我々の泊まった宿である竹園賓館は北京市中央部の北よりに位置し、英語名 BAMBOO GARDEN HOTEL といいます。宿に着いたのは夜でしたので暗くて庭の様子が分かりませんでしたが、朝になり明るくなってくるとその全貌が明らかになりました。さすが自慢するだけあって見事な庭でした。
両替を済ませた後、我々は街に繰り出しました。とりあえず、
『故宮(紫禁城)が見たいっ』
というのがありまして、一路紫禁城を目指したのでした。宿を出てぶらぶら歩いて行くと、道端の屋台で北京の観光地図を売っていました。日本から観光ガイドを持ってきてはいましたが、やはり現地の地図は貴重です。迷わず購入しました。そしてその地図を頼りに紫禁城の方向に向かって歩いて行きました。しかし、地図の上ではそれほど離れて見えなかったのですが、行けども行けどもその目的地がいっこうに近づいてこないのです。
『っかしいなぁ』
『ん〜』
『もしかして、ものすごく離れとんのとちゃうかぁ』
『せやろか』
しばらく歩いて行くと、やっと目標物の一つの鼓樓が見えてきました。ここまで来て、やっと地図の縮尺がわかったのです。中国の広さは、とにかく半端じゃないのだ。ヨーロッパなどを歩く感覚では、はまってしまいます。ちなみに鼓楼は故宮のほぼ真北にあり、元、明、清代には太鼓で時を告げていたそうで、かなり大きな建物です。観光ガイドによれば登れるとのことでしたが、入り口は閉まっていました。仕方ないので入るのは諦め、故宮を目指しました。
『実は、歩いていくのって、とんでもなかったりして』
『ん〜』
とはいえ、歩き出したんだからしゃーないっ、てな感じでまた気を取り直し、歩いていきました。途中、朝ご飯を食べるべく、道端の露天で売っていた饅頭の様なものを買いました。肉まんの皮だけといった感じか。かなりぱさぱさしていました。この饅頭一つ買うのにも初めて中国語で交渉するということもあり、随分手間取りました。どうも現地ではお金ののことを“ユアン”ではなく“クァイ”発音するようです。これもあとから聞いた話ですが、“元”をそのまま中国読みすれば“ユアン”になるようですが、庶民の間では“塊(クァイ)”と言うのが一般的だそうです。1元ならイークァイ、6元ならリュークァイといった按配です。
とりあえず腹も減っていましたので、それを食べながらまた歩き出しました。しかし、その饅頭もどきは、とんでもなく“まずかった”のです。或いは、味が全くないと言ったほうがいいかもしれません。
『これは、もしかして中国の人の“ごはん”とちゃうか?』
『せやから、味がないんか。』
『“これ”だけを食いもって歩くんは、もしかして恥ずかしいんとちゃうか?』
『・・・・・・・』
とか、言いながら景山公園に着きました。(故宮の裏山にある公園、山を登ると故宮が見下ろせるのだ)入り口の切符売り場に行くと、ありました。有名な“外国人料金”の表示が。露骨に中国人の何倍も取るやつです。中国人のふりをして切符を買おうとしましたが、見事に失敗しました。
失敗の原因としては、
1.人民元がなかった。(少なかった) 2.うろたえて、日本語をしゃべってしまった。 3.格好が(服が)ファッショナブルだった?????? |
という訳で、外国人料金で中に入りました。くそーっ、次は中国人になりすますぞーっ、と決意を新たにするのでした。
