オンラインディベートのルールと事例


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               オンラインディベート

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 電子メールを使ったオンラインの学習を進める上で、ディベートは、有効な 手段と
考えられます。課題や問題点を整理したり、情報収集を行うことで学習効 果を高め
ることにつながります。通常の教室で行うディベートと違い、対面せず に行いますの
で今後、さらにルールを工夫する必要があると思います。今回の学 級で試験的に
実施してみましたので参考として報告いたします。

1.ディベートのルール

 1)ひとつ命題の真実、価値、政策について論証します。

 2)肯定側と否定側に分かれて討議します。

 3)肯定側と否定側の人数、書き込み情報量は公平にします。

 4)審判は、肯定、否定について二者択一、勝敗を決定します。

2.審査の心得

 1)命題に対する偏見を捨てる

 2)ディベーターに個人的感情を寄せない。

 3)自分の立場、意見を持ち込まない。

 4)勝敗の判定基準を明確にする。

 5)証拠の捏造、局解、反駁での新しい議論、非礼行為、時間超過は罰する 。

 6)すべての論証を記録し、すべての論証から勝敗の評価を行う。

 7)ディベーターへの教育的アドバイス、勝敗の評価を明確に述べる。

3.審査基準(双方の文章を対比して判断します。)

 1)肯定側の命題の定義、解釈が適当でなない。(否定側の勝ち)

 2)命題の選択の利益=<命題の選択の不利益 (否定側の勝ち)

 3)命題の選択の利益=命題の選択の不利益  (選択が無意味で否定側の 勝ち)

 4)命題の選択の利益>=命題の選択の不利益 (各項目ごとの得点で判定 )

 5)命題の選択の利益>命題の選択の不利益  (肯定側の勝ち)

 ※ 疑わしきは、否定側の利益に。

 ※ 肯定は、勝ちにくい。命題の証明義務と確かな利益の提示が必要です。

 ※ 4)の場合の判定項目

    分析  (1点)正しい分析か。現状を把握しているか。

    推論  (1点)発生すべき利益、不利益の提示。対抗プランは優勢 か。

    証拠能力(1点)新しいか、権威があるか、一般的か。

    構成  (1点)論理的か。

    反駁  (1点)相手の骨子を否定したか、総合的に優位を主張出来 たか。

    表現力 (1点)文章力、説得力。

4.ディベートの方法

 肯定側と否定側に別れてゲームをします。

 長過ぎると読むのに疲れますので短く設定します。

 肯定か否定かは、野球ルールの攻守と同じで個人の心情と無関係です。

 送信情報量の制限

 1 肯定側第立論 35文字50行以内

 2 否定側第立論 35文字50行以内

 3 肯定側尋問  35文字10行以内 2受信後48時間以内に返信

 4 否定側答弁  35文字20行以内 3受信後48時間以内に返信

 5 否定側尋問  35文字10行以内 4受信後48時間以内に返信

 6 肯定側答弁  35文字20行以内 5受信後48時間以内に返信

 7 否定側反駁  35文字30行以内 6受信後48時間以内に返信

 8 肯定側反駁  35文字30行以内 7受信後48時間以内に返信

 9 判定     結論と理由を提示。 8受信後48時間以内に発表

5.出場者

   肯定側 飯牟礼成則

   否定側 側島文夫

   審査員 トニーラズロ

       小山紳一郎


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     ディベート「自治体の文化事業援助について」と判定の記録

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**肯定側立論*****************************************************************

飯牟礼です。では、肯定側立論を発表します。

 論題「緑区は、2000年度から文化事業に対する歳出予算を廃止すべし」

 肯定側は、次により論題を肯定します。

 まず、言葉を定義します。

 「緑区」は、政令指定都市横浜市のひとつの行政区とします。

 「文化事業」は、コンサート、展覧会などの文化イベントとします。

 学校教育法、社会教育法を根拠にした事業は、含みません。

 さて、みなさん、近年、バブルが崩壊してどの自治体も財政難です。自治体 頼りの文化イベントは、見直しが必要と考えます。

 税金の公平な支出を考えた場合、受益者負担の理想からも行政区での文化事 業に対する予算の支出は、廃止すべきと主張します。

 そもそも文化は、社会生活から発生するものであり、広義の経済活動の産物 です。経済活動の基盤の上に成り立つべき文化を行政が税金を支出根拠に援助す ることは、本来の文化の形成と主体を妨げるものです。

