地域電子コミュニティ(2)



6.テーマ「地域電子コミュニティの研究」選定の趣旨

地域社会は都会においてコミュニティとしての機能を失いつつある。しかし神戸、淡路の
震災にも見られるように、危機に見まわれた時地域コミュニティを失った社会は極めて
もろく危険である。
また高齢化社会を迎え、会社のコミュニティから切り離された時、地域コミュニティは第
二の活躍の場所となるが、現状の地域コミュニティはこの様な人を満足させられる状況
にない。
危機管理的な役割とセカンドライフへのベースキャンプ的な役割と期待できる地域社会
は復活可能であろうか。
インターネット技術は本質的にはネットワークとネットワークを繋ぐ技術であるが人と人を
”つなぐ”技術でもある。砂のようにばらばらになった都会の地域社会をインターネットは
緩やかに、軽やかにつないで再生することが出来るのではないか。

電子的な手段で繋がれた地域社会をここでは「地域電子コミュニティ」と呼ぶ。地域電子
コミュニティを21世紀の情報化社会の社会インフラと位置づけて、その理論的考察、事
例研究、構築の仕組み作りの研究を研究テーマとしたい。

ただ地域社会に無関心な住民、閉鎖的な蛸壺文化をもつ日本の自治体、官庁、企業、
学校をどう繋ぐか、オープンなネットワーク社会へどう意識改革させるかなど課題は多い
。また米国のようなボランテア文化もない日本で電子コミュニティをどう構築し、どう運営
するかの仕組み作りも大きな課題である。

山田村の例があるように、パソコンを通して老人と若者の交流が起こり、市民の情報リ
テラシイ能力の向上が期待できる。自治体がホームページで情報発信しても住民とくに
主婦層がインターネットをアクセス出来る手段を持っていないとどうしようもない。
高齢化、環境問題、医療・福祉、教育など我々が解決を迫られている、21世紀の課題
のほとんどが、地域社会の情報化を抜きに語れない問題である。


7. 研究課題とスケジュール

A.研究課題

1)地域電子コミュニティとは何か。
地域電子コミュニティが持つ本質的な特性を明らかにしてゆきたい。

2)地域電子コミュニティの現状と課題
シリコン・バレイ、東京都臨海副都心、藤沢市、山田村などの地域電子コミュニティは地
域社会とか地場産業をどう変えたか。

3)地域社会における電子コミュニテイの仕組みつくり
産学官、NPO、ボランテアなどの役割、資金、運用などの仕組み作り。

4)地域社会における電子コミュニテイの技術的課題と構築方法
メーリングリスト、サイバーコミュニティなどの構築技術の研究。

5)地域社会における電子コミュニテイの実モデルによる構築プラン

B.研究のスケジュール

1)を今学期のテーマにしたい。2)以下は学級が存続すれば来期のテーマになる。

8.地域電子コミュニティとは何か

8.1 共有するもの

Communityという言葉のそもそもの語源が(文化的、歴史的遺産を共有する)地域的共
同社会という意味である。電子コミュニティもまた何かを共有していると思われるが、何
を共有しているのであろうか。

電子コミュニティを考える前に、一般のコミュニティについて考えてみると、華僑は血縁
コミュニティといわれている。アジアは古い血縁と地縁が残る地域共同体社会である。
欧米は基本的には個人主義の社会であり、法と契約に基づく近代的な社会といわれて
いる。

8.2 日本人のコニュニティ

日本人はもっと自然でもっと原始的な共同体を重んじて来た。それは武士であれば藩で
あり、商人であれば講とか座であり農民であれば村であろう。現代では役人であれば省
でありサラリーマンは企業であろう。
かって共同体的な体質は日本企業の強さの秘訣と思われていた。日本人の声高に自分
の権利ばかりを主張しない細やかな心情とか、集団全体の調和と利益のため自分を犠
牲にする精神などは日本企業のアイデンティテイを示すものである。

日本企業の共同体体質もグローバルスタンダードに飲み込まれ変わってきた。年俸制は
導入されるし、リストラも始まっている。この様なアメリカの経営スタイルを良しとする日本
企業批判の考え方も最近増えてきている。
# YMOL#232 共同体(野口)

8.3 ゲゼルシャフトとゲマインシャフト

「ドイツ語のGemeinschaftとGesellschaftという言葉がこのような議論によく出てくる。」
(ラズロ)

「ゲマインシャフトとゲゼルシャフト」(岩波文庫 テンニエス著 杉之原寿一訳)
によると、Gemeinschaftは協同体とか共同社会と訳されていて、血縁、地縁を基盤とす
る社会であり家内経済、農業、芸術などの職業が対応している。
Gesellschaftは契約社会とか利益社会と訳されていて契約とか法律とかを基盤にする
人工的な社会であり商業や工業などの職業が対応している。
電子コミュニティというのはゲセルシャフトの次にくる社会ということで新しい基盤を必要
としていると思われる。