中に入ると、お年寄りや家族連れがいました。その中で目を引いたのは、何故か“社交ダンス”をやっている中年カップルでした。ラジカセを持ち込んで、練習しているのです。それも、一組や二組じゃないのです。景山公園は社交ダンスのメッカだったのです。
そのカップルの横を通り、山を登っていきました。山の上に万春亭という、あずま屋が建っており、そこから故宮(紫禁城)を見下ろすのです。
いや〜、素晴しいの一言です。ピークハンターの私ですから、今までいろんな所を見てきました。しかし、これは確実にベスト3に入りますよ。ホント素晴しいっ。中国4000年の歴史というか、とにかく広いのです。だいだい色の瓦が延々と続く感じ。整然として、どっしりとして、大した存在感だ。良くこんなの造ったなぁと思います。ラストエンペラーの映画である種のイメージができていましたが、それをはるかに上回る眺めでした。その他に、北海公園や天安門なども望めます。
いよいよ次は故宮の中に入って行きます。そして、天安門へ登るのだ。
故宮は、宮殿全体が博物館になっています。これから坂を降り故宮の裏門に出て乾清宮、保和殿、太和殿、午門、天安門と北から南へ宮殿の中を通り抜ける計画なのだ。
ちなみに、太和殿は、あのラストエンペラーの映画で、子供時代の皇帝“フギ”がコオロギを追って階段を降りるシーンで有名ですね。また、故宮の一番外にある天安門は、解説の必要もないでしょう。天安門の前は大きな道路になっていて、その向かいに世界一広い天安門広場が待っているのだ。
とりあえず、四角く故宮を取り巻く堀である筒子河を渡り、神武門をくぐる。
『あれは?』
『??』
言われた方を見ると、なにかを並べて売っているようでした。何かな?と近づいてみると、売店ではなくラジオの貸出でした。ラジオの解説を聞きながら回るという日本にも良くあるあれです。学生のアルバイトらしい若い男が
『 Are you Japanese? 』
と聞いてきたので、
『 Yes 』
と答えると、何故かけらけら笑っていました。さんざんラジオを借りないかと誘われましたが、とりあえず断わり神武門に上がってみました。
中は、博物館になっていました。
博物館を一通り見た後、御花園を通り、さらに進んでいく。それにしても、
ラストエンペラーの映画を見た方なら分かると思いますが、赤い壁(写真参照:久保と故宮)が延々と続くのです。まるで迷路のように通路が伸び、その奥の建物にいろいろな展示物がある。世界最大の博物館の名は、本物ですね。72万平方メーターの広さがある訳ですから。
『ありゃ、これで行き止まりか。』
『もどらな、あかんな。』
行けども行けども、壁は続く。東の方にややそれながら進む、進む、進む。
11時に故宮に入ったのだが、まだ3分の1位しか進んでいないのに、12時を大きくまわってしまった。
『腹へったなぁ。』
『ん〜』
『どうする?』
『ん〜』
ふらふらになって歩いていて、ふと前を見ると日本で言う“焼肉丼”を売っていました。景云門を出たところです。腹がへっていましたのでついふらふらと、買ってしまいました。焼肉丼はタコ焼などがよくのせられている四角い白い発砲スチロール製の容器にてんこもり状態でした。
『うま〜い!!』
『そうかなぁ』
私はお腹がへっていたのもあって、おいしく戴きました。その後、中国に三つしかないという“九龍壁”や“珍宝館”などを訪れました。(秘宝館じゃないよ!)
