『オッペルと象』
  昔小学生の時に教科書で読んだ記憶があります。 オッペルとオッベルの2種類の絵本があるのはこれいかに。 と、思っていたら、福武書店の木村昭平さんが描いた絵本の後ろに 木村さんが書かれていました。1926年が最初にある雑誌で発表されたときは 『オツベルと象』だったが、1934年に『オッペルと象』の名で出版され、 長い間その題名だったのだけれど、近来最初の”オツベル”に戻った。 でも木村さんの調べたところではオツベルはどの外国語にもないけれど、 オッペルの方はドイツ語のオッフェル(opfer)という語があり意味は「宗教的犠牲者」 だ。賢治は充分ドイツ語に詳しかったからオッフェルからオッペルにしたんじゃないだろうか。 だから木村さんの絵本は『オッペルと象』なのです。そして私も自分が読んだのは”オッペル” だったから、オッペル支持派なのです。  木村さんの絵本の「ある牛飼いがものがたる」という最初のところの絵に 思わず「わ、インドだ!」と思いました。青い顔に牛を従えて、インドの神様の絵を 連想した。構図が大胆です。何度か出てくる月の表情がおもしろいな、と思って見ていたら 象が碁をやっている場面で碁石(?)が三日月の形だったのでフフフと笑いそうに なりました。あとの解説も賢治の話を絵にするのはこんなに難しいんだな、ということが わかって興味深いです。 もう一冊の”オッペル”は源流社から出ている本橋英正さんの絵。西洋的な人物に風景。 象のお話にはしっくりこないと思うんだけどなあ。赤衣の童子と碁盤だけが妙に日本的で。 オッペルの帽子はアジアっぽいのかな、とも思うけど、納得のいかない1冊です。 『なめとこ山の熊』の本橋さんのはわりと好きなんだけどな。 今度は”オツベル”の方を2冊。 遠山繁年 偕成社  登場人物の服装、骨のつきでた牛、オッペルのモスクっぽい屋敷、こちらは インドをしっかり、描いているなと思います。油絵の具とキャンバスのタッチが 味わいぶかい。正統派って感じ。インド好きの私としては子どもと読むには この本かな。 小林敏也 パロル舎  版画風の絵の美しさったら!まず表紙をめくって、黄金色の中に飛び散る 籾殻が一気に絵本の世界に引き込みます。4ページびらーんと見開きになるところ や紙の材質にこだわった作りがしてあります。色使いはいたってシンプル。 その分要所要所で使ってある赤が効いています。映画『シンドラーのリスト』も モノクロの中で最後の赤が効いていたなあ、と思い出しました。 大人が絵を楽しむならこっちかな。  宮沢賢治絵童話集10(監修 天沢退二郎・萩原昌好)『グスコーブドリの伝記』の後半にも スズキコージさんの挿し絵で載っています。象は迫力があります。でも、赤い童子っておかっぱ頭の 女の子かなあ。