 緑区の予算廃止を実施するにあたり、次の政策を骨子とします。

1 緑区における文化イベント事業に対する予算を2000年度で廃止。

2 金融機関で文化イベント資金の融資制度を作る。

3 商店街を中心に文化基金を設立、住民の参加を促す。

4 全ての既存の行政施設の使用料は、減面とする。

5 緑区役所は、関係機関、監督行政機関との調整のみを行う。

  予算は、既存の企画調整費で工面する。

6 文化イベント業者を誘致する。

 以上の政策を骨子として、あくまで、文化の自然な形成と文化事業にたずさ わる人々の主体性を尊重し、行政施策の変革を実行するものとして主張します。

**35文字26行********************************************************

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 側島です。

 遅くなりましたが、飯牟礼さんの立論に対する、否定論を立論します。

 ことばの定義については、肯定側のものに賛成します。

**否定側立論**********************************************************

 論題「緑区は2000年度以降も文化事業に対する歳出予算を計上すべし」

 さて、みなさん、言うまでもなく文化にはお金がかかります。しかし、お金 のかかり具合やその金の回収方法もその態様によって様々です。大ホールの大観 衆を対象とした、マイクとスピーカを使ったポップコンサートなどでは、入場料 で十分回収出来る上に利潤も得られ、産業として成立出来ると思われます。また 、CD等も当たれば莫大な利潤につながることもあります。

 ところが、とりわけ舞台芸術といわれる、オペラ、演劇、演奏会などは、一 定の時、一定の場所で、原則としてマイクを介さずに伝わるスペースにおける観 客を相手に行われます。これらの公演等の経費が回収できる入場料を設定すると 、内容によりますが、例えば現在の10倍以上になったりという事例も少なくな いでしょう。

 芸術文化にはこのように構造的に採算が取れない分野、自立出来ない分野が あることを見過ごすことが出来ません。こういう不採算の芸術文化分野はなくす べきであるという考えもあり得ますが、こういったものを享受し、その感動を喜 びとして生きている人が相当数存在する以上、引き続き維持していく行くべきで あると考えます。

 たとえば、舞台芸術の場合、具体的には通常水準の入場料で回収できない部 分の補填策としては、アメリカの民間依存方式とヨーロッパの公的援助方式と対 照的な2つが行われています。日本はいずれに偏することもなく、いわば両者の 折衷的な方法でしのいでいるのが実状だと思われますが、今後もこの方法を継続 するのが現実的と考えます。

 以上から、次の観点で、緑区は引き続き文化事業予算を計上し、支援すべき であると考えます。

1 入場料で経費を賄い切れない、自立出来ない芸術文化分野を対象とする。

2 今後余暇の増加が見込まれ、福祉や教育などの面でほぼ充足した住民は、 芸術文化に向かうものと予想され、公共団体の事業も芸術文化を無視出来なくな る。

3 芸術文化の享受は、CD、複製画、TV放送等のメディアを介してでは真 の満足は得られず、最終的には本物に直に触れるのが望ましく、住民に一番近い 区で支援する意義がある。

