◆栃木県日光中禅寺湖

                   平成26623

雷雨と雹が関東地方を襲う梅雨のさ中、いろは坂を登るレガシィは乾いた音をたてアスファルトを蹴っていた。

午前4時20分 関西より早い夜明けの時刻、赤い鳥居をくぐると朝靄の薄絹を纏った中禅寺湖があらわれた。

黄色い灯りが漏れる小さな釣具店(大島商店)で漁券2160円を購入。申込書を確認しながら店主が「奈良からですか?」と感心してくれる。

「今日は釣り人が少ないよ」とか「駐車場はココで」とか教えてもらった。

最初に国道側のポイントに向かった。が、もらったフィッシングマップを見ると山側にターゲットであるレイクトラウトのポイントが多い。

身体と気持ちが満ちているうちにヘビーなポイントに入ろう。何より名峰・男体山を眺めながら釣りが出来るのが良いじゃないか。

歌ケ浜駐車場に車を止め、ウエーダーに着替える。長袖のフィッシングシャツ1枚でいけるだろうと思っていた。が、空気が冷たい。何しろ標高1200m。下界は真夏だがここは14℃。メチャ寒い。

雨に備え今回の釣行のために用意していたmont-bellのカッパが最高の防寒着になった。

駐車場から湖畔の遊歩道を進み森の中に入ってゆく。右に中禅寺湖と少し雲がかかった男体山が煽げる。

張りつめた冷たい空気と溢れる鳥の声。朝陽にきらめく奥日光の新緑。

ここは日本なんだろうか?北欧の森の中を歩いているようだ。

もっと俗化された観光地と思っていたが湖南側はネイティヴでワイルドな世界。まさしくトラウトの聖地だ。


20分ぐらい歩いただろうか②イタリア大使館の別荘を過ぎて良さげな浜のポイントに降りて行った。

左に釣り人が湖面に立ち入ってフライを投げている。水は限りなく透きとおり、岸際にはワカサギが群れている。こんな綺麗な水が放射能で汚染されているとは信じがたい。

あの震災から三年経った今も釣った魚は食べることは出来ず、持ち帰ることも出来ない。

破壊された地球は地球時間でしか解決できないようだ。



この中禅寺湖にレイクトラウトという固有種が棲んでいると知ったのはほんの数か月前。

どうやって釣るんだ?いつ釣れるんだ?そんな事をググっていると【ロデオクラフト・MTレイクス】というスプーンと、春蝉そっくりな【スミス・美蝉】というフローティングミノーに遭遇。

早速ネットで購入。さらによく似たセミルアーを数種用意した。

もちろんMTレイクスの操作DVD【中禅寺湖のスライドスプーン】も購入。ランディングネットも買った。

この実釣までの準備が楽しい。もう60㎝クラスのレイクトラウトを釣った気分だ。

そして今、日本一標高の高い場所にあるこの美しい湖に膝上まで立ち入っている。

足元にはワカサギに交じってヤマメの幼魚が気持ちよさそうに泳いでいる。ドンコのような小魚にエビの姿も確認できる。

当初の計画通りMTレイクスを沖に向かってフルキャスト。

カウント10…浅い。巻いて来る途中で重みが掛かった。

スプーンのスウィングフックにアオサがたんまり引っかかっている。

第2投も同じだ。数投して移動。

次のポイント③むじな窪はカウント30。

深い。深かったら釣れそうな気がする。

着底後2度シェイクを入れて2秒リールを巻き2秒ステイ。このステイ中にスプーンがローリングしながら左右にスライドしてフォールしてゆく。

これを2度。そして5秒巻いて5秒スライドで喰わす![2-2-5]イメージは完璧。

ここで来るか?この一投で来るか?と想いは膨らむ。

心の準備も出来ている。だが現実は甘くない。

湖底はアマモ絨毯がびっしり広がっていて油断するとフックが引っかかる。引っかかっても抜けはするが、とうとう一番釣れそうなワカサギカラーをロスト。

スプーンをあれこれチェンジするが反応は全くない。

ベストポイントである④八丁出島の方に向かいたいが現在地との距離感がわからない。

時刻は10時。もう5時間もこの森の中を彷徨い、黙々と16gの小さな鉄板を投げ続けている。

後半戦を考え、駐車場に戻りながらポイントをさぐって行った。

改装工事中別荘の数m沖合に崩れた鉄網桟橋がある。少しでも沖で釣りたいのが釣り人の本能。水の中を進み桟橋に上った。

「シュルシュルシュル~」「ジュポン」40m先に波紋が広がる。カウント30。深い。

フックにアサモが掛からない。底は岩盤か?今までのどこより雰囲気がある。

釣れるとしたココだ。長年の釣感が働いた。まだ見ぬレイクトラウトとの遭遇は近い。

リールを巻いてスライド。一連の操作を繰り返しながら足元の幼ヤマメを見ていた。すると、どこらともなく50㎝程の大型魚が現れた。

ほんの1m先で「釣れるものなら釣ってごらん」と百戦錬磨のトラウトが私を見透かし、悠然と尾鰭を櫂した。

えっ?今のがレイクトラウト?イワナ系の模様だった… 

数分後、奴は再び釣り人を観察するためこちらにやって来た。

今度は私が立っている鉄網桟橋の下をくぐり抜け、こちらを振り向いた。

目が合った・・・

リールを巻く手と思考回路が見事に止まってしまった。

腹鰭の白い縁取りもしっかり確認できた。間違い無い。レイクトラウトだ…。

悠然と泳ぐそいつは小振りなれどレイクトラウトだった。

長年の釣感は確かだった。時間が経った今も奴の涼しげな眼差しが脳裏に焼き付いて剥がれない。

       (ネットで拾ってきた画像)


   (パソコンディスクトップの画面にした写真)

その後、駐車場に戻ると釣り場で出会ったルアーマンが居た。「釣れましたか?」と尋ねると「ダメです…」

地元の上手そうな釣り人さえノーフィッシュ。そんな簡単に釣れるものではない。

日本で一番釣ることが難しい湖、それがトラウトの聖地中禅寺湖らしい。

ふらっとやって来た上方の軟弱なおっさんに釣れるほどヤワな対象魚ではない。

湖畔の茶店で美味しいcoffeeを飲んだ後、国道側①金谷ワンド辺りでサオを出した。

が、風が強くなり曇っても来た。底も取れない。

時刻は午後1時を回っている。もう8時間は釣っている。もう十分だ。

そんなに簡単に釣れるとは思っていなかったが、心のどこかでひょっとしたら…と偶然を期待もしていた。

でもコレが実力でコレが現実。これにて関東遠征は二連敗。

釣れないことが楽しい。釣れなかったからまた来られる。

次回も700km西の彼方からお前を仕留めるために戻って来るぞ!

お前について研究し、スプーンに対する自信を深め戻って来るぞ!

帰路は宇都宮で餃子。

昨日の「みんみん」の餃子の美味さに驚愕し、今日は「みんみん」と双璧と思われる「まさし」に向かった。

味は昨日の「みんみん」の圧勝!やっぱりオイラは軟弱な食べ歩きフィッシャーマンである。