今回の同時多発テロに対する報復についての決議が行われたアメリカ議会で、反対票を投じた議員が1名おりました。この議員に対する評価が最近高まってきているとの話題が新聞で紹介されていました。
今回のテロは、その方法や計画性などどう考えてみても納得できるような行為ではありません。ましてや人々の落胆や、怒り、そして悲しみを目の前にした時、その首謀者たちを何とかして罰しなければならない、報復しなければならないという思いが湧いてくるのは当然のことと思われます。
ブッシュ大統領は戦争を宣言しました。そして、ブッシュ大統領は、世界の了解を取り付けるべく、その手続きを精力的に行っています。また、小泉首相も積極的です。
しかし、このような時であるからこそ、「ちょっと待てよ」という声が働くことが大切なことではないかと思います。
アメリカでも、そのような声が1票ありました。考え方によっては、たった1票しかなかったと言ってもよいのかもしれません。湾岸戦争でも最終的には双方が勝利宣言をして終わりました。アメリカが想定している図式通りに闘いが進むとはとても思えません。
殺戮に対して報復を繰り返しても、憎しみは増大するばかりで尽きることはありません。法句経に説かれている、釈尊の言葉を思い出します。
「いのちあるものは、皆、暴力を恐れる
殺してはならない
殺さしめてはならない
うらみは、うらみによって消えない
うらみなき心によってのみ消える」
アメリカが出かけて行って戦争を行うことは、イスラムの反米感情を増幅させ、せっかくの反テロで足並みの揃い始めたイスラム諸国を、タリバーン支持やビンラディンを英雄扱いする方向へと転換させることになってしまうのではないかと思われます。
現在では、イスラム教ほど政治に翻弄されている宗教はないと思います。恨みや憎しみという感情によって意志統一がされる時が、一般の人々にとって一番危険な時だと思います。同時多発テロにより、被災現場から煙が立ち上がっている中で行われたアメリカ議会の中で、裏切り者と罵られても反対を唱えた人がいたことに、私はわずかばかりの安堵感を覚えています。
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小林 泰善
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