4 支援対象とする芸術文化事業の選定は、妥当性、公平性を確保するため、 専門家を入れた機関で行う。

**35文字32行**************************************************

 では、飯牟礼さん、尋問をよろしくお願いします。

否定側ディベーター 側島文夫

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飯牟礼です。

 側島さん、ありごとうございます。 よろしく、お願い申し上げます。それ では、尋問を送ります。

**肯定側尋問**********************************************************

否定側におたずねします。

1 アメリカの民間依存方式がなぜ日本では不可能なのですか。

2 自立出来ない芸術文化分野を支援することができる資金は、なぜ税金なの ですか。

3 芸術文化税が課税されたら個人として幾らまで負担できますか。

4 住民が本物に直に触れるため、住民、地元企業が資金を負担する事は、な ぜ不可能なのでしょうか。

5 専門家を入れた機関は、行政機関でしょうか。

**35文字8行 ******************************************************

 答弁と否定側の尋問をお待ちします。

 新たな証拠と議論は、反駁(最終弁論)では、提示できません。

 答弁と尋問の情報制限内でご提示ください。

 一人芝居にならずに、ホッとしました。ありがうございました。

肯定側ディベーター、飯牟礼でした。

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 側島です。

 飯牟礼さん、ではまず答弁です。

**否定側答弁**********************************************************

 お答えします。

 1 アメリカは、ロックフェラーに代表されるように、個人の大金持が相当お り、財団を作り芸術文化に助成しています。日本は、50年前の敗戦により、以 前の個人の大金持がいなくなりました。戦後は累進課税の税制等にもより 極端 な大金持がいない状況が続いています。また、民間企業においては、サントリー のようなオーナー企業を除いて、企業業績に直接結びつかない芸術文化に支援す ることは経営者として躊躇するのが一般的です。いわゆるバブルの崩壊後の現在 は厳しい状況にあると思います。

 2 1により、個人であれ企業であれ民間からすべての支援が期待出来ないの で、税金にも依存せざるを得ないのです。

 3 行政改革等により、現在の支出を削減して費用を捻出するのが先だと思い ますが、目的税である芸術文化税が課税されたら個人として、所得の数%程度で しょうか。

 4 住民、地元企業は資金の全部を負担しきれないということです。

 5 専門家を入れた機関は、公正が保たれるのであれば行政の外部の機関でも 構いません。

**35文字16行******************************************************

 次に尋問です。

**否定側尋問**********************************************************

 1 マイクを使って大勢の聴衆を相手に出来ない、クラシック音楽等の分野は 、受益者負担を貫くと現在の何倍かの入場料負担となると思われ、それを適用す ると入場者が激減すると思われますが、こういった芸術文化は排除すべきなので しょうか。

 2 税金を文化に使うと、なぜ、本来の文化の形成と主体を妨げることになる のでしょうか。税金は元はといえば、住民と民間企業等が負担しています。

 3 金融機関は文化イベント資金の融資制度には、担保もなく消極的です。

 4 文化イベント業者は、その名の通り儲かるもののみ取り上げますが、芸術 文化の低俗化につながりませんか。

 否定側ディベーター 側島文夫

**35文字10行******************************************************

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飯牟礼です。

 側島さん、答弁を送ります。

**肯定側答弁**********************************************************

 否定側へお答えします。

  1.  1 クラシック音楽等の芸術文化を排除すべきとは考えません。しかしながら、経 済力に見合った企画が必要と考えます。芸術をすべての地域で平等に再現させる のは理由に乏しいといえます。

 2 芸術文化の事業は行政が主体で創造するものではないと考えます。また、 補助金をたよった企画運営では、資金の効果的で公平運用は困難と予想され、芸 術家を政治に巻き込む危険があります。一方、今後の経済状況から税の使用は、 より実生活に役立つように配分されるべきといえます。

 3 金融自由化を進める上でも文化イベントへの融資は、地域のコーラスグル ープ、サークルなどに積極的に行うことで業務面で地域と提携が図れると考えま す。企画者は同志を募り、共同担保を設定し、自覚と責任を負います。

 4 田園都市線は東急の資本で様々なイベントが作られ、独自の文化の創造に 取り組んでいます。住民参加で業者の選定と誘致を行っている団体があります。 低俗かどうかは、受益者の判断であり、議論におよびません。

**35文字15行******************************************************

 それでは、反駁(最終弁論)をお待ちします。

 今までの証拠と議論を基にレトリックを活用して積極的に優勢を主張してく ださい。よろしくお願いします。

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 側島です。

 飯牟礼さん、では反駁いたします。初めてのディベートであること、そして 28日と29日は、所用で名古屋に行きますのでじっくり考える時間が取れなか ったことなどで、拙速ですがお送りします。

 

