兵庫県・篠山町(現篠山市)が戦没者遺族に対して、お盆の時期にお線香などを配ったことが、憲法の政教分離原則に違反するとの判決が、7月18日に神戸地裁で下されたことが新聞各紙に報じられていました。
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石上 和敬
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参考:
(資料1)
お盆線香の篠山町配布「違憲」 戦没者の遺族向け、添付文に宗教色−−神戸地裁判決
◇お線香を町が配布
兵庫県篠山町(現篠山市)が、盆に戦没者遺族に線香などを配ったことが憲法の政教分離原則に反するかが争われた訴訟で、神戸地裁は18日、違憲判断を示し、町長だった瀬戸亀男市長に費用約35万円全額を市に返すよう命じた。水野武裁判長(紙浦健二裁判長代読)は、「お盆」「お供え」などの宗教用語を使った文書が添えられていた点などを重視、「宗教的色彩が強い」と述べた。政教分離原則を厳格に解釈する司法の流れに沿った判決で、「公用車での参拝」を明らかにしている小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題にも影響を与えそうだ。(2面に判決要旨)
訴えていたのは同市の元町議、鈴木一誠さん(58)。判決によると、篠山町は96年8月、町内の第二次世界大戦の戦没者遺族のうち仏教徒の遺族988世帯には線香を、神道信者の6世帯にはロウソクを、公金計35万7780円を支出して配布した。その際、「お盆、英霊、お供え、合掌」といった宗教用語を使った町長名の文書を付けた。
判決は「町が戦没者遺族に追悼の意を表することは行政の裁量の範囲内」と認めた。そのうえで、憲法20条が禁じる自治体などの宗教活動について「外形的側面だけでなく、一般人に与える効果、影響なども考慮すべきだ」と「目的・効果基準」をより厳格に適用した愛媛玉ぐし料訴訟最高裁判決(97年)を踏襲した。
(1)宗教用語を使った文書を添えている(2)宗教によってお供えの種類を区別している(3)配布時期がお盆――などから、「町が仏教や神道を援助・助長しているとの印象を抱かせる」と、「世俗的に慣習化した行為」との市側の主張を退けた。
同市によると、線香などの配布は、同町が周辺町と合併して市になる前年の98年まで二十数年間にわたって実施された。毎年、文書をつけていたが、「お盆」「合掌」などの言葉があったのは96年の文書だけで、97年からは再び除かれた。【梅山崇】
◇瀬戸亀男・篠山市長の話
残念だが、判決文を見ていないのでコメントは差し控えたい。
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◇目的・効果基準
憲法20条が禁じる国などの宗教的活動について、津地鎮祭訴訟最高裁判決(77年)が示した判断基準。国家と宗教の分離には限界があるとして、「目的に宗教的意義があり、効果が宗教への援助や干渉となる行為」と限定的に解釈した。以後の政教分離訴訟はこの基準が採用されるようになった。
毎日新聞社
2001.07.19 東京朝刊 1頁 1面 (全1027字)
(資料2)
宗教用語使用は違憲
一九九六年八月、当時の兵庫県多紀郡篠山町(現篠山市)が、同町内の第二次大戦での戦没者の遺族に宗教用語を用いた町長名の書面を添えて線香やロウソクを配布したのは政教分離の原則を定めた憲法に違反するとして、鈴木一誠・元同町議(58)が、瀬戸亀男町長(現篠山市長)を相手に購入代金約三十五万円を同市に返還するよう求めた訴訟の判決が十八日、神戸地裁であった。水野武裁判長(紙浦健二裁判長代読)は「宗教的意義を有しており、仏教や神道を援助、助長しているとの印象を抱かせるもので憲法に違反する」と判断、瀬戸市長に同市に全額を返還するよう命じた。
判決によると、篠山町は九六年八月十五日の二、三日前、同町内の戦没者遺族九百九十四戸に「お盆、英霊、ご帰壇、お供え、合掌」などの宗教用語を用いた書面を添え、仏教信者九百八十八戸には線香を、神道信者六戸にはロウソクを瀬戸町長名で配布した。
水野裁判長は判決で、線香、ロウソクの配布について、「特定の宗教団体になされた行為ではなく、戦没者遺族を対象としたもので、町として追悼の意を表す目的があった」としたものの、配布書面に宗教用語が使用されている▽遺族の信仰している宗教によってお供えの種類を区別している▽配布時期がお盆の時期である―と指摘。
その上で「一般人の意識からしても宗教的意義を有するもので、世俗的に慣習化した行為とはいえず、(政教分離の原則を定めた)憲法に違反する」と認定した。
篠山町では二十数年前から戦没者遺族に線香やロウソクの配布を始めたが、宗教用語を用いた書面の配布は九六年だけ。九九年四月に篠山市になってからは廃止されている。瀬戸市長は「残念だが、判決文を見ていないのでコメントは差し控えたい」としている。
鈴木さんは「戦没者遺族にとって線香などの配布はうれしいことだが、行政が政教分離の原則を無視して、こういう行為を行うのはおかしい。しっかりと自覚、認識してほしい」と話している。
政治的にインパクト 平野武龍谷大教授(憲法、宗教法)の話 政教分離について最高裁が厳格な基準を導入し違憲とした一九九七年の愛媛玉ぐし訴訟判決以降、下級審で違憲判決が相次いでいる。金額の大きさではなく、自治体が宗教を援助、助長しているという印象を与えるならば違憲とした点でも流れに沿った判決といえる。小泉純一郎首相の靖国公式参拝が取りざたされているが、政教分離について、司法権の解釈が変わっていることを直前の時期に示したことで、一定の政治的なインパクトを持つかもしれない。
神戸新聞
2001/07/19
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