管楽器奏者の歯のためのページ

アダプターなどの処置



管楽器奏者を吹くのに歯並びが良いにこしたことはありません
しかし、そう簡単には歯並びを良くすることはできません
そこで、一般的に行われる歯科治療・矯正治療以外の方法で
楽器演奏に条件の良い状態を作りだす方法をまとめてみました

目的としては

・口唇粘膜に当たる歯面をスムーズにする
 モ出っ張った部分や鋭利な部分で口唇粘膜に傷ができたりバテるのを防ぐ
 モ凹んでいる部分で空気が漏れることを防ぐ
 モしっかり楽器をくわえることができ音量が出る・音質が変わる(リード木管楽器)
 モ口唇が均等に振動するようになる(金管楽器)

・左右対象の歯並びにする、あるいは上下の歯の関係を変える
 モ楽器を当てる(くわえる)位置や方向を改善する
 モ効率の良い筋肉活動や空気の流れを得ることができる


1)いわゆるアダプター

アダプターは歯に取り外しのできる補助装置をつけ、楽器演奏に適合させるものです。
M.M.Poterが1953年にレジン製のリップシールド(下の前歯を覆い、クラリネットの演奏の補助装置となっている)を発表しており、これが文献的に最初のアダプターと思われます。

製作方法は、まず、歯の型を取り模型を作ります。それに即時重合レジン(粉と液を混ぜると固まる歯科用の樹脂)を盛り、形を整え研磨します。
実際に口の中につけて楽器を演奏してもらい、調整を行います。その後1〜2週間使用してもらい、必要があれば再度調整します。
デザインは歯並びと目的によります。上にいれる場合・下にいれる場合、また前歯でなく奥歯にいれる場合もあるでしょう。
材料は、通常即時重合レジンを使いますが、多少弾力のある軟性レジンを用いたほうがよい場合もあります。ただ、レジンでは薄いと割れやすくかけてくることがあります。特に薄く作る場合は、金属を鋳造して作るとよいでしょう。

アダプターの例(1)

19歳のホルンを勉強している学生さんです。

特に右上の前歯に凸凹があります。1番目の歯がねじれて前に出ており、2番目の歯が内側にあります。
最初はこの2番目の歯の部分で息が漏れて大きい音が出ないのを改善するためにアダプターを作りました。

アンブシャーの特徴としては、口角(唇の両わき)が下がりヘの字口になり、マウスパイプの角度もかなり下を向いていました。

(写真が模型でわかりにくくてスミマセン)

途中デザインを変更し調整を重ね、これでほぼ満足の行くものになりました。
切れ込みの部分は、一番飛び出ていた部分で、この部分は歯自体を削りました。

真ん中に切れ込みを入れました。いわゆるメディアン・スペースの再現により、空気の流れがスムーズになります。(もともとの歯並びでも上の前歯がハの字に開き隙間となっていました。)

アダフターを使用した結果、本人によれば、音のむらがなくなり(雑音が無くなり上唇が均等によく振動するようになった)、バテなくなったということです。
アンブシャーも、下がっていた口角が上がり筋肉のバランスが取れてきました。

右はアダプターを入れた状態の模型です。左右対称になっているのがわかります。


2)切歯カバー

歯に被せる薄いカバーです。
熱で軟らかくなるプラスチックの薄い板が楽器店等で市販されていますが、歯科医院では、ピッタリした長持ちする物を作れます。

製作方法は、まず、歯の型を取り模型を作ります。吸引形成器にて専用のシートを加熱し模型に圧接します。模型をはずし、切り取ります。
実際に口の中につけて楽器を演奏してもらい、大きさ等調整を行います。シートの選択により厚さを変えることができます。薄い程違和感が少なくて良いようですが、目的によっては厚い必要があるかもしれません。
シートには様々な硬さの物がありますが、多少弾力のある物の方がよいと思います。
前歯の切縁(先の部分)の角をカバーして、口唇粘膜を保護するのに役立ちます。


吸引形成器に模型をセットします。
下の前歯用を作ります。

シートを模型に圧接したところです。シートは0.9mm厚の軟らかい物を使用しました。これを必要な大きさに整えます。

写真だとわかりにくいですが、歯の形をした薄い透明の膜ができあがりました。出来上がりの厚さは0.2mmです。


3)歯の切削

歯が磨り減ったり歯がかけてしまって角が鋭利になっているときは、ほんの少し削って丸めるだけでも効果があります。

また、歯並びが悪く出ている部分を少しでもなくしたいときには、削ることもいいかもしれません。ただし、健全な歯の場合、削るのはエナメル質内にとどめるべきで、あまりたくさんは削ることはできません。

4)接着材料

歯科用のレジン系の接着剤は、歯を削らずにしっかり接着し、固まるとある程度の硬さをもち長期間変化しません。盛り上げる形も調整でき、後で容易に取ることができます。
ごく小さい変化をさせたいときにはよいでしょう。あまり小さいアダプターは歯に付けることができませんから。

例 下の前歯の中央部分(左右の1番目の歯の間)の段差があたって口唇がバテるというでアダプターを希望されましたが、アダプターを入れるとするとかなり厚さが必要となるため、歯に直接着けることにしました。


歯の面を清掃し、酸処理をしてよく乾燥し、レジン系接着剤をもります。接着剤は固まると透明になるので、写真ではよくわかりません。

模型上で接着剤をつけた部分を再現してみました。赤いのが接着剤です。


上から見ると、段差がなだらかになっているがわかります。

下唇がバテにくくなったということです。