共有されるものは、ゲマインシャフトが文化、習慣、伝統であるのに対しゲゼルシャフトは
利益、義務、理念である。

「ある社会は社会である以上、構成員が共有する文化、伝統や習慣がある。構成員は何
を共有するのか、そしてそれをどの程度に共有するのかという課題もある」
(ラズロ)
共同体を分類して家族、親戚、学友、会社の仲間と分けて考えてみると、各々の共同体
にも文化、伝統、習慣がある。共同体というものは内容と程度の違いがあれすべてこれら
を持っているということがいえる。
会社の仲間といえども利益、義務、理念だけのつながりでは無い。家族と会社の仲間の
違いは共有する程度ということになろうか。

8.4 新社会結合

「「共同体」に対する考えは「新社会結合」に含まれている。簡単に言うと、新しいモデル
が必要と思われる。」(ラズロ)
Tnies's social typology is an idealization; neither Gemeinschaft nor Gesellschaft
designates any actual social state in existence.
Even the most primitive of ancient villages abides by a contract in the form of its
unwritten law, and profit-seeking corporations often find empathy spontaneously
developing among their employees over and beyond personal interests.

テンニエスの社会類型論は理想論である。;ゲマインシャフトもゲゼルシャフトも存在して
いるいかなる現実の社会状態をも示していない。最も原始的な古代村落でさえ不文律の
形での契約に従っている。そして利益を追求する会社でも度々個人的な利益を超えて、
従業員の間に自然発生した共感が見出される。(多賀 訳)

http://www.japanecho.co.jp/docs/html/240516.html
Yamazaki Masakazu 著

ゲマインシャフト、ゲゼルシャフトという既成のコンセプトでなく、新しいモデルが必要との
ラズロ氏の指摘があったが、新しいモデルとは何であろうか。

最近農家の家族においても嫁は無報酬という旧来の風習に対して、家族経営協定を結
んで報酬、就業時間、仕事分担を行う例もでてきた。
# の「女たちの静かな革命(7)」(日本経済新聞)
突き詰めると家庭というものも、ゲマインシャフト、ゲゼルシャフトという既成のコンセプト
では切り取れない事の事例でもある。

8.5 コミュニテイのモデル

通信のプロトコルをモデルにした「階層型コミュニテイモデル」を提案したい。コミュニティ
の特徴を以下の既知のコミュニティの階層構造を持ったモデルで評価する。
電子コミュニテイなどまだ構造が見えていないコミュニティを既存のコミュニティの混合体
として捕らえることによりコミュニティの実体を把握する。

A〜Fは比較的古いコミュニテイから新しいコミュニティの順に並べている。

A 家族共同体レイヤー(通信の物理レイヤー)
B 地域共同体レイヤー(データリンクレイヤー)
C 利益共同体レイヤー(ネットワークレイヤー)
D 知識共同体レイヤー(アプリケーションレイヤー)
E 趣味共同体レイヤー(アプリケーションレイヤー)
F 理念共同体レイヤー (アプリケーションレイヤー)

A を共有するのが 家族、親戚
B を共有するのが 地域社会
C を共有するのが 会社
D を共有するのが 学校
E を共有するのが 同好会
F を共有するのが 信仰グループ、NPO
農家、個人商店は AプラスC を共有
会社でも欧米型は C 日本型は CプラスA

何を共有するかという社会凝集の強さと同時に開放性とか閉鎖性もコミュニティの評価
の軸になる。

「コミュニティー一つひとつ、関係一つひとつがユニークであるということを認めることに
なる。ユニークな性格を持っているコミュニティーをどう評価するか形容するかという問
題になる。」(ラズロ)

この緑区オンライン学級はどういうコミュニティか評価シートを作って皆で評価してみる
のはどうかという提案をおこなった。

8.6 コミュニテイのモデルによるオンライン学級の評価方法

調査方法:調査シートを配りメンバーに回答してもらう方法

調査シートの内容の例

家族共同体層、地域共同体層、利益共同体層、知識共同体層、趣味共同体層
理念共同体層各々について質問を5つほどつくる。

例えば

家族共同体層・・・・以下のような質問が5つくらい
1)病気だというメールを受信したとき、お見舞いのメールを書きますか。
事実 ( a 書いたことがある b 不明 c 書かなかった)
理想 ( a 書くべき b 不明 c 書くべきでない)

2)家庭内の問題で悩んでいるメールを受信したとき、相談にのりますか。
事実 ( a 相談にのった事がある b 不明 c のらなかった)
理想 ( a 相談にのるべき b 不明 cのる必要はない)

3)メンバーの人と家族で付き合いたいとおもいますか。
事実 ( a 付き合っている b 不明 c いない)
理想 ( a 付き合うべき b 不明 c 付き合う必要はない)

(問題)私が調査シートを作りMLで配布し、電子メールで回収すると、皆さんの
回答内容を知ることになる。どうしたら私に分からなくできるか。

解決その1:誰かと回答の電子メールを交換し相手の回答を私の所におくる。
解決その2:無記名の手紙、FAXで送る。

上記の問題が大きいと思われたので、文脈から分析する方法に切り替えた。

「私の考えでは、まず評価シートをつくるというよりも、電子ネットワークを媒介に
して、どんなつながりが生まれているのか(または、どんなつながりが生まれてい
ると感じているのか)を、文字通りあるがままに記述することからはじめてみたい
と思っています(個々の事実より、文脈的な事実を集めるといったほうがいいの
でしょうか)。どうでしょう。」(杉井)

という杉井氏の意見により、メーリングリストを分析する手法を取った。


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