学習情報研究


学習情報研究12月号1996,(学習ソフトウェア情報研究センター発行)

***************************************************

    (学習ソフトウェア情報研究センターの許可を得て掲載しています)

 インターネットによる生涯学級の活動事例

 「 みんなでつくろうオンライン学級 」 

緑区オンライン生涯学級運営委員 矢田 彩子


1.  はじめに

 横浜市緑区でインターネットのメーリングリストを活用したオンライン生涯学 習講座が全国に先がけ95年11月から96年2月まで開講され、さらにその成 果を踏まえ第2回として96年6月から97年2月までの期間で実施中なのでこ こに紹介します。

 「オンライン生涯学級」はパソコン通信、インターネットの電子メールを使 って行う対話型の生涯学級です。「時間と空間、そして世代の壁をこえてみませ んか」をキャッチフレーズに大学生から主婦,サラリーマン,定年後の方まで幅ひ ろい年齢層の方が参加してくださっています。また参加者の住まいも緑区に限定 せず、はるかアメリカ、コロラド州、北海道から九州までと広範囲にわたってい ます。

 インターネットという道具を利用することで従来の教室で講師をむかえて一 方通行型に教わるというスタイルとはまるで異なった学習形態をとることになり ました。

2. 学級開催の経緯

 従来型の生涯学習というと決められた時間(主に平日)にきめられた場所にで かけなくてはいけなく、外出ができない人やサラリーマンには参加が困難でした 。当時、緑区地域振興課生涯学習支援担当者は現役社会人の参加を増加させるこ とと講師、教室の確保という課題の解決策としてコンピュータ通信を使った生涯 学級の開設を提案しました。ところが担当者はワープロはうてるけれどパソコン はさわったこともなく、パソコン通信ももちろん経験がなくイメージとして紙を 使わないファックスを手紙がわりに送付する学習形態から発想はスタートしまし た。

 ここで強力な助っ人として、神奈川県国際交流協会に勤務し、ニフティサー ブ・生涯学習フォーラムのボードリーダをされている小山紳一郎氏とインターネ ットでイベントを企画していて和光大学の講師をされているトニーラズロ氏がア ドバイザーの形で参加してくださることになりました。

 さらにこの学級では、生涯学級の運営は市や区がおこなうのではなく運営委 員会に一切を委託する方法をとったので、パソコン通信や生涯学習の運営委員の 経験がある3人を運営委員として第1回運営委員会が95年8月末に開かれまし た。

3. メーリングリストとは

 最初は既存のパソコン通信のフォーラムやホームパーティーなどの利用を検討 しましたがインターネットに詳しいラズロ氏よりインターネットのメーリングリ ストの機能が紹介されました。

 (1)参加者が特定のパソコン通信(ニフティサーブ、PC−VANなど)に加 入する必要がない。インターネット接続で  きるパソコン通信またはインター ネットのプロバイダに加入していればよい。

 (2)メーリングリストはパソコン通信でいう同報機能と似ていて、決まった あて名にメールを出すと登録されているメンバー全員に自動的にそのメールが配 布される。

 (3)パソコン通信のフォーラムなどは自分から能動的に参加したいフォーラ ムにアクセスしなければならないが、メーリングリストだと通信プログラムをた ちあげると自分あてのメールのかたちで配布されてくるのでメールの送受信    という単純操作だけで学級に参加できる。

 (4)メンバーの追加、削除の登録は簡単なコマンドを書いたメールをサーバ ーに送付するだけでよいので維持が簡単である。

 ここで既にパソコン通信を経験している委員より、あまり沢山のメールが毎日 届いても整理が不便、場合によってはメールボックスが一杯になってしまい大事 なメールが届かないことになってしまうのではという問題点があげられました。 これにたいしては、さらに以下のメーリングリストの機能を利用することになり ました。

 (5)メーリングリストのダイジェスト機能(一定の件数のメールを蓄積して まとめて1通のメールとして参加者に配布)を利用する。

 (6)サイズの大きなファイル、今までのログ( メールのやりとりの記録)は 自動的に送られてくるのではなく、入手したい参加者がごく簡単な要求メールを 特定のあて名に送ると自動的に送られてくる。(電子図書館と私達は命名し    ました)

 問題は特定のパソコン通信のサービスを利用しない場合、メーリングリストを 稼働させるためにインターネットに24時間接続されているホストコンピュータ ーが必要だということになりました。          

 運営委員会で横浜市内の大学や海外のNPO団体のメーリングリスト機能があ るホストコンピューターのサーバーを一部間借りできないかと検討をしていると 、たまたま横浜市企画局高度情報化推進室でホームページ用のサーバーを設置し たことがわかり、そこの利用の許可を得ました。10月にはいってから1か月程 、メーリングリストの稼働テストを行い11月の開講に間に合わせることができ ました。

