地域電子コミュニティ(3)



8.7 「階層型コミュニティモデル」によるオンライン学級の評価

杉井提案をもとに発信されたメール数をモデルにより分類した。私がこのメーリング
リストに参加した12月9日から1月29日までのメールを分類した結果を以下に示す。

A.家族共同体層 : 61件 20%
B.地域共同体層 : 4件 1%
C.利益共同体層 : 2件 1%
D.知識共同体層 : 211件 68%
E.趣味共同体層 : 20件 6%
F.理念共同体層 : 0件 0%
G.その他(連絡): 12件 4%

全数 310件
発言メール件数 297件
(1件の発信に複数メールを含んでいるものがある。)


A 家族共同体層 : 主として家族的な雰囲気の中で交わされる発言
肉じゃがの作り方、新年の挨拶、子供の病気のことなど

B 地域共同体層 : 主として地域コミュニティで交わされる発言
ジョギングのコース、地域の展示会

C 利益共同体層 : 主として会社などで交わされる発言
今年度の予算など

D 知識共同体層 : 主として学校、学会などで交わされる発言
研究テーマについての内容など

E 趣味共同体層 : 主として趣味サークルで交わされる発言
オペラの話、趣味としてのパソコンの話など

F 理念共同体層 : 主として宗教団体、NPOなどの場で交わされる発言
宗教的、哲学的議論などの話

G その他(連絡): 事務的な連絡事項など


発言は内容ではなく、コンテクストの流れで判断した。例えば肉じゃがの話でも料理の
作り方の研究をしている場面では、知識共同体の会話と分類し、料理の趣味グループ
が話していれば趣味共同体の中に分類する。このメーリングリストでは家庭的な雰囲
気のコンテクストで語られているので、家族共同体と分類した。

私が構造としてコミュニティモデルを定義したのは、人間社会が発展してきた時間過程
の流れを層として関連つけた。従ってAからFにかけて生存上必要な順に並んでいる。
上位ほど無駄なものであり、より高い生産性も持った社会において出現してくるものと
言える。
ただ1つのメールは色々な要素を含んでいるので、枝葉末節を無視し、一番言いたい
事を推察して分類するという、主観がはいっている。

8.8 オンライン学級の評価結果に関する考察


<考察1>
生涯学級は知識交換を主とした知識共同体コミュニティと言える。交換されている知識
レベルは専門的、学術的であり、一般のMLの情報交換のレベルを超えているのではな
いかと考えられる。
これにはメンバーの学習意欲、知的レベルも高く、アドバイサーとしてのラズロ氏の役割
も大きいと思われる。これから電子コミュニティを作る場合、アドバイサーがキーファクタ
ーになってくるのではなかろうか。

<考察2>
家族共同体的な内容もかなり発信されている。この様なものは、オンライン学級というこ
とからは、無駄ばなしともいえるが、アットホームな雰囲気作りに役立っていると考えら
れる。

<考察3>
趣味共同体的な要素も一部入っている。趣味とは言ってもレベルは高い。発信されてい
るのはかぎられたメンバー間である。特定メンバーの共感だけではなく、文化講座的な
テーマに取り上げられるとこの学級のレパートリィが広がると思われる。

<考察4>
緑区オンライン学級といっても、地域的な話題はかなり少ない。電子コミュニティが持つ
特性であろうか。ただ緑区が運営しているメーリングリストとして、もう少し地域性のある
テーマがあっても良いのではないだろうか。研究テーマ選択の時の課題であろう。

<考察5>
共同体の構造を内面的な心の深さから捕らえると、個人差もあるが
A(家族)→E(趣味)・F(理念)・D(知識)→利益(C)→地域(B)
の順序になる。
これは家族、趣味などの友人、会社の仲間、地域社会となり内面的なものから見た距離
とも考えられる。
A、E、Dの交流が電子コミュニティにおいて多いということは、現実社会においては時間
をかけ、様々に儀式を踏んで接近する人間の交流が極めて短時間に行われていると考
えられる。これはコミュニティの復活に極めて有効であると同時に悪用されると危険な要
素もある。
杉井氏のいう電子コミュニティは友人・仲間コミュニティに近いという指摘の理由でもあろ
う。現実の世界ではなかなか得られない仲間の反応が電子コミュニティにおいて比較的
容易に得られることも関係している。
これは「電縁交響主義」(NTT出版)フォーラムの生態で北山氏が発表しているレス構造
からの解析にも示されている。

