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小泉首相の靖国神社公式参拝における論点


  自民党圧勝で参院選がおわった。8月15日、小泉首相が靖国神社に参拝するかどうかが内外の注目されるところとなった。

  真宗教団連合は、去る6月5日に「首相・閣僚の靖国神社参拝中止要請文」の声明を発表している(資料1)。

  この声明文は、「信教の自由と政教分離」という観点での公式参拝反対声明である。

  真宗教団連合の要請文と同趣旨のものが、キリスト教諸派からも出されている(資料2)。

  また、全日本仏教会も7月11日、首相及び閣僚による靖国神社への公式参拝の中止を求める要請書を提出した(資料3)。

  以上のように宗教団体から出される要請書は、一様に「信教の自由」「政教分離の原則」に違反することを指摘している。

  一方、一般紙の論点がどこにあるのかを見てみる。中国政府の反対する理由は、「A級戦犯への対処という問題での国家意思の表明」であり、戦争責任を否定するものであるからである(資料4)。近隣諸国の反対する理由が、一般紙で報じられる反対を主張する主たる根拠になっていて、「信教の自由」「政教分離の原則」に違反するという論点を一般紙上であまり目にすることない。

  つまり、靖国神社の「歴史的役割」や「A級戦犯合祀」の問題は議論に上るが、憲法に定める「信教の自由」と「政教分離の原則」についての議論が少ないことは、いかがなものであろうか。

  なぜ、閣僚及び首相の靖国神社への公式参拝が内外で反対されるのかを、十分に理解しておくべきである。

宮本 義宣 

参考:

(資料1)
首相・閣僚の靖国神社参拝中止要請文

 私たち真宗教団連合は、1969年「靖国神社法案」廃案要請に始まり、その後も度重ね提出された同法案の撤回を申し入れ、さらには、「靖国神社公式参拝並びに国家護持」等に関しての反対要請を今日に至るまで行ってまいりました。

 なぜならば、靖国神社は明治政府の国家神道体制の基で作られ、国家による目的遂行のための戦争に従軍し、そのためにいのちを失った戦死者のみを「英霊」として祀り、国家の行う「戦争という殺戮」を正当化する仕組みをもつ極めて、政治的意図をもって創設された特異な宗教施設であり、戦後はその「英霊」(A級戦犯も含む)を慰霊・顕彰するための一宗教法人であります。

 また、先の大戦の尊い犠牲と深い反省の上に制定された日本国憲法は、戦争放棄を表明し、加えて信教の自由・政教分離の原則が掲げられております。これらのことから私たちは、一国の首相・閣僚の参拝を強く反対してまいりました。

 このたび首相にご就任された貴職は、就任早々の今国会において、1985年の中曽根元首相以来途絶えていた首相の靖国神社公式参拝に関して、「参拝することが憲法違反だとは思わない」「靖国神社に参拝することをなぜ批判されるのかいまだに理解できない。今日の平和と繁栄は戦没者の犠牲の上に成り立っている。私は素直な気持ちで戦没者に感謝と敬意を表したい。」等々の発言をされております。私たちは、国民に多大な影響を及ぼす一国の首相の発言であるからこそ、これらの発言を看過するわけにはまいりません。

 1997年4月2日最高裁判所大法廷における「愛媛玉串料訴訟」の判決では、違憲判決の「理由要旨」の中で政教分離規定を設けるに至った理由について「憲法は、明治維新以降国家と神道が密接に結び付き右のような種々の弊害を生じたことにかんがみ、新たに信教の自由を無条件に保障することとし、その保障を一層確実なものにするため、政教分離規定を設けるに至った(中略)単に信教の自由を無条件に保障するのみでは足りず、国家といかなる宗教との結び付きをも排除するため、政教分離規定を設ける必要性が大であった」と述べられています。国の機関たる内閣の靖国神社参拝はこの憲法の精神からみても、靖国神社創設の経緯からみても違憲行為であり法治国家の首相がなさるべき行為であるとは断じて認めることはできません。