4. 学級生の募集

 メーリングリストの選択と共に運営委員会で悩んだのは対象とする学級生につ いてです。

 まず通常の地方自治体主催の生涯学級では、開催地に在住、もしくは在勤とな ります。ところが「空間」を越えてをキャッチフレーズにするオンライン学級で 地域を限定するのはその主旨に反してしまいます。第1回の募集では、区内在住 、在勤と一応記しましたが、問い合わせのあった外部の方には参加していただき ました。

 第2回目の募集時には地域の限定は一切はずしてしまいました。

 次に参加者はパソコン通信が最低おこなえる環境と電子メールのアドレス(I D)をもっていることとしました。パソコン(通信)の操作、技術習得を目的とし た学級というのも別に考えなければいけないところですが、今回は、パソコンそ のものを目的にしているのではなく、パソコンを道具として使っての生涯学級の 可能性の方に目的をしぼりました。

 募集方法は、区の広報、パソコン通信のフォーラムなどへの書き込み(ニフテ ィサーブのFLEARNなど)、口コミを中心におこないましたが、たまたま全 国紙の新聞で取り上げられ、記事を読んで応募した方が多かったようです。第2 回目の学級では1回目の参加者の多くが運営委員として参加したので口コミの輪 も広がり、また1回目の成果を雑誌、学会などで紹介する機会に恵まれたので1 回目の2倍ほどの参加者となっています。

5. 参加者

第1回学級

テーマ「国際化に向けた緑区の街づくり」

学級生   :25名

運営委員  : 3名

アドバイザー : 2名

第2回学級 (11月現在)

テーマ「みんなで作ろうオンライン学級」

学級生 : 40名

運営委員 : 19名

アドバイザー : なし

内訳 女性 14名

    緑区在住者 10名

 (会社員、専業主婦、教職員、公務員、

  福祉関係、病気療養中、自営業、学生など )

 6.  学級の運営の考慮点

 学級は開講式、2か月に1回程度のセミナー、閉講式だけは実際に顔をあわせ る従来型のものとしました。地方からの参加者もいますから、各内容はまとめて メーリングリストにものせ、直接参加できない方への便宜をはかりました。実際 に顔をあわせることにより、メールのやりとりでも相手への理解が深まります。 パソコン通信をやっている人というと、人とのコミュニケーションをあまり得意 としない人を想像するかもしれませんが実際には好奇心が旺盛で、積極的な性格 の参加者が多く顔をあわせる機会は学級にとってとても大事な役割を果たすこと がわかりました。メールを交換している間に相手と実際に会ってみたくなり、遠 く大阪、京都、山梨からオフに参加してくださることもありました。

 とはいっても学級の基本は相手の顔がみえない電子メールによる学級の進行と いうことで、パソコン通信の経験者によってネチケット(ネットワーク上のエチ ケット)など気を付けないといけないことを最初にまとめました。

 ・宗教、政治活動、営利行為の禁止

 ・文章や言葉の扱いは自覚と責任をもつこと。

 参加者は実名参加とする登録された人のみの相互通信とする。(一般のパソ コン通信は匿名で、だれでも自由に参加できるので、無責任な発言で不愉快な思 いをることもある)

 ・著作権を侵害しないこと

 ・学級で得た情報を外部で使用する場合は運営

 委員会の了解をえること

 ・プライバシーを守ること

 幸い、参加者のモラルは高く,現在までコミュニケーションのトラブルはあ りません。

 7.  第1回学級

 学級の前半では以下の話題を1ー2週間交代でディスカッションしました。

 ・横浜の姉妹都市

 ・横浜の国際化の歴史

 ・外国人労働者

  初めての実施でもあり、学級期間の中頃に学級生の声を知るためにアンケ ートを実施したところ以下のような問題点があげられました。

 ・話の展開が早過ぎる。

 ・話題に興味がもてない。

 ・話題に興味はもてるが、自分が参加するきっかけがつかめない。そのため読 むだけで終わってしまう。

 そのため,後半の学級で以下のような工夫をしました。

 ・テーマ以外に自由に発言をできる期間を設けた

 (サロンとして年末年始のメーリングリストでは自分の好きなことを書き込ん でもらう)

 ・日記当番をきめて全員が発言するきっかけを持てるようにする。

 ことに日記当番は好評で、ここで初めて発言をする参加者も何人かいて、逆に 読んではいてくれたのだという思いもありました。学級の参加者の条件として、 すでに電子メールのIDを持っていることとしたのでメールでのやりとりに躊躇 する人がいるかもしれないという配慮が足りなかったと反省しました。パソコン 通信のフォーラムでも、読むだけで自分から書き込まない参加者がほとんどだそ うです。

