最近のニュースから 02.07.16



学術的な立場から宗教の復権の動き

  7月8日付の朝日新聞夕刊に、日本学術会議の宗教学研究連絡委員会が開催した「いのちと宗教」と題するシンポジウムについて紹介されていました。(記事添付)
 この記事の中に、「印象的だったのは、宗教のありようが現代生活に適応しなくなった面がある、という村上氏や波平恵美子・お茶の水女子大教授らの考えに対し、藤井教授や安蘇谷正彦・国学院大教授(神道)が『宗教の弱体化の表れ』と率直に認めたことだ」とあります。

 しかし、仏教は、現代科学や現代生活に適用しなくなるような教えではないと思います。仏教の説く縁起すなわち因果の法則は、現代科学の思考方法と対立するものではありません。さらに、人間心理を深く洞察する思想は、現代生活と決して乖離するものではありません。
 弱体化の原因が、どこにあるのかを究明しなければなりません。仏教学や真宗学が文献研究の範疇に止まり、現実社会の問題や現代科学の分野への視点を欠いていることに重大な問題があるように思えてなりません。社会のニーズから離れたところに仏教があるとしたならば、「対機説法」「応病与薬」は過去の語りぐさとなり仏教の存在意義はなくなってしまいます。

 社会の現場に生きる住職は、試行錯誤をしながら自己の咀嚼の中で仏教の奥深さを実感しています。そこに、学問としての裏付けがなされればどんなにか心強いものでしょう。
 最近、日韓の仏教系大学の交流が4月に行われるなど新しい動きが始まっています。仏教学・真宗学の学問的な広がりを期待したいところです。


小林 泰善



(資料)2002年7月8日朝日新聞夕刊  単眼複眼

 学術会議の宗教学研連シンポ
   「宗教の復権」弱体化直視から

 科学技術が生命のあり方まで左右するようになった今日、宗教は「いのち」をどう受け止めているか、日本学術会議の宗教学研究連絡委員会はこのほど東京都内で「いのちと宗教」シンポジウムを開いた。神道、仏教、キリスト教、道教からもコメンテーターが出席し、宗教の内外にわたって活発な議論が交わされた。
 村上陽一郎・国際基督教大教授(科学技術論)は、受精卵からヒト胚性幹(ES)細胞を取り出す研究に宗教者らが反対していることについて触れ、一方で年間34万件(00年、厚生労働省調査)にものぼる人工妊娠中絶について何も言わないのは、バランスを失しているのではないか、と指摘した。
 村上教授は、この問題が特に論議されることもないのは日本が堕胎や間引きに甘い社会だったことが背景にあるとし、赤ん坊の祝い事である「お七夜」も、子供が産まれて7日間は周囲に知らせず名前も付けず、育てられないと判断したときは間引いた、という習慣に基づいており、それは数十年前まで行われていた、という。
 この問題提起を藤井正雄・大正大教授(仏教)は直接引き取り、間引きが行われていたような時代と現代では共同体のあり方など文化に大きな違いがあるとしながらも、「産む者と生まれる者との人権問題があり、最近は生まれる者の人権が重視されてきているのかもしれない」と応答。「産まない自由」が胎児の選別につながる可能性を内在している、という村上氏の見解と結び合った。
 印象的だったのは、宗教のありようが現代生活に適応しなくなった面がある、という村上氏や波平恵美子・お茶の水女子大教授らの考えに対し、藤井教授や安蘇谷正彦・国学院大教授(神道)が「宗教の弱体化の表れ」と率直に認めたことだ。「生命」により敏感であるはずの宗教者が、21世紀の先端科学がもたらすクローン技術などがはらむ難題から逃れずに向き合い、何らかの判断基準を示そうとする姿勢は、「宗教の復権」の今後を占う。この宗教学研連の毎年のシンボも今年で10回目。率直で地道な論議の穂み重ねに期待したい。(雄)


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