<結論>
緑区オンライン学級は知識交換を主とした知識共同体層に家族共同体層と趣味共同体
層を一部加えた電子コミュニテイという結果であった。今回時間が無かったが、さらに異
なった地域電子コミュニティの分析も必要と思われる。

8.9 電子コミュニティについてのコメントと意見


<杉井 鏡生>
とくに電子ネットワークにおけるコミュニティについては関心があります。私自身、単なる
電子ネットワークの利用者としての関わりだけでなく、この緑区の学級もそうですが、い
くつかのグループ活動のなかで、コミュニティ感覚を覚えています。

これは、たしかに、地縁、血縁、社縁といったなかで感じられるコミュニティ感覚とは違い
ます。これまで経験している世界でのコミュニティ感覚と比較すると、地縁、血縁、社縁に
よらない社会的な交流活動(地域外、学外、社外でのボランタリーなサークル活動とか社
外交流会とか)が近いかなという気がしています。

もちろん、社会的な交流活動は、フェース・ツー・フェースでの出会いと物理的な場所の
共有が前提なので、電子ネットワークとは違う面もあると思うのですが、新しいタイプのコ
ミュニティは、フェース・ツー・フェースにしろ、電子ネットワークを使うにしろ、お互いの社
会関係が(電子システムという意味ではない)
ネットワーキングといわれるような結び付き方に特徴があるように思います。

もちろん、これによって、地縁、血縁、社縁型のコミュニティが代替されるわけではないと
思いますが、旧来型のコミュニティだけでは人々の社会形成のあり方として不十分になっ
てきたために、既存のコミュニティの一部の機能をも代替しながら、同時に、新しい社会
活動を可能にするコミュニティを広げていくのではないかと思っています。

このネットワーキング型のコミュニティでも、結び付きを強めるグループの範囲は人それ
ぞれに異なると同時に、かなり多様であると思います。これに関しては、ジョージア工科
大学がWWWユーザーを対象に昨年10月に行った調査があります。

その調査には、「あなたがインターネットを通じて結び付きが強くなったと思われるグル
ープは何ですか」という設問がありましたが、その回答は「趣味のグループ」45%、「職
業や専門分野に関するグループ」32%、「家族」27%、「同じ様な生活環境を持つ人々
の相互支援グループ」16%、「政治に関するグループ」10%、「宗教に関するグループ」
7%となっています。

電子ネットワークを通じて、幅広い領域でコミュニティ形成がなされていることが、この
調査結果からも解ります。「家族」という答が27%あるのも興味深いです。このことは、
私が血縁、地縁、社縁によるコミュニティと新しいコミュニティを区分してしまったように
、血縁型ないしは家族型コミュニティとネットワーキング型コミュニティを対比して二分
論的に論じること自体に無理があったともいえそうです。

ところで、ジョージア工科大学のWWWユーザー調査の回答に「地域」が入ってなかっ
たということですが、これは、そもそも選択肢のなかに「地域」という項目がなかったと
いうのが真相です(多肢選択の設問形式でした)。

あえていえば、「地域」は、前回紹介しなかった「その他」(19%)という項目に入ってい
る計算ですが、もし選択肢に「地域」の項目があれば、また違った比率を有していると
思います。

米国には草の根BBS以来の地域コミュニティに寄与する電子ネットワークの豊富な蓄
積があるわけですから、この設問を作った人が、たまたま、電子ネットワークは地域を
越えたところに特色があると机上の前提による思い込みから、「地域」の項目を思い浮
かばなかったのかも知れません(憶測に過ぎませんが)。

そう考えると、電子コミュニティに限らず、コミュニティを研究しようとするとき、なるべく
予めの前提を小さくして、そこにあるつながりあり様をあるがままに記述してみるところ
から始める必要があるのだろうと思っています。どうでしょう。

<矢田彩子>
この学級に関する考察、的を得ていて大変すばらしいものだと思いました。"地域性"
という切り口のとらえ方については今回の学級ではあまりとりあげられなかったと思い
ます。ただ地域=緑区、横浜というとらえ方でなく、さまざまな地域の方が自分と自分
の住んでいる地域、地方自治との結び付きを考えるという観点では今回のテーマでも
ある程度はカバーされているような気がします。

