スペース・ゼロ 3/28〜4/6
「飛龍伝―今蘇る、青春の魂」
4/1(火)観劇。座席 E-12
いきなり歌われて、ありゃりゃ。いっきに興醒めしてしまった。ここで踊るかなぁ、ここで歌うかなぁ、というのが多く、全然芝居に入り込めず。全共闘がどうのこうの言われても、ちっとも熱くない。熊田と山崎がいくら熱く闘おうが、女を取り合った“つか版 飛龍伝”の方が全然熱い。
大量のゲロを浴びせられ、精神を病んだ女優 藤森愛(池津祥子)は、生まれ故郷の九州の島 因南島に帰る。島で生活している人間は、大小さまざまなキズやハンディキャップを抱え、どこか歪んでいた。それに付け加え、死人が生き返る『シニアルキ』も発生し、島は崩壊に向かって疾走をはじめた。島の人間達が繰り広げる愛憎劇は、まるで地獄絵図。しかし、ただ残酷なものを見せている訳ではなく、人の意識下に閉じこめている暗部を見せつける事によって、形だけではない人間の真の姿に迫っている。見せかけだけの格好つけの劇団(剃刀メールが恐いので、あえて劇団名は記さないけど)なんかより真剣に人間の本質を描く松尾スズキには、脱帽する。
今回の公演でも、大量のゲロ吐きは健在。ただ、グローブ座と言う事で、オープニングの場面をマクベスの稽古場に持ってきたのは、うまくゲロ吐きにつながっておらず、ムリヤリ感が漂い、ゲロの衝撃が薄れてしまった。また、話の展開も初演時に比べると散漫感を感じる。しかし、人が絡み合い、話が収集していく様はすばらしい。しかし、ラストは「アレッ」と思わざるを得ない幕切れ。松尾スズキが挨拶しないと分からない始末で、不完全燃焼。初演時はなんとも言えない悦楽感があったはず。自分の中で勝手に話を膨らませてしまったのか?面白かった舞台の再演は、個人の思い入れが入ってしまうので初演を越えることは難しいと痛感する。舞台空間も島という設定を表現するには良かったと思うが、私は気に入らず。もっと閉鎖された空間の方がいいと思う。芝居にあった劇場の選択も必要だと感じる。今回の再演は初演の50%の出来という感じ。
“大人計画”自分が観た公演ベスト
1.冬の皮 2.ファンキー> 3.愛の罰(初演) 4.カウントダウン 5.ちょん切りたい 6.ドライブイン・カリフォルニア 7.インスタントジャパニーズ 8.紅い給食(大人計画・俺隊) 9.イツワ夫人(部分公演) 10.猿ヲ放ツ 11.愛の罰(再演) 12.SEX KINGDOM 13.ゲームの達人 14.熊沢パンキース(部分公演)
作 別役実
イジメ、登校拒否、家庭内暴力、自殺への軌跡をたどるヨシオ。それを満開の桜の木の下で見つめる老婆(常田富士男)。桜の花が舞い散るなか家族は崩壊の道をたどる・・・。イジメから自殺へと向かってしまう過程を、真綿で首を締めつけているかの如くジワジワと見せる。暴力的な場面を廃し、無表情なヨシオがその苦悩を表現している。崩壊したまま物語が終わってしまうのは、悲しくもあり、ずしりと重くもあった。“親の重圧”を感じ、親子の関わりを考えさせられる作品であった。それまでの苦しみを捨てたかのように、うすら笑いを浮かべ、桜が舞い散る中を踊り狂う姿がとても印象に残る舞台であった。「桜も狂って咲く」と老婆が言う台詞も何故か心に残る。
その老婆役の常田富士男が、とてもいい。テレビでしか見たことがなかった、自分の中にある常田像が、砕け散ってしまう程すばらしかった。
作 後藤ひろひと
「コソ泥」の汚名をきせられてしまった泥棒三人組は、汚名返上の大仕事の前に予行練習を行っていた。その予行練習の一つである“博多駅前信用金庫”から盗んできた貯金箱の一つに、インドの秘宝『ラニアンスー(王女の涙)』が隠されていた。こんなちっぽけな信用金庫から盗みを働くバカはいないだろうという警備集団FSSGGの工策がまんまと裏目に出る。うっかり手に入れてしまった秘宝をめぐって大争奪戦が繰り広げられるのであった・・・。期待以上に面白い。後藤作品では上位にランクできる出来映え。各キャラクターは生きていたし、はちゃめちゃな後藤ワールドも健在。要所要所で登場する後藤ひろひと、楠見薫は舞台の空気を一新させ、舞台をだらけさせない。ただストーリーとは全然関係がないところがなんともかんとも。それも又おかしいんだけどね。今回は「家族で楽しむグレイシイ柔術」が、とてもおかしく気に入った。
ストーリー展開もテンポが良く、楽しめる。東京公演はこの日の2公演のみと言うのは非常にもったいない気がした。
病院でのおかしな脱出劇と、ボケ初めた老人と息子、孫娘らが登場する家族の物語とが交差し、時には絡み合い、交互に同時進行していく。それは自分を少年と思い込んでいる老人の妄想と現実と過去の物語であり、ひとりの老人の老いと死を巡る物語となっている。みのすけ少年を演じるみのすけ、みのすけ老人を演じる山崎一の二人一役がとてもよく「老いと死の物語」なのに決して重くならず、明るく笑い飛ばす。
物語自体にも死の暗さはなく、やさしさと希望が満ち溢れている。生まれ変わりで終わるのは、ケラ自身の父親に対する愛情の現れだろうか、父親の病床で書いているケラの姿が浮かぶ。
私は88年の初演も91年の再演も見逃し、今回が初めて観る事になったのだが、ケラの才能を感じる最高の作品だと思う。最後の場面で「人間の死の確率は100%」と歌い飛ばす姿がとても滑稽であるが、悲しさとやさしさを深く感じる、心に残る舞台であった。
1.カラフルメリイでオハヨ`97 2.下北沢ビートニクス |