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第7回 紀伊国屋サザン・セミナー

「ジャパニーズ・アート・フィギュア・シーン1998」

発刊記念トークライブ

日時:平成10年12月6日(日)
場所:紀伊国屋書店 新宿南店7Fサザンシアター
主催:紀伊国屋書店・柏プラーノ
全席指定 ¥1500


フィギュアモデラーのはしくれなら、誰でも知っている西の巨匠「ボーメ」さんと東の巨匠「あげたゆきお」さんのトークイベントがあるということで、行ってきました。開催のほんの数日前に秋葉原の海洋堂HLにてチケットを購入したのですが、前から2列目という良い席で見ることができました。会場の人の入りは全体の半分くらいでしょうか。それでも200〜300人くらいはいたのではないでしょうか。イベント中にわかったのですが、K・PIEROさんや、荒木元太郎さんも客席に見に来られてました。

 まずは「ジャパニーズ・アート・フィギュア・シーン1998」の紹介ビデオからボーメさんとあげたさんの作品に関する部分をピックアップしたものとボーメさんに関するビデオが上映されました。本の紹介ビデオの方は、たいした内容じゃないので割愛しますが、ボーメさんの紹介ビデオには、いきなり秋葉原の海洋堂HLが登場し、店長さんへのインタビューでした。よくHLのカウンターでみかけている女性店員がじつは、女店長さんだったとこのビデオで知りました(^^;名前は・・・「富」が付いていたのは覚えているのですが、他は忘れてしまいました(汗)で、店長さんのボーメさんに対するイメージは、最初は怖い人なのかなと思っていたらしいのですが、海洋堂の女性社員には優しくて、人気もあるとの事。次にボーメさんの作品で一番のお気に入りは何ですか?という質問に対して、HLに展示してある「CCさくら」との事でした。ただし、すぐにキャラの名前が出てこなくて、実物を展示してあるショーケースまで見に行ってました(笑)

 ビデオ上映が終わるとメインイベントであるトーク・ライブの始まりです。まずは筆者である浦山明俊さんが司会役として登場。続けてボーメさん・あげたさんが拍手に迎えられて出てこられました。

 まずは浦山さんから本の紹介です。実物も持ってこられていたのですが、本当に重そうです。よく質問されるので先に言っておきますが、この本は3冊がセットになっていて、けっしてバラ売りではないとのこと。クリアーフィルムの上に作品が印刷されている「天の巻」数多くの作品をいろいろな角度からとらえている「地の巻」原型師の素顔に迫る「人の巻」の3冊です。浦山さんは最初は「人の巻」の執筆を頼まれていたらしいのですがいつのまにか全部やることになっていたそうです。最初、フィギュアの本を作ると言われて、アイススケートを思い浮かべたそうですが、今ではいろいろな取材をさせてもらったおかげで詳しくなりましたとの事です。

 トークの方は、あまりかしこまった形式ではなく、雑談もからめていろいろなテーマで進んでいきました。簡単に覚えている事を書いていきます

・名前の由来

 あげたさんは何故ひらがななんですか?という浦山さんからの質問に対して、漢字だと、読み間違えられたり、どう読むんですか?などと聞かれることがよくあったので、ひらがなにしてしまえばそういうことも無いだろう考えたそうです。また、ひらがなだと目立つということもあるかな、と。対してボーメさんは帽子と眼鏡というスタイルから来たそうで、当日もわざわざその格好で来られていました。

・アート論

 何がアートであって、そうでないのかという議論もありましたが、とても書ききれないのと、結局答えもでないので省略します(^_^;

・自分の作品について

 ボーメさんいわく、自分の作品はストレートなスケベ、あげたさんのは、にじみでるスケベとの事(笑)

・「ジャパニーズ・アート・フィギュア・シーン1998」について

 お二人とも共通して言われていたのが、内容が濃いのは「人の巻」であるという事です。原型師自体に焦点をあてた本という物は今まで存在しなかったし、原型師の個性に触れられるものだそうです。今までの経歴や、各人の作業場の写真も掲載されてますし、もし原型師をめざしたい人がいたら、ぜひ読むことをお奨めするそうです。