 どうか靖国神社公式参拝のもつ問題性を十分に認識され、首相はじめ内閣各位の参拝を中止されますことを強く要請いたしますとともに、戦争のない心豊かで平和な国際社会の実現に向けて、我が国がその先頭に立って、不断の取り組みを重ねられるよう重ねて強く要望いたすものであります。


2001年6月 5日


真 宗 教 団 連 合


浄土真宗本願寺派   総  長     武野 以徳
真宗大谷派   宗務総長     木越  樹
真宗高田派   宗務総長     安藤 光淵
真宗佛光寺派   宗務総長     大谷 義博
真宗興正派   宗務総長     秦  正静
真宗木辺派   宗 務 長     永谷 真龍
真宗出雲路派   宗 務 長     菅原  弘
真宗誠照寺派   宗 務 長     波多野 淳護
真宗三門徒派   宗 務 長     阪本 龍温
真宗山元派   宗 務 長     佛木 道宗





(資料2)2001.07.02 朝日新聞社・夕刊 『こころ』欄」

   小泉首相の靖国神社参拝表明に真宗とキリスト教は強く反対

 小泉純一郎首相が8月15日に靖国神社への参拝に意欲を見せていることに対して、宗教界の中には要望書や声明を出す教団や、論評する機関紙などもある。神社本庁や靖国神社は歓迎するが、キリスト教や仏教の真宗諸派は「過去の戦争犯罪を正当化し、憲法の定める信の自由を侵す」と批判している。その要旨を紹介する。

   「信教の自由を侵す」

 ◆真宗教団連合(浄土真宗本願寺派や真宗大谷派など10派、6月5日付の首相あて要請文)
 「靖国神社は国家の行う『戦争という殺戮』を正当化する仕組みをもつ、極めて政治的意図をもって創設された」
 「参拝は信教の自由、政教分離の憲法の精神からも、神社創設の経緯からも違憲行為である」
 ◆真宗遺族会(浄土真宗本願寺派の門信徒戦没者遺族の団体、6月11日付の首相あて反対声明)
 「大切なのは戦没者自身の『いのち』をどのように考えるかということ。戦没者を『英霊』と讃え、感謝することによって、国家の戦争犯罪を正当化し、その責任を回避するために戦没者を利用することであるとすれば、戦没者を再び抹殺することになる」
 ◆日本キリスト教協議会(NCC)(6月1日付の首相あて要望書)
 「靖国神社は、天皇のために死んだ人々を『英霊』としてまつり、他の宗教とは別格の国家神道として存在し、アジアや太平洋の国々への侵略戦争に天皇の軍隊を送り出す精神的基盤の役割を果たした」
 「敗戦後、憲法は信教の自由を保障し、国家が特定の宗教に庇護を与え、宗教に介入しないよう規定した。首相参拝は憲法第20条、第89条の信教の自由及び政教分雛の原則を踏みにじり、戦争犠牲者に大きな痛みを与える」
 ◆日本聖公会(5月28日付の首相あて要望書)
 「靖国神社は成立以来、軍事的・政治的イデオロギーの濃厚な宗教施設。78年にA級戦犯14人を合祀したことで本性が一層明らかになった。首相が参拝し、『慰霊』することはアジア太平洋戦争を全面的に肯定、正当化することになる。参拝は到底認められない違憲行為と考える」
 ◆日本カトリック正義と平和協議会(6月28日付の首相あて反対声明)
 「首相参拝は、再び『いつか来た道』に戻すほどの意味を持つ重大な過ちと言える」
 「参拝は憲法20条の信教の自由を脅かし、国の宗教活動の禁止条項に反する。99条の憲法尊重擁護の義務にも反する」
 ◆「カトリック新聞」(6月10日付の論説欄、共同通信社顧問の酒井新ニ氏執筆)
 「首相発言には、戦後靖国問題が大きな政治問題、外交問題になってきたことに対する認識、理解が全くうかがえない」
 「A級戦犯が合祀されたことによって、靖国参拝は、戦争の犯罪性を否定するものとして、(日本国が極東国際軍事裁判所や国内、国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾した)サンフランシスコ平和条約第11条違反を明白にするものとなった。中国、韓国が反発する法的根拠はここにあることを首相は心得ているだろうか」