学習テーマとしては

 ・「田園みどり共和国」構想

 ・公共施設の運営の見直し

 ・高齢社会とパソコン通信

をとりあげ、学級生が好きなテーマのグループに属して1カ月ほどのグループ 学習の後、閉講式に発表しました。

 8. 第2回学級(現在進行中)

 1回目の反省をもとに、2回目の学級では思い切って助走期間を長く設けまし た。自己紹介のメールを最初に書いていただき、さらに日記当番を最初から一日 2名に割り当て、開講式から最初の3か月間は自由な内容をどしどし書き込んで いただいて、メーリングリストでの会話に慣れることを第一の目標としました。

 運営委員は特に新しい参加者が書き込んだ場合には、ひと言感想などを書く などして、書き込みの楽しみを味わっていただけるよう気を配っています。

 また学級のテーマも2回目は「みんなで作ろうオンライン学級」として学級開 催時には特定のテーマを設定せず、助走期間の間に参加者が興味がもてるテーマ を自分たちで探すこととしました。  

 現在以下のようなテーマが提案され、興味をもった参加者がグループにわか れて活動をはじめています。

 ・「波動と健康」について           

 ・「家族」について            

 ・「マルチメディア社会と学校教育」    

 ・「マルチメディアと生涯学習」      

 ・「在宅勤務」              

 ・「2002年の日記」          

 ・「環境問題」について

 ・「地域情報化における(中央および地方)政府の役割」

 9.  学習の進め方

 講師が一方的にリードする授業形態ではなく学級生相互の通信による学習法が まだ確立していないので、行錯誤で進めています。現在以下のような手法をとり いれながら、基本的にはテーマを提起したグループリーダーが自由にグループ研 究を進めています。

 ・学級内でのアンケート

 情報収集,問題点の発見に利用

 ・参考文献の紹介

 同じ本を読んで勉強する。

 雑誌,新聞に書かれていたことを紹介する。

 ・ディベート

 オンラインにおける討論/討議の進め方の勉強

 ・ロールプレーイング

 自由な意見交換の方法論の模索

 また学級の成果は横浜市のホームページに第1回から掲載しましたが、1回目 はメーリングリスト用のサーバの管理をしてくださっている市の担当の方にホー ムページに掲載できる形式に変換していただきました。今回の学級では学級生の 手でホームページも作成しようと計画しています。

 なおホームページのアドレスは以下の通りです。

http://www.city.yokohma.jp/comm/syougai/syougaiindex.html

10. 将来にむけて

 やっと第2回を迎えたオンライン学級ですが、定着させるためには以下のよ うなことを考えていかなければならないと思います。

 ・参加人数が増えた場合の運営形態

 お互いが意見を交わすメーリングリストには適正参加人数があると思われる 。人数が増えた場合にはリストを分けるなどの考慮が必要。また参加者が広範囲 に渡った場合、顔あわせが難しい。オンラインが主とはいっても、実際に顔をあ わせることがスムーズなコミュニケーションの相乗効果を引き出しているので全 然顔合わせの機会のない学級には問題がでてくるかもしれない。

 ・オンラインを利用した学習手法の確立

 まだ対話型の学習手法は未成熟である。オンライン学級の定着をはかるため には学習効果のある手法を勉強していかなくてはならない。

 ・運営委員(メーリングリストのオーナー)の育成

 講師がいないメーリングリスト上での学習ではリストのオーナー(議事進行 役)の役割がとても重要である。

11. 最後に

 オンライン学級による学習の成果は通常の生涯学習形式と比べて以下のようなものがありました。

 ・情報の共有化による相乗効果

 ・分野の違う人々との交流による向上意識

 ・学級生間の共同意識の醸成

 ・情報発信能力の向上

 ・文格(文章による自己表現)の向上

 ・オフミーティング(実際に顔をあわせる機会)の有効性の再発見

 私自身は出産のため育児休職をとる直前に区の担当者から声をかけていただき 、運営委員を引受けました。乳児をかかえて家に閉じこもり社会と隔離されるこ とが不安だった私にとっては、家にいながらにして自分の自由な時間に参加でき るこの学級の企画が素晴らしいものではないかと感じたからです。第2回の学級 開始時には復職しましたが、今まで会社人間として、外の世界の人たちと知り合 ったり会話する機会がなかっただけに、この学級を通じて世界がひろがったこと がなによりの収穫です。

 この学級への問い合わせは

 mpc@city.yokohama.jp

まで電子メールでお願い致します。

戻る

第二回オンライン生涯学級の記録へ