多賀さんが提案してくださっているテーマ「地域電子コミュニティの研究」は是非次回
の学級で実現しましょう!!!
今までにもPTAとか介護情報など身近な話題で地域のコミュニティネットワークをイン
ターネットなどを利用して広げたいという話題は繰り返し断片的にこの学級でも話題
に登りました。それがもうすこしまとまった形でテーマとして掘り下げていくことができ
ればいいなと思います。

趣味や家庭的共同体という側面については私はこの学級ではバランスよく含まれて
いると思います。欲をいえば皆さんの持っている趣味の内容を多賀さんがおっしゃっ
ているように"文化講座(ミニ講座)的に紹介してくださるともっと楽しめそうです。例え
ばオペラ、漢詩、ピアノ、マラソンなど得意な人が”ちょっといい話”や超入門編など書
き込んでいただければ・・・なんて思っています。なにしろ皆さん、それぞれ趣味の分
野でもすばらしい知識をお持ちなのでその話をきかせていただけるだけでもますます
内容充実だと思います。

<小山紳一郎>
さて、多賀さんが提案された「地域電子コミュニティの研究」は、この学級の研究テー
マとしてピッタリの内容だと思います。今期のオンライン学級はもうすぐ終了しますが、
ぜひ第4期(?)の学級で引き続き研究を深められるよう期待しております。

電子メディアを活用したコミュニティ・ネットワークの形成というテーマは、ここ数年、企
業・行政・NPOの三つのセクターに共通して関心が高まっている分野で、神奈川県自
治総合研究センターが発行する「季刊自治体学研究」の74号でも「コミュニティ・ネッ
トワークへの挑戦」というタイトルの特集を組んでいます。事例として、藤沢市のコミュ
ニティ・メーカーやスマートバレージャパンの活動が紹介されています。

多賀さんが研究課題として取り上げている「地域社会における電子コミュニテイの運
用方法」については、すでに藤沢市が先行実験を行っている最中ですが、これから研
究課題として重要になるのは、ハードウェアとしてのシステムの問題ではなく、市民と
市民、行政と市民の間を結ぶソフトウェアとしての仕組みづくりを誰がどうやって作り
出すかということだと思います。

そこでクローズアップされてくるのが、様々な地域のリソース(人材、知恵)を掘り起こ
し、それらを相互に繋げる「平賀源内」的な資質を持った人物の存在です。平賀源内
は、「オフライン」情報コーディネイターでしたが、電子コミュニティでは、「オンライン」
情報コーディネイター(僕が勝手に作った造語です)
が、コミュニティ・ネットワークを形成するうえで、大変重要な役割を果たすのではない
かと思います。
しかし、情報コーディネイターは職業としてはなかなか成立せず、ボランティアベース
で活動を続けているのが現状です(商用ネットの電子会議室のボードリーダーやメー
リングリストの管理者等)。もっとも、コンサルタント会社「マッキンゼー」の研究プロジ
ェクトとしてまとめられた『ネットで儲けろ』によれば、21世紀には、生産者と消費者
が共に参加するオンライン・コミュニティの中で、モデュレーター役を務める情報コー
ディネイターは高額の報酬を受け取る職業になる、とのこと。
マッキンゼーがイメージするタイプのオンラインコミュニティと地域電子コミュニティで
は、ネットワークの特性が異なり、同一次元で議論するには少々無理があるとは思
いますが、いずれにせよ情報コーディネイターの存在は今後重要になるのは確実で
はないでしょうか。

9 終わりに

私が参加したのは、たったの3ヶ月でしたが、皆さんの暖かい”家族共同体層”のお
かげで、充実した電子コミュニティ生活ができました。ラズロさんの大学のゼミのよう
な厳しい追及もありましたが”知識共同体層”としての考え方を鍛えられたと思いま
す。プライベートな部分でも思わぬ出会いもありました。一度もお会いしていないの
に、何年もの知人のような気がしています。
この様な素晴らしい機会を提供して頂いた緑区の区役所の担当のかたにも感謝致
します。また横浜市民としても、緑区オンライン学級は情報社会を先取りした先進的
な政策であり十分評価できるものであり更に規模、地域を拡大して頂きたいと考え
ます。
また緑区の区民だけでなく全国からの学級参加者が緑区オンライン学級を活性化
していることを考えると、これからの地域コミュニティのあり方も見えてくる気がしま
す。

以上


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