管楽器奏者の歯のためのページ

金管楽器演奏に有利な歯並びは?


まだ結論は出ないけど、今考えていることをまとめてみました。

確認ですが、楽器演奏にとって歯並びがすべてではありません。単なる条件の一つだと思ってください。 私がこういうことを考えるのは、矯正治療のゴールやアダプターのデザインを決める上で必要なのです。

1)前歯の唇側面が立っていること
これは歯の傾斜角の問題です。歯が立っているほど口唇は無理なく振動するでしょうし、歯が立っている人というのは一般的に口唇周囲の筋肉が強いのです。また、上下の前歯が立っていれば平らになり、マウスピースを均一にあてることができ、下顎のコントロールがスムーズにいきます。

2)前歯の歯並びが平らであること
これはでこぼこがないということではありません。歯列がスクエア(=U字型)であることを意味しています。それでもピンとこなければ、前歯の歯並びの曲線のRが大きいと考えてください。
金管楽器の場合、口角がいろいろな意味でポイントになります。口角から出ている筋肉で口唇をコントロールして演奏するわけですから。演奏時の口角は犬歯のあたり(というか歯列の角)で支えられるので、この位置は重要ですし、口唇の振動や柔軟性に有利になると思います。

3)咬合がほぼ正常であること
奥歯で噛んだときに上下前歯の重なりが上下的前後的に各2mmくらいが正常と言われています。金管楽器を吹くのに必ずしも2mmである必要はないが、前後的なずれが大きい(極端な上顎前突や反対咬合)と下顎のポジションに無理がでるので多少不利でしょう。また、噛合わせがあまりに深いと筋肉が自然なポジションでは前歯の間が狭くなりますから不利だと思います。前歯の角度が理想的に立っていて上下の関係が良ければ、結果前歯の被蓋は浅めになります。

とは言え、咬んだ時の上下歯列の関係は実はどうでもいいのであって、吹く時の顎の位置で、上下の前歯の面がほぼ同一平面上にあればいいのです。それには、咬合状態(歯科では奥で咬んだときの上下の関係をいいます)が極端にずれていると問題だけど、それより顎の関節の可動範囲に関係しているかもしれません。

上下的なことを言えば、むしろ前歯と唇との上下的な関係が重要かもしれません。これは上下の前歯の被蓋にも関係しますが、上唇の長さと上顎前歯部の歯槽骨の高さとの関係が重要になります。つまり唇をリラックスしたときの前歯の位置です。上顎前歯と唇の関係がよくないと、上唇に無理な力が入ったりすると思います。

4)左右対称であること
普通に考えれば左右対称にこしたことはありません。筋肉のバランスの問題と、口唇の中央でアパチャーをつくれる(=良く振動する)ためです。

5)デコボコがないこと
普通に考えればデコボコがないにこしたことはないです。程度や部位にもよりますが、タンニングのキレにも関係するでしょうし、息漏れの原因にもなるでしょう(もしくは息漏れしないように筋肉に無理な力が入る)。また、マウスピースや下顎の位置に影響が出る場合もあります。
でも、世の中には前歯がデコボコでも名人は山ほどいます。

いわゆる八重歯について
不正咬合の起きる原因はたくさんありますが、「土台である顎の骨と歯の大きさ(=歯の幅を足したもの)の差つまりディスクレパンシー」という論点があります。その際、口唇の力が強ければ前歯が叢生(=デコボコ)になり、弱ければ前突になるというわけです。ですからその考え方によれば、前歯に叢生がある人というのは、口唇周囲の筋肉が強く、前歯の傾斜度が立っていることになり、どちらも金管楽器に有利な条件なのです。また、叢生の場合の多くはいわゆる八重歯・・・側切歯が内に犬歯が外にある状態であり、これは歯列の土台となる顎骨の形態がV字型でも結果としてスクエアな歯列となり、これまた有利になるのです。
叢生のあること自体がいいのではないのですが、叢生をおこすような条件は金管楽器に向いているので、「八重歯の人はラッパが上手い」---ということになります。
もちろん、残念ながら前歯が出ていてしかも八重歯という人もいますし、うらやましいことに叢生もなく前歯が立っている人もいるわけで......。
八重歯・叢生は状態によっては、アダプターを入れたり矯正治療を考えたほうがいい場合もあるでしょう。中には単純に出ている歯を抜けばすむこともあるでしょうが、この場合、注意が必要です。出ている犬歯を抜くことで、せっかくのスクエアな歯列がV字型になってしまうこうともあるからです。また、前後の歯が接触していない場合は、抜歯後周囲の歯が動いてしまうことで上下の関係が悪くなる場合もあります。よく考えてからにしたほうがいいです。

口腔の広さについて
口蓋は高いほうがいい---ということを聞いたことがある人もいると思いますが、実は「高口蓋」というのは病的な状態を指す用語です。どういうときに起こるかというと、成長期に鼻が悪かったりしていつも口を開けていて噛む力が弱いと、歯槽部(歯と歯の周りの骨の部分)が伸びてきて口蓋が深く高くなるのです。多くの場合、上顎前突や開咬といった不正咬合および狭窄した歯列(V字型)を伴います。だから、口蓋が高ければいいというものでもないのです。
日本人は白人に比べて口蓋が低いので共鳴体である固有口腔が狭いから音色やパワーが劣ると書いてある本もありますが、口腔の共鳴体としての音質への影響はどの程度なのでしょう??口の中には舌が存在し空気が流れる道は顎がデカくても細いはずですし、物理の苦手な私にはあまりないように思うんですけどね。
といいながら、実は顎の広い人の方が金管楽器には有利なのです。それは口腔が広いからではありません。同じ歯の数でほぼ同じ歯の大きさだとすると顎が広い人と狭い人では、前歯の角度と歯列の形態がちがいます。顎が広ければ前歯は立ちスクエア(U字型)な歯列になり叢生もないのです。

木管楽器の場合は・・・
木管楽器演奏に有利な歯並びというのも、実は同じようなものではないかと考えています。しかし、優先順位が多少違うのかなあと。例えば、クラリネットなら楽器をしっかりくわえることの出来る歯並びが良いでしょうから、上の前歯にあまりにも大きなデコボコがなく左右対称で下の前歯が立っているといいでしょう。また、フルートは金管と同じようなアンブシャーであっても、金管楽器のように口角からの筋肉の負荷が大きくなく、むしろアパチャーの形態や息のコントロールが重要ですから、多少歯が出ていても、左右対称でツルッとした歯並びほどよく、金管楽器の場合は、口唇が振動してナンボですから、多少デコボコがあっても歯が立って平らなほどいいのでは・・・・などと思っています。フルートの名人には結構口元にしまりのなさそうな人もいるけど、金管の名人は皆唇薄めのニッて感じの口ですもんね。

(01.10.30)