**否定側反駁**********************************************************

 肯定側の見解は、芸術文化にともなう経費は受益者負担であるべきで、行政 が税金により支援することは、本来の文化の主体性等を妨げるから廃止し、民間 に任せるべきである、と要約出来ます。

 しかし、芸術文化は、自立出来るもの(受益者負担のみで資金的に収支トン トンか収益が出る)と出来ないもの(事実上受益者に全額負担させられないもの )とに分けられると思います。かといって、自立出来ないものを見捨てるのでは なく、維持する必要があります。その場合、芸術文化の受益者の入場料等で埋ま らない部分は、現状、民間企業のみではカバーしきれず、税金を原資とする公的 援助も不可欠と考えます。各論的には以下の通りです。

 まず、肯定側の主張される文化イベントへの融資制度については、金融機関 が融資金を回収出来ない自立出来ない文化事業に融資するはずがありませんから 、その実現性はありません。したがって、融資制度による文化事業支援策は取り 得ません。

 次に、公的援助を廃止し、民間による援助(たとえば肯定側の挙げられる東 急資本の例)のみによれというのも、まず、企業の業績によって援助額が大きく 変動しそれに文化事業が左右され不安定です。次に、企業の援助は基本的には宣 伝のためという営業戦略であるということを見逃すことは出来ません。逆に企業 が営業戦略ではなく、見返りがなく純粋に文化支援を行うというのでは、株主か らの「企業業績に直接結びつかない文化への支出は会社の損失になるので、その 決定をした取締役はその相当額を会社に賠償しろ」という、株主代表訴訟に耐え られません。民間企業の援助の限界を念頭に置く必要があります。

 なお、肯定側の「芸術文化の事業は行政が主体で創造するものでない」とい う点については賛同します。公的資金を補助金に運用する場合の公平性の確保に ついては、以前主張しました専門家を入れた機関により、かつその運営をガラス 張りにすることで可能であると考えます。

 肯定側の主張される「税の使用は、より実生活に役立つように配分されるべ き」という点については、すでに芸術文化は実生活の一部をなしていると思いま す。今後さらに生活に余裕が出来てくるに応じ、実生活に芸術文化の占める割合 はますます高まると思います。芸術文化への援助の一翼を税が担うのは、まさに 実生活に大いに役立つことになるのです。

**35文字30行******************************************************

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飯牟礼です。

**肯定側反駁**********************************************************

 それでは、肯定側の反駁を行います。

 「肯定側の見解は、芸術文化にともなう経費は受益者負担であるべきで、行政 が税金により支援することは、本来の文化の主体性等を妨げるから廃止し、民間 に任せるべきである、と要約出来ます。」否定側がいわれるとおり、文化の主体 を守るため、税の使用を制限すべきと主張します。

 「専門家を入れた機関により、かつその運営をガラス張りにすることで可能で あると考えます。」ということは、緑区役所が、関係機関、監督行政機関との調 整のみを行う場合に適応できます。

 また、尋問において

 「芸術文化の主体は、行政ではない」と賛同を得ました。文化は、与えられる ものではなく、住民が創造するものです。 また、資本主義社会にある限り、独 立採算と受益者負担の原則を追及すべきと主張しました。

 歳出予算を廃止することにより、主体性は、高められ公平な評価を得られる ことは確実です。

 企画の立て方、工夫で、民間資金のみでの開催は可能であり、相当の質も確 保できます。

 そして、文化が実生活に有効であれば、金融機関も積極的に取り組む姿勢が 求められることでしょう。

 したがって、2000年度で文化イベントの歳出予算を廃止しすることは可 能であり、住民、観客、受益者に主体性を与えることは、皆さんにご理解いただ けたと確信します。

 みなさん。

 あと、4年の準備機関があります。

 21世紀にあらたな文化の創造と維持のメカニズム構築しようでは、ありま せんか。

 以上、反駁を終了します。

**35文字30行******************************************************


 側島さん、本当にありがとうございました。

 それでは、ラズロさん、小山さん、判定をお願いいたします。

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******************ディベートの判定・サンプル(ラズロ)*****************

