この夏の猛暑ではあまりの暑さに「ひんけつを
起こして倒れそうになった」などとおっしゃる方も多かったですが、ここでの貧血という言葉の使われ方は医学
的には正しくありません。貧血とは「血中のヘモグロビン濃度が基準値を下回った状態」と定義され、その原因によりいくつもの種類があります。今回は比較的
よく見られる貧血についてお話しします。
最も頻度が高くよく知られているのが「鉄欠乏性貧血」で、体内の鉄が不足した場合に起こります。成人の体内にある鉄分の7割は血液中の赤血球内部にヘモ
グロビンという蛋白質として存在し、のこる3割が肝臓や脾臓などに貯蔵されています。医師が鉄欠乏性貧血に気付いた場合、慢性的な血液喪失すなわちごくわ
ずかずつ続いている出血が無いかということに注意します。まずは、胃や大腸などの消化管からの出血がないか、さらに女性の場合は婦人科疾患がないかについ
て検査を進めます。血液検査で赤血球や血清鉄の低下とともに「フェリチン」という鉄と結びつく蛋白質濃度の低下があれば鉄欠乏は確実になり、なんらかの形
で鉄の不足を補う必要があります。鉄の補給法には、1)食物や水分から、2)錠剤で、3)注射での三つの経路があります。食材ではレバーを思いつく方が多
いと思いますが、これには抵抗のある方も多いのが事実です。そこで意外に効果が高いのが、鉄瓶で沸かした水を飲んだり煮物に鉄鍋を使うことですのでちょっ
と覚えておいて下さい。
次に腎機能低下者にみられる「腎性貧血」です。これは骨髄で赤血球が造られる過程に不可欠な「エリスロポイエチン」というホルモンが腎機能とともに低下
することにより起こり、治療にはこのホルモンの注射が必要です。また大酒家にもしばしば貧血を認め、これはすこし酒量を減らしてもらうと貧血が改善するこ
とでも診断されます。アルコールの解毒にビタミンが過剰消費されたり肝臓でのビタミン合成が低下したり小腸からの吸収が低下したりすることが原因とされて
います。最後にもうひとつ、「加齢による貧血」について。これは疾患名ではありませんが、超高齢化社会を迎えた我が国ではぜひ知っておくべきでありましょ
う。すなわち高齢者において貧血を認めても、悪性疾患や他の貧血の原因となる病態が見つからない場合、それは高齢化にともなう生理的な変化であると判断さ
れます。貧血の程度が軽度にとどまり、どんどん悪化していくことがなければ日常生活への影響はさほどありませんので、あまりご心配なく。
大西内科クリニック