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西本願寺展を見て思うこと


  
上野の東京国立博物館で開催されています「西本願寺展」を見てきました。親鸞聖人の鏡の御影の実物に感動し、聖人の直筆の几帳面ともいえる筆致の鋭さに、人を温かく包み込むようなやさしいみ教えの裏付けとして、厳しい学問的探究の足跡があったことをあらためて強く感じたことでありました。

 また、絵画など美術面では、初期の真宗教団では現在に比して自由奔放な信仰表現があったことが感じられました。美術的な評価と信仰上の評価とでは自ずとその基準が分かれることとは思いますが、美術面でいうならば独自な想像力が発揮される時代の方が、信仰上の勢いも強かったのではないかなどと考えさせられてしまいました。

 古くから伝わるものを大切にしながらも、新しい文化を創造し調和させていくような活力がとても重要だと思います。

 私の寺では、最近10年かけて本堂の壁画の保存修理を行いました。江戸時代後期建立の本堂には江戸・明治・大正の壁画が描かれており、最後に新しい平成の蓮池図が納まりました。それらが、見事に調和したのを見たときに、本堂のお荘厳とは、それぞれの時代、それぞれのひとびとの信心の表出なのだなとあらためて感じさせられたことを思い出しました。

 西本願寺展では、東国の真宗文化というコーナーもありました。現在では、真宗の荘厳はほぼ画一化されてしまっています。しかし、真宗信心から逸脱しない範囲での創造的な営みがあってもいいのではないかと思います。また、各地の真宗文化の再評価がなされてもよいのではないかとも考えさせられたことでありました。

 イラクでは、空爆などで営々と築き上げられてきた文化が大量に破壊されてしまいました。そして、国立博物館まで略奪の対象になってしまったとの報道がありました。アフガニスタンそしてイラクと、戦争はイデオロギーによって文化遺産を吹き飛ばしてしまうことに怒りを通り越して悲しみを覚えます。なかには、2度と復元することのできない貴重なものや歴史的価値の高いものも含まれていたことと思います。イラクは、まさにメソポタミヤ文明の中心地です。また、この度の戦争で破壊されたもののなかには、何百年後には文化遺産として高く評価されるものもあったのではないでしょうか。

 人の住むところには、必ず文化が築かれていきます。戦争は、それを一瞬にして破壊してしまいます。人のいのちも諸共に。

 西本願寺展での感動は、イラク戦争へのもう一つ角度の違った視点をも与えてくれました。

小林 泰善