8月15日を半月過ぎ、首相の靖国神社参拝問題に関する話題も減少の一途をたどっています。しかし、この問題はまだ何も解決していません。
この件に関して、浄土真宗本願寺派、真宗十派による真宗教団連合、全日本仏教会(103教団・団体、約8万ヶ寺)は明確な反対の声明を出してまいりました。それぞれが所属が重複する団体でありますが、その組織はほぼすべての伝統仏教寺院が所属する団体であります。しかし、今回の小泉首相の靖国参拝に関する政治や社会への影響力はどれほどだったのでしょうか。
8月18日に自民党の安倍晋三氏は次のように述べています。
安倍晋三官房副長官は18日、愛知県内で講演し、小泉純一郎首相が靖国神社に参拝したことに中国や韓国から反発が出ていることについて「大切なのは何年も連続で参拝することだ。続けていくことによって(参拝反対の)騒ぎが毎回起こるということにはならないのではないか」と述べ、来年以降も首相が参拝し続けることが重要だという認識を示した。
安倍氏はさらに「首相は在任中に2年、3年と参拝し続ける。しかし2年、3年たっても日本は軍国主義にならない。民主的な自由の国のままだ。(近隣諸国との)友好関係をしっかり保っていきたいという気持ちにみじんの変化もない。そうなって初めて理解していただけるのではないか」と語った。(2001.8.18アサヒコム)
この報道を読む限り、安倍晋三という政治家にとって靖国問題は外交問題でしかないのです。信教の自由・政教分離という憲法問題への意識はありません。今回の一連の論議の中でも、既成仏教教団の発言はほとんどとり上げられることはありませんでした。政治家にとって一番気になるのは、憲法論議よりも票田の意識動向です。憲法は機が熟せば改正することもできますが、票田が崩されれば議員ではなくだだの人になってしまうのです。
国会議員にとって、既成仏教教団の発言は歯牙にも掛ける必要がなかったということになります。
私たちは、この現実を厳しく受けとめ、今後の活動のために総括しておく必要があると思います。
真宗教団連合は、国会議員の靖国神社参拝について毎年反対の声明を出してきました。しかし、それが、僧侶門信徒との共通の意識となっていたのだろうか。小泉首相の靖国神社参拝についての各マスコミのアンケートは、「参拝を支持」する意見の方が多いのです。人口比率から考えますと、その支持者の中の真宗関係の門徒の比率は低くはないでしょう。既成仏教の壇徒ともなりますと何をか言わんやです。国会議員に無視されるのも当然とも思えます。
しかし、靖国神社国家護持に通じる首相や国会議員の参拝を私たちは認めることはできません。それは、信教の自由・政教分離に関わる重大な憲法問題だからです。
それでは何故、既成仏教教団は信徒に対してそのことを説明して来なかったのでしょうか。それがまさに、靖国のヤスクニたる所以なのです。宗教界においてまだ、戦後処理は終わっていないのです。国家神道の名残を黙認したままです。言い換えれば、国家神道によって犯されてしまった各教団独自の信心のあり方を修正する努力を怠ってきたということができるのではないでしょうか。
今回の論議の中で、唯一の救いは、首相や外務大臣の口から国立墓苑建設の話題が出たことです。敗戦から50年以上を経て何をいまさらという声もあるようですが、靖国神社国家護持の動きが未だに活発な状態であることを考えますと、とても重要な視点であります。
首相は神道の形式にこだわらずに参拝をしたのだそうですが、靖国神社はその首相に対して「陰ばらい」をして神道の形式を保っています。(8月17日朝日新聞)
靖国神社は、神道の宗教施設であることは明らかであり、国として戦没者を祀るならば無宗教の施設でなければなりません。私たちが浄土真宗の儀礼で靖国神社に参拝することを靖国神社は認めないでしょう。また、私たちも靖国神社に参拝しようとは思いません。
全日本仏教会の石上智康理事長は、
「戦没者の追悼の場所や方法について、憲法に触れない国民的合意の形成が急務です。国民のだれもが哀悼や平和の誓いを新たにできる国としての施設や場所を、固執を捨てて話し合っていけたらと思います」(朝日新聞・大阪本社版 8月5日)
と述べています。各宗教宗派がそれぞれの儀礼で参拝できる公の施設がないこと自体がおかしいのです。国民的合意の形成を推進するのは、私たち仏教者の責任でもあると思います。
浄土真宗本願寺派は、9月18日に千鳥ヶ淵戦没者墓苑で全戦没者追悼法要を行います。小泉首相の靖国参拝を受けて、本願寺派がどのような意思表示をするか内外が注目することとなると思います。大いに期待するところです。
|
小林 泰善
|
|
|