ウォーターバー
フォトエッセイ

No.008 くるくるボンボン?
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カミサンに連れられて足を踏み入れた池袋のキンカ堂。
所狭しと並べられた繊維/素材の中で、セクシーなおネエさまを夢想させるチャイナドレス生地と合わせて私を虜にしたのが”ピカチュウ”の編みぐるみ。

「ほ、欲しい!」

キュートなものには何にでも目がない私。
隣にはサンリオキャラの”ポムポムプリン”がおいしそうにぶら下がっており、私の購買意欲にドブドブと大量の油を注いでいる。
「編みぐるみは毛糸を編まなければならないよ」
小学生の頃に家庭科が得意だったくらいでは、とても太刀打ち出来そうもない。
枕にすれば気持ちのよさそうな”たれぱんだ”の編みぐるみに後ろ髪を引かれながら、それでも他に気軽に手に入るものはないかと物色。
手作りテディベアなど、思わず自分の作品が有名になりTVに出演している欧米のナントカおばさんを夢見てしまうようなコーナーが並ぶ。
「テディベアは布の裁断が必要」の一言でこれも断腸の思いに駆られつつも断念。
こうなるとガゼン熱を帯びてくるのが私の悪いクセ。
本来の目的はカミサンの買い物だったのではないのか?
そんなことを省みる暇もなく、目にとまったのが「ポンポンで出来たぬいぐるみ」。
これならば!大小のポンポンを毛糸で作成し組み合わせてぬいぐるみを作るのである。
どこかで見覚えがあると思ったら、女子高生がよくカバンにつけているフエルトの目鼻をつけた小さなマスコットと同じものか?
しかし、売られていたそれは高さ20センチくらい。
毛糸で作られていることはわかるものの、一体どうやって球形にするのかが想像できない。
パッケージを見ると「くるくるボンボン」というものが必要と書いてあるのだが、「くるくるボンボン」とは一体!?
「ウィスキーボンボン」や「金持ちのボンボン」くらいしかボキャブラリーのない私はすっかり混乱した。
「これを使えばいいのよ」と差し出されたそれは、プラスチックスの輪。
大小様々なサイズのものがあり、手錠のように輪が開く。これを使ってどうやったらポンポン(正式名称ボンボン?)が出来るのだ?
ひとり想像している間にいつの間にかカミサンが素早く購入してしまった。
よくわからないままに作成することになったのは「トリノス犬」。
そんな犬の種類があったのか?と不思議に思って見ると、他に「リンゴ犬」があってアフロヘアにリンゴを2つぶら下げている。
買ったやつは小鳥が2匹アフロヘアに入っているので「トリノス犬」ということらしい。
ネーミングが安易だ。
その前に、今思えば「犬がアフロヘアであること」に何の抵抗もない自分が怖い。

帰宅して早速製作に取り掛かる。
作り方は至って簡単。
「くるくるボンボン」でボンボンを作って大小のボンボンをそれぞれ頭、顔、胴体、手足に見立てて毛糸で結び、目鼻をつけてはさみで形を整えるだけ。
最大の疑問であった「くるくるボンボン」の使い方は、輪の留め金を外し、同じ大きさのものを2つ重ねて手錠をかけるように持ち、毛糸を幾重にも巻く。
その後再度輪の形にして留め金をかけ、重ね合わせの部分の毛糸にハサミを入れると輪の大きさにボンボンが出来上がるという仕組みである。
これにフエルトの目鼻をつけ、糸で可愛らしい口をつけるのであるがなかなか難しい。
糸が長すぎて、口ではなく「伸びきった鼻毛」にしか見えない。
胴体の形を整えるのもことのほか難しく、毛糸を切りすぎて「皮をむきすぎたジャガイモ」のようになる一幕もあった。
それにしてもいい年をしたオヤジがひとり、ハサミを片手に毛糸を整えている図はなんとも侘しい感じがする。
それでも最後に鳥を頭に添えてやって無事完成。
「はじめてにしては満足の行く出来栄え」と自画自賛しながら、あまった毛糸で他にも何か作ってやろうとヤル気になっている自分がますます恐ろしい。
止めんでもいいのか、奥様。
←出来上がった「トリノス犬」

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