ウォーターバー
フォトエッセイ

No.015 花見
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早春、とでも言うのだろうか。
つい先日まで手放せないでいたコートが、急に暑苦しくなった。
今年は桜の咲くのも早い。
通勤途上で通り抜ける日比谷公園の桜も、まだ春分にもかかわらず、
はや満開となりそうな様相を見せている。



「そろそろ梅でも見に行くか」と季節はずれなことを平気で口にし
失笑を買っている私は、それでも季節の変わり目には人並みにきちんと風邪をひく。
不覚にも数日寝込んでしまった。

毎年かわらず花が咲き
毎年かわらず風邪をひく

咲く花は同じに見えてその実去年の花とは違う、と古人は言った。
日々花を愛でる余裕ももたない私には、その風情をいまだ肌で感じるまでには至らない。
しかしだからこそ、せめてこの時期くらいは花見をしようと考える。
桜花の散りはじめるこの時期、人ごみは外して花見をする。
人に酔わずに花に酔い、酒に酔い、春風が吹く宵。
ここにも、人生の疲れを癒す刻がある。

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