蹴癖(しゅうへき):蹴る癖

 蹴ることは馬の本能的な防護手段である。この癖はそのほとんが、馴致過程での取りあつかいが、粗暴であるために馬が不安な気持ちを持つようになり、人に対する不信感といらだちから蹴る事を通常とするようになる。だから蹴癖の矯正には、その原因である馬の取りあつかいかたが一番の問題となるわけである。人馬の親和が失われた時、その反抗性が習癖となって表れるわけである。馬との親和が馬の不安を取り除き、温和な性格を作りあげる。常に馬と接触し世話する人の接し方によって馬の性格が定まってくるようである。「馬はその持ち主に似ている」とはよく聞く言葉だ、こんなところからきているのかもしれない。
 馬の不安を取り除くよう心がけ、愛撫と懲戒を機宜に適して行なう。この愛撫と懲戒のポイントが最も大切である。馬自身に事の善悪をはっきりと認識させないような愛撫、懲戒は無意味なものとなる。
 よく飼付け時などに羽目板を蹴るような馬を見受けるが、普通これらは気にかけないで放置される場合が多いようだが、これも蹴癖の一つである。
 蹴癖を矯正するには蹴袋、蹴俵、蹴球等を作って馬の後肢に接触するように馬房内に吊るしておくと最初のうちはこれをよく蹴るが次第に慣れて蹴るのをやめるようになってくる。また神経質な性格からちょっとした音や動きに驚いて蹴る癖の馬には、鈴、あき缶などを利用して、馬体に触れやすくして馴致する。この場合蹄や馬体を傷付けないように細心の注意を払って材料を選ぶことが大切である。(日本中央競馬会「馬学」上巻より)