いっこうに出口に近づかない。さらに進み、やっとメインの一つ“保和殿”に着く。ここはちょっと高台になっているんですが、周りを見ると、
何という広さ。そしてさらに進み、やっと最も有名な“太和殿”(右写真)に着きました。もう2時近くになっている。宮殿に入って3時間たったのだ。しかし、疲れはこの眺めを見て吹き飛んでしまいました。いわゆる紫禁城といってイメージする場所が、ここなのです。映画やドキュメンタリーなどで何度も見た光景が今、目の前にあるのです。しかし『思ったほど広くない』というのが正直なところです。でも、でもでもやはり中国はすごい!すごいです。宮殿から階段が伸びる。続く石畳。歴史の重みを感じ、しばし感じ入りました。
さらに午門に向かい、くぐる。しかし、その先にあるはずの天安門はまだ霞んで見えない。ただ、見えるのは人、人、人。
『中国に人が多いのは分かってるけど、今日は平日やで。』
『どないなっとんのや』
午門を過ぎたあたりから、人も“さらに”多くなってきた。広場の真ん中に通路があるが、それを両側から囲むように出店が並ぶ。
出店の切れ目の左手に(東側)蝋人形館があったので入ってみました。2元(40円)と安い。孔子、司馬遷などの像がありました。撮影するには別途金が必要とのこと。もともと安いので払ってもよかったんですが、黙って撮ってしまいました。今考えるとちゃんと払ってあげたほうがよかったかも知れません。
蝋人形館を出てさらに通路を進んで行くと、やっと天安門が見えてきました。既に2時40分になっており、紫禁城に入って3時間40分にしてやっと着いたのです。さっそく天安門に登ろうと切符売り場を探しました。
切符売り場に行って、驚きました。
『30元!』(600円)
『何で外国人は30元もするねん。』
と言っても始まりませんが、とんでもない高さです。納得出来ませんでしたが仕方ないので外国人料金で切符を買うことにしました。金を払い切符を買うと荷物を預ける様に指示されました。やはり中国の首脳陣が良く使うところだからでしょうか。爆発物の持ち込みを警戒しての事だと思われます。荷物預かり所は隣にありました。
しかし、ここで中国ならではの事で唖然とさせられました。
話には聞いていましたけど、これほどひどいとは! 窓口に群がって、いわゆる早いもの勝ち状態になっています。帰る頃になるとこの現象にも慣れましたが、この時は少々驚きました。前の人が預け終わるのを待って「さ、俺の番かな」と前に進もうとすると横から大声で叫びながら割り込んでくるのです。「をいをい」と思って待っていると、なんと後ろのほうから私を押し退けて前に出ていくやつまで出てくる始末。要するに大声を出しながら自己主張しないと永遠に荷物を預けることは出来ないようでした。私も負けずに大声を出し、横の中国人にガンを飛ばしながらやっと預けることが出来ました。随分手間取ってしまいました。
という疑問が頭をよぎる。しかし、信じてゲートをくぐり、天安門へ登る。
赤いじゅうたんを敷いた階段を、一歩一歩登って行く。仰ぎ見ると、門の上には赤い中国国旗が何本もはためいていました。思わず目を細めてしまう。
天安門に上がると、目の前に巨大な“天安門広場”が広がりました。(写真参照)門の前に堀があり、その向こうに大きな道路が走っている。その奥が広場になっているのです。
広場の奥には、人民英雄紀念碑(天安門事件の原因の一つ)があり、そのさらに奥に“毛主席紀念堂”(毛沢東のミイラがある所!)があります。写真では左右が切れて見えないと思いますが、右に“人民大会堂”左に“歴史博物館”と“革命博物館”があり、中国の近代史そのものです。
ここぞとばかりに、ビデオに撮りまくりました。
『ウー・アル・カイシです。』
悪友は、ふざけてこのようなことをビデオに向い、のたまっていたが、大丈夫かねぇ。門の上には警備員がびっしりなのに・・・。
その後、建物の中を撮影しようとして、警備員に注意される一幕もありました。(撮影禁止だったのね)
門を出ると3時を大きくまわっていました。とりあえず、リコンファームをしようということで、民航営業大厦へ向かうことにしました。あ、『大厦』というのはビルのことね。とりあえずその方向に向かって歩く。午前中に懲りたはずなのにまたもや距離を読み間違い随分時間がかかってしまいました。途中『中南海』の前を通る。政府要人のいるところです。さすがにものものしい警備でした。