MOLの皆さん、

飯牟礼さんと側島さんのディベートはたいへん面白かったですね。

これからも、インターネット上のディベートを色々な形で、色々なテーマでや ってみましょう。

判定、お待たせしました。通常のディベートの判定方法を参考にして、今回の 勝ち負けを決めます。

あくまでもサンプルの判定です。

優勝:肯定側

                判定内約

            肯定側        否定側

議論の有効性      4           3

言葉使い         4           3

証拠資料         1           1

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ルール違反の減点   0          ー2

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合計             9            5

 備考:有意義なディベートでした。両者は説得力のある立論、答弁と反駁を行 っています。具体例や参考資料されれば、なおよかったです。否定側のルール違 反は反駁にいくつかの新しい議論を出したのと、尋問には質問じゃない質問があ ったのが原因です。

 肯定と否定をひっくり返して、一度やるのはいかがですか?

 お疲れ様でした!

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飯牟礼さん,側島さ、こんにちは。小山です。

遅くなりましたが,ディベイトの判定をいたします。

判定にあたっては,次の点を<審査のポイント>とします。

 1,提出された資料が,立論を裏付けるのに十分な説得力を持っているか。

 2,肯定側が提案する実行プランに実現可能性があるか。

では,最初に上記1の観点から,ディベートの評価をしてみたいと思います。

 まず,何故文化予算を廃止すべきなのか。その「根拠」の部分に関して肯定側 と否定側の立論を見ていきます。

肯定側は,文化イベントに対する行政の予算を廃止する理由として,

 1 自治体の財政状況が悪化している現実

 2 「行政は,文化創造の主体ではない」という哲学

 の2点を指摘しています。

 ●まず,立論根拠2の「行政は,文化創造の主体ではない」という点に関して ,

否定側は,

>> なお、肯定側の「芸術文化の事業は行政が主体で創造するものでない」とい

>>う点については賛同します。

とし,肯定側の立論の一部を認めています。しかしその一方で,採算性の低い 舞台芸術等の文化事業に対して行政が補助金を支出することは,必ずしも行政主 導による文化創造とは言えないとしたうえで,次のような具体案を提示します。

>>公的資金を補助金に運用する場合の公平性の確保

>>については、以前主張しました専門家を入れた機関により、かつその運営をガ

>>ラス張りにすることで可能であると考えます。

 つまり否定側は,第三者機関の設置によって「行政が文化創造の主体」とはな らずに,しかも税金を芸術文化の分野に支出することは可能であるという点を具 体的に示しています。この提案に対して,肯定側の最終反駁において,有効な反 論が試みられおらず,結局否定側の第三者機関(案)は,肯定側立論の論拠の一 つを切り崩す説得力のある論理展開となっていると考えます。

 ●次に,1の「自治体の財政状況が悪化している」という点に関して,

肯定側は,答弁の中で,

>>  一方、今後の経済状況から税の使用は、より実生活に役立つように配分さ

>> れるべきといえます。

とし,これに対して否定側は

>> 肯定側の主張される「税の使用は、より実生活に役立つように配分されるべ

>>き」という点については、すでに芸術文化は実生活の一部をなしていると思い

>>ます。今後さらに生活に余裕が出来てくるに応じ、実生活に芸術文化の占める

>>割合はますます高まると思います。芸術文化への援助の一翼を税が担うのは、

>>まさに実生活に大いに役立つことになるのです。

と回答しています。

 上記の論点における肯定側の立論は,データ不足ではないでしょうか。ディベ ートには,「現状に明らかな問題があると肯定側が立証するまでは,現状(否定 側)は正しい」と仮定する約束(ルール)があります。

 今回のディベートでは,現在(及び近未来に)行政が芸術文化に予算を支出す ることに問題があると立証しなければならないのですから,文化予算を支出し続 けることで,どういうディメリットが生じるのか。あるいは,文化予算の廃止に よって,自治体/タックスペイヤーにどれだけのメリットがあるのかを具体的に 示す必要があるわけです。

 今回のディベートでは,肯定側は,自治体財政がここ数年どれだけ悪化し,今 後財政見通しはどうなのか。また福祉,環境,教育,保健衛生等,他の行政分野 と比較して,文化行政のプライオリティはどうなのか。こうした点について,肯 定側はもう少し詳しいデータを提示しないと,現状を否定するだけの十分な説得 力がでてこないと思います。