  靖国側 「頼もしい限り」

 ◆「神社新報」(神社本庁の機関紙、5月21日付の論説)
 「参拝を政争の具とされることには不快感を覚える。『戦没者への敬意と感謝の気持ちをこめて8月15日に参拝する』という言葉は、我が国の首相として『本音や建前』を超えた不変の意思でなければならない」
 ◆「靖国」(靖国神社社務所発行の月刊誌、コラム「靖濤」)
 「英霊に対し、国政の最高責任者たる総理が参拝することに何躊躇いがあろうか」(6月号)
 「『戦没書に敬意と感謝を表するのは日本人として当然のこと』として、一貫して参拝する姿勢を表明していることは誠に頼もしい限りである」(7月号)





(資料3)2001.07.12 読売新聞社・大阪朝刊 

靖国公式参拝中止を要請 全日本仏教会、自民に

 全国百三の仏教団体でつくる「全日本仏教会」(石上智康理事長)は十一日、小泉首相と閣僚に靖国神社の公式参拝中止を求める要請文を自民党本部に出した。要請文によると、首相や閣僚の公式参拝は憲法に定める信教の自由、政教分離の原則に違反するとしてい
(資料4)2001.07.26 Yomiuri One-Line

首相の靖国参拝、「日中関係の分水嶺」と中国

 中国政府が小泉首相の靖国神社参拝に強く反対、日本側に首相参拝の中止を迫っている。中国外務省の対日政策責任者らによると、中国はA級戦犯問題が絡む首相参拝を極めて重視、小泉首相の行動が、当面の日中関係の流れを決める分水嶺(ぶんすいれい)と位置付けているという。(北京 杉山 祐之、)

  ■中国の参拝反対の理由

 日本の戦争責任に関する中国政府の公式見解は、「ごく少数の軍国主義者が負うべきだ」というものだ。この「ごく少数の軍国主義者」はA級戦犯を指し、靖国神社には、その14人が合祀(ごうし)されている。

 小泉首相は「参拝は戦没者追悼のため。戦争の美化、正当化ではない」と強調する。だが、中国は、首相参拝を「A級戦犯への対処という問題での国家意思の表明」とし、国家指導者の参拝対象には、A級戦犯も含まれると見なす。

 首相はA級戦犯合祀に関し、「日本人の国民感情」として「死者選別」への疑問を投げかけているが、中国は「戦争の被害者である隣国人民の感情も考えるべきだ」と反論する。中国は、公式参拝か私的参拝かについても区別していない。

 中国はまた、首相参拝が国際公約に背くと見る。

 日本政府は、サンフランシスコ講和条約(1951年)で、極東国際軍事裁判(東京裁判)など戦犯裁判の判決を受諾した。首相参拝について、外務省責任者は「事実上、東京裁判を否定するもの」と語り、日本問題専門家は「国際条約違反」とまで言い切る。

 さらに、日本政府は現在、対外的に、過去の植民地支配と侵略に「痛切な反省と心からのおわびの気持ち」を表明した村山首相談話を公式な歴史認識としている。中国側の見解では、首相参拝は、「明白な言行不一致であり、信頼を得られない」という。

  ■日中関係への影響】

 A級戦犯合祀が知れ渡った後の2回の首相参拝後、日中関係は悪化した。江沢民国家主席は今月、与党3党幹事長に対し、小泉首相参拝に関して、「歴史の問題は、火をつけると、直ちに大きな波風を起こす可能性がある」と警告した。

 首相参拝の場合、98年以来の首脳相互訪問が中断する可能性も出てくる。今年は小泉首相訪中の番で、首相はすでに江主席に訪中の意向を伝えたが、中国側は受け入れの意思表示をしていない。外務省責任者は「首脳訪問を行うなら、成功させなくてはならない。それにふさわしい雰囲気が必要だ」とする。昨年の朱鎔基首相訪日の際、今年実施で合意した軍艦艇相互訪問も同様という。

 逆に、小泉首相が参拝を思いとどまれば、来年の日中国交正常化30周年をにらみ日中関係改善に動き出す構えだ。



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