪の問題点を伝えて下さいました。しんどい子を切り捨てない、繋がりを大切にした授業やその他の教育活動を行っていくことがたたかいになるのだと思い勇気づけられました。
・ストンと心に落ちる講演。改革して自分の実践をしていかねば、という意欲と、政府への批判の目を忘れないように、という思いを強くしました。
・「世界で戦う」に隠されたエリート教育の問題点や、実践してみてわかる協同の大切さを記憶にとどめ、来年の教育実習に向けて研鑽を続けていきます。(大学生)
・江利川先生の講演を聞いて、胸のすく思いがしました。
 
 ◎レポートW「ことばで伝え合いたい 小学校から始めよう〜わたし 友だち 世界 つながる体験〜」
京都・私立小学校 振本 ありさ
 「我が子を英語ペラペラにしてほしい」という保護者からの強い要望も受けながら、しっかりと系統立てられた中身の濃い授業を実践されている。週3回40分の授業を、「ことばの授業」2回、「文化の授業」1回に分けて実施。まず音声から入り、国語でローマ字を習う3年生から文字を導入。ヘボン式ローマ字を教えることによってフォニックスに無理なくつながっていくよう工夫されている。子どもたちが主体となって取り組むプロジェクト方の授業を展開しつつ、人とつながり世界へと目を向けていく力やもっと学びたいという意欲を育て、「人権」「平和」についても考えさせる。豊かで豊富な教材(例を挙げるなら谷川俊太郎の「ともだち」やTodd Parrの「Peace Book」など)を与えたり、スカイプを利用して海外の人とつながる体験をさせたりと、内容が幅広い。テストによる評価は行わず、一人一人に所見を書く方法で評価している。

■参加者の感想より■
・まず振本先生のことば(日本語)が正確、豊か、きれいで、ゆっくりと話され、教えておられる子どもたちはきっと英語力のみならず、日本語も知らず知らずのうちに学んでいるのだろうと思いました。私学特有の発表にとどまらず、公立の小中学校への配慮も含まれた発表で感心しました。「いつか伝えたい」気持ちをどう持続させるかがむずかしいですね。
・小学校でこのようなきらめきのある取り組みをされている分、そのあとしっかり中学校、高校で発展できるようにしたいと思います。
 
 丸一日のプレ大会でしたが、いずれのレポート・講演に関しても、まだまだ深めたいという気持ちが湧いてくるものばかり。一つの発表が終わるたびに、本大会ではどの分科会・ワークショップでどんな発表がされるかの紹介も入りました。本大会への意欲や期待が高まったのではないでしょうか。
 また江利川先生のブックレットだけでなく、関西ブロックが蓄積してきた様々な映像教材の紹介もあって、いずれも参加者の関心を呼んでいました。

■参加者の感想より■
・子どもたちにいろんな形でメッセージを送る授業をされている先生方の発表を、ありがたく聞かせていただきました。子どもたちの関心、集中力をどう引きつけるか、いろいろな工夫がされていてとても参考になりました。また人権問題にも言及されていたことにも深いものを感じました。
・どの先生も、魅力的な、生徒に愛情を注いでおられる授業の様子でした。ワークショップ形式で体験させていただきたかった。
・理論から実践まで、幅広く興味深いテーマについての話を聞くことができました。生徒を積極的に動かす仕掛け、グループ活動のアイディアは、今日いただいたご意見を参考に案を練り、実践に移していきたいと思いました。