 たとえば,「より実生活に役立つように配分されるべき」(肯定側)という抽 象的な表現では,「すでに芸術文化は実生活の一部をなしている」(否定側)と 切りかえされてしまいますよね(^^)。たとえば,統計を用いて「市民ニーズは芸 術文化ではなく社会福祉にある」というように示すことができれば,かなり説得 力が出てきたと思います。

 肯定側は,次の否定側立論を,尋問の段階で具体的な統計/数字を用いて反証 しておけば,その後の展開を有利に進められたかもしれません。

>>2 今後余暇の増加が見込まれ、福祉や教育などの面でほぼ充足した住民は、

>>  芸術文化に向かうものと予想され、公共団体の事業も芸術文化を無視出来

>>  なくなる。

 以上,評価の観点1については,否定側に軍配を上げます。

 では,次に肯定側の実行プランの実行可能性という点について見ていきたいと 思います。

肯定側立論では,次のような代替案が提示されています。

 2 金融機関で文化イベント資金の融資制度を作る。

 3 商店街を中心に文化基金を設立、住民の参加を促す。

 4 全ての既存の行政施設の使用料は、減面とする。←(減免)ですよね。

 6 文化イベント業者を誘致する。

 2については,金融コンサルタントを業をする否定側論者(側島氏)から,実 現可能性が乏しいという意見がありました。私(小山)も,イベントへの金融機 関による融資というのは,実現可能性が乏しいという気がします(これは余談で すが,地元の主婦による高齢者福祉サービス等のベンチャー事業には,今後金融 機関が融資をしていく可能性はあると思います)。

 3についは,他の都道府県では例があります。具体例を示すとより説得力が出 たように思いますが,緑区の場合は実現可能性があるのかどうか,私にはよくわ かりません。

 4については,もっと積極的に数字を出せばよかったのではないでしょうか。

 文化ホールによっては,半日で30万円以上かかる所もあります。NPO形態 の芸術文化グループがイベントを企画する場合,使用量が減免になれば公演の実 現可能性が出てくる場合はあると考えます。減免となった場合に,どんな劇団や 楽団の公演が可能になるのか。そのシュミレーションを例示することで,かなり 否定側にインパクトを与えることができたのではないでしょうか。

 6の提案について,否定側は,

>>文化イベント業者は、その名の通り儲かるもののみ取り上げますが、芸術文化

>>の低俗化につながりませんか。

 との反論を述べていますが,肯定側も再反論しているように,何が低俗な文化 かはいちがいに決められるものではなく,この点に関しては,否定側の反論は説 得力を持っていまいと考えます。

 肯定側は,行政による文化支援の代替案として,主に民間企業のメセナ等に期 待する案を中心に立論を展開し,否定側はその案に対する反論を出すという形で 議論が進められてきたわけですが,ここでも,立証責任のある肯定側のプランが ,いまひとつ具体性に乏しいように思いました。スポンサーを想定する時に,企 業や金融機関,イベント会社だけではなく,財団や特殊法人,文化庁,地元にい るプロデューサーの起用など,もっと多くの組み合わせを考えることでプランの 実現可能性が高まったように思います。

 以上,評価の観点2については,否定側有利とします。

 ということで,総合評価は,否定側(側島氏)の「勝利」に終わりました。

 ボク個人の心情としては,肯定側に勝たせたかったのですが,結果がこうなっ てしまって少々残念です。飯牟礼さん,また力を蓄えて再挑戦してください。

期待しています。

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 今回初めてオンライン・ディベートの判定をやりましたので,審判として不適 切な判断が多々あるかもしれませんが,どうかご容赦ください。>参加者オール

 4年ほど前,リアルタイムチャット方式のロールプレイを見た経験があります が、こうした方法論は日本ではほとんど試みられていないので,今回のオンライ ンディベートという試みは,もっと経験を積み重ねてひとつの方法論にまで昇華 させると面白いかもしれませんね。>MOL参加者オール

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(以上、編集・飯牟礼)

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