・作業場について

 二人とも作業場の散らかり度としては、大関クラスとの事。横綱が・・・誰だったか忘れました(^_^;。あげたさんの作業場に宮川武さんがリューターの使い方を教えて欲しいということで来たらしいのですが、来て早々、こんな散らかっているところでやっているんですか?と言われたらしく、「なに〜」と思ったそうですが、実際に「人の巻」に載っている宮川さんの作業場はきれいで、こう言われるのもしかたないかなと思ったそうです。

・人の育て方

 ボーメさん曰く、「香川は僕の弟子だと言っているが、僕は何も教えてません。」との事。教えていないと言うのは、技術的なことを教えていないということで、香川さんが、どうせすか?と持ってきた原型や、パーツを、寺岡さんと二人で、これじゃだめだ、こんなシワはできない、などと言いながら、パキパキ折っていたそうな(^^;
作り方は教えない、なぜならそのことで、その人の個性を壊してしまうことが怖いそうです。その人にとって、別のやり方がもっと適しているかもしれないし、別の感性があるでしょう。ボーメさんやあげたさんが同じ綾波というキャラクターを作っても、よく見ると顔の作り方から全然違う。違うからこそおもしろいし、魅力がある。だからこそ、ボーメさんは人に技術的なことを教えないそうです。余談ですが、香川さんの初めの頃は、ボーメさんと寺岡さんとで、かなり押さえつけて作らせていたとのことで、最近になって、自由に作れるようになったとの事。私見ですが、それならば、ときメモ3rdシリーズの香川さんの作風が、本来の彼の作風であったのか、と思いました。

 それに対して、あげたさんの場合、とりあえず作らせて、ある程度形になったところで、まずい部分を、ここはこうした方が良いとか、こう解釈することで、こういう風な表現になる、などと丁寧に指導しているとか。あげたさんの人の良さがうかがえます。

・イベント前の修羅場

 あげたさんは、いつもワンフェスなどのイベントの前は、ぎりぎりの製作になるそうで、締め切りの当日に、完成したばかりの見本を持って、飛行機に飛び乗り、門真の海洋堂まで行くこともあったとの事。ついつい、時間ぎりぎりまで、もっと良くしようと思ってしまうからだそうです。イベント当日も、販売部隊を先に出発させた後、前の夜に抜いた物の中で、出来が悪かった物を提出用見本として、完成させて、東京駅に着いたのは良いが、乗ったタクシーの運転手がまだなりたてで、ビッグサイトの場所がわからず、ようやく着いたときにはイベント終了間際で、なにも見ることが出来ずに終わったこともあったそうです。

 ボーメさんも、イベント前は大変で、一週間で7体の展示品を塗装しなきゃならないこともあったりしたそうです。本当は肌色も全部変えてやりたいけれども、しかたなく同じ色を使うこともあって、展示品の塗りは、不本意なところがあり、あまり写真を撮られるのは好きじゃないようです。

・ボーメさんのポリシー

 誰かが、もうがむしゃらはやめようと言っていたが、ボーメさんは今までがむしゃらにやってきたし、これからもそうあるべきだと言われていました。がむしゃらにやるからこそ、作品を見て、自分が訴えたいことが伝わるのではないかと。ずっと以前に、なにかの講演で、ジブリの宮崎さんが毛沢東(だったかな?)の言葉を借りて、良い作品を作るためには3つの心得が必要だと言われたそうです。それは「若くあること」「無名であること」「貧乏であること」。もちろん物理的にそうなのではなく、精神的な若さ、もっと上に行きたいという心の渇き、そういうものが必要なのだということです。それ以来、ボーメさんは、ずっとこのこと三つを心がけているそうです。