民航営業大厦へ着いて、2階のカウンターに向かう。カウンターにはやる気のなさそうな職員が座っていました。・・・英語が今一つ通じない。しばらくチケットをながめて、突き返してきました。
『そんな、あほな!』
すったもんだしたあげく、何とかOKをもらうことができました。何故一度返されたのか? また、ごねたらOKになったりして、中国は何というかほんとに良く分からない国です。
その後、夕食を食べるべく“王府井”へ向かおうと考えていたのですが、その前に“万里の長城”行きの切符を手に入れるため、CITSへ向かうことにしました。CITSとは中国国際旅行社のことです。何度も書いていますが、我々外国人が中国人民に混じって切符等の手配をするのは、かなり骨が折れます。外国人料金と称して中国人の何倍も取ったりするので大変です。CITSを利用すると割高になりますが、英語が通じるので安心して手配できます。
後で考えると大きなホテルにはたいていあるし、そんなに苦労して探す必要は無かったんですが、なにせ勝手がわからない。“地球の歩き方”の地図によると、そのCITSの場所は北京駅の北東、長富宮飯店の裏あたりに書いてありました。この本、最近では“地球の迷い方”などととかく批判の対象になっていますが、我々も例に漏れず散々迷わされました。あちこち探し回ってやっとCITSのオフィスを見つけることができました。ふうふう。カウンターに英語の喋れる人がいたので交渉し、英語のガイド付の万里の長城と明十三陵のツアーをお願いすることにしました。明日の朝に北京飯店(有名なホテルなのだ)集合とのこと。これでひと安心です。そこから、お腹を満足させるべくタクシーをひろい、王府井へ向かいました。
中国・北京でも屈指の繁華街“王府井”に着きました。今日のお目当てはやはり、“北京ダック”です。北京で北京ダックを食う、これに勝るものはないでしょう。
我々の目的とする店は、北京ダック専門店の“全聚徳[火考]鴨店”です。
地図を見ながら、店を探すべく歩いて行く。マクドナルドや吉野屋、ピザ屋、京劇の劇場など、いろんなものがごちゃごちゃっとありました。ちなみに吉野屋の牛丼は一杯6元5角、130〜140円くらいでした。中国の所得水準からすると高価な食べ物かも知れません。
『京劇は、ぜひ見とかなあかんね』
『んー』
というわけで、スケジュールを見る。帰る日の前日に見られそうだ。よしっ、また来よっと。ところで、全聚徳の方は?ということで探しているのだが、全然見つからない。
『ここに、あるはずなんやけど』
『おっかしいなぁ』
同じ道をうろうろしましたが、いっこうに見つからない。しかし、良く見ると工事中の建物に“全聚徳”と書いてありました。
『工事中なら、しゃーないか』
『残念!』
仕方ないので北京ダックを“今日のところは”諦めて北の方に向かって歩いて行きました。しばらく歩くと、屋台がずらーっと並んでいる通りに出ました。どのくらい店が出ているのか分からない程の数でした。いろんな匂いが渦巻いていて、人々の喧騒、呼び込みの声などが相まって、まさしくこれぞアジアといった感じです。ギョーザ、シューマイ、包子、焼そば、ワンタン、豆腐の様なもの?、焼き鳥、シシカバブ、ちまき、なんか良く分からない麺類、なんか良く分からない揚げ物なんか良く分からない焼物などなど。く〜っ食欲をそそるぜ。
『今晩は、屋台で済ますか?』
『しかし、どっかの専門店みたいなのにもいきたいし……』
『とりあえず探してみて、無さそうならそうしよう』
『分かった』
いろいろ探したあげく、その屋台の通りにあった“[食昆]飩侯”というワンタン専門店に入りました。7時を過ぎていました。
一階で金を払って食券を買い、隣のカウンターで注文の品と交換するといった按配です。ワンタン、焼豚、ビール、饅頭などを食べる。二人で10元でした。200円強!!やっ安い!!!
お腹もいっぱいになり、しばらく王府井をぶらぶらして、竹園賓館へ戻りました。明日は8時半、北京飯店に集合で、いよいよ万里の長城へ向かう。楽しみだ。