─2002年5月16日(木)毎日新聞「ひと」欄─
沼田智秀さん
─ドイツから勲章 仏教伝道協会会長─
「これは私だけが頂いた賞ではありません。亡き父(恵範)とそれを資金的に支えたミツトヨの社員、仏教伝道協会の職員とその協力者たち、全員で頂いたものです」。言葉は謙虚だが、この親子が半世紀で成し遂げた事業は、半端ではない。
「仏教を伝道しよう」と戦前、渡米した恵範氏(94年死去)。だが資金面で挫折した。「金がなければ布教はダメだ」。帰国した氏は、精密測定機器の製作所、株式会社ミツトヨを興す。普通の経営者とは発想が逆。仏教のために企業を作った。
ミツトヨの精密機器は世界でも高く評価され、その利益をつぎ込んで65年に「仏教伝道協会」を設立。宗派の垣根を取り除いた会である。
その活動が雄大だ。世界の主たるホテル一室一室に「仏教聖典」を現地語に翻訳して置いた。その翻訳および出版は、すでに41カ国に及ぶ。
次に仏教経典の全集である「大蔵経」の英訳完訳。世界の主要大学に「仏教講座」を開設し留学生の育成にあたった。
ドイツとの付き合いはミツトヨの工場建設とヂュッセルドルフ市内に「恵光」文化センターを作ったこと。日独の文化交流だけでなく、世界のあらゆる宗教に呼び掛け平和への懸け橋になった。
今度、「ドイツ連邦共和国功労勲章一等功労十字章」を授かった。ドイツ大統領に代わり、シュミーゲロー駐日大使は「その功労は大」と絶賛した。
文・佐藤健
─5月20日・朝日新聞(夕刊)
文化欄・「文化往来」─
沼田智秀会長に勲章
仏教伝道教会の沼田智秀会長にドイツ政府から功労勲章一等功労十字章が贈られ、14日に東京の在日大使館で伝達式があった。デュッセルドルフに「ドイツ『恵光』日本文化センター」を造るなど、文化交流に尽くしたことが評価された。
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