・才能について

 以前はそうでもなかったが、最近は、この業界にも、すごい若手がどんどん入ってきているそうです。ボーメさん達を日本刀とするならば、普通の人は、出刃包丁くらい。谷明さんなんかは、最初からサーベル持っているような物だそうな。余談ですが、出刃包丁という表現に浦山さんが木刀くらいじゃないんですか?と聞くと、ボーメさんは、才能というものは、人を切ることができるので、いくら小さくても刃物です、と言われてました。前述の人の育て方にもつながりますが、みんな、最初は自分に才能があると思ってやってくる。そしてそれをたたき折られたとき、発憤してもう一度鍛え直すか、それともそこで捨ててしまうか。そこで大きな違いが出てくるとの事。香川さんも一時期は、NGばかりでパキパキと折られる日々が続いたそうで、もう死んでしまおうかと思ったこともあるそうですが、ここまで厳しくしてもらうということは、きっと期待してくれているんだと、思い直して、がんばったそうです。浦山さんが、美談ですよね、と言うと、ボーメさんはこのことを海洋堂の宮脇専務(だったかな?)に話したところ、宮脇専務は「二人とも、指先に脳味噌が行っている奴はアホばっかりや」と言ったとか(^^;

最後に

・あげたさんからボーメさんへ

 もっともっと、活動の幅を広げて欲しい。塗装のテクニックなど、技術を回りに伝えて欲しい、等々。

・ボーメさんからあげたさんへ

 もっとつっぱしって欲しい。こんなところで立ち止まらずに、自分たちを追い越して、どんどん業界を先導していって欲しい。胸像や半身像を作れるのはある意味うらやましい。自分は元々スケールモデラーなので、全体が見えて、ポーズが決まって、「これでどうだ、格好良いだろう」という感じなので、胸像などは、決して作れない、等々。

トークコーナーの最後は、質問をいくつか会場の参加者から募集ということでしたが、 「MAX渡辺さんはどんな人ですか?」や「アートと芸術は同じなのか、違うのか」「ディテールに凝る(細部まで製作にこだわる)ことは、自己満足と同じ、自慰行為と同じなのか?」などという質問が上げられました。あげたさん及びボーメさんがそれぞれ答えられましたが、詳細は省略します。

最後は再びビデオ上映で、あげたさんの仕事場の映像及びリューターの使い方が出てきました。あげたさんは、ポリパテ派で、どんどん盛って、がしがし削るタイプなのでリューターを重宝しているそうです。先端ビットは切削系よりも砥石系が使いやすいそうです。良い物になると600番のペーパーで磨いたのと同じくらいの仕上がりにもなるとか。実際に今回のイベント用に作り起こしたフィギュアを削るシーンも出てきました。私も今度金に余裕があったら、リューターの良い物を買ってみようかという気になりました(笑)

この後は、プレス用に楽屋でインタビューと写真取りがあるようでしたが、我々一般参加者の方では、会場限定フィギュアの販売が行われました。入場時に購入抽選会参加券をもらっていたのですが、なんと、購入順を抽選で決めるらしいのです。今回、会場で販売された物は次の5点でした。

フローラちゃん(ボーメさん)限定60個

ホビーキャラバンイメージキャラクターそにあちゃん
水着姿(限定30個)
体操服姿(限定30個)

妖精サンタ

立ちバージョン(限定30個)
お座りバーション(限定30個)

フローラちゃんは、ボーメさんがNYでのイベント後、帰国しようとした際に税関でチェックが入ったといういわく付きの物です(笑)最初は買う気はなかったのですが、展示されている見本をみてしまうと良い出来で、抽選だけでも参加してみようかなと思い列に並びました(^_^;結局イベントに参加していたほとんどの人が列に並んでいたようなので、軽く100人は越えてまして、後の方の番号だったら帰ろうかと思っていたところ、なんと私が引いた購入順の番号は「10」どれも確実に買えるという番号でこれは帰るわけにはいかないなと(^_^;。一人2個まで(ただしダブリは不可)という制限があったので、結局、今回のイベント用にあげたさんが造り起こした妖精サンタのお座りバージョンと、そにあちゃんの体操服バージョンを買ってしまいました(^_^;

 なかなか良いイベントでした。これで1500円だったら安いものです。なお、このレポートは私の記憶に基づいた物ですので、多少、抜けがあったり、間違っていることがあるかもしれないのをご了承ください。気付いた方はメールなりなんなりで、ご連絡下さい。


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