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 04.11.16 


「中越地震現地報告」



  去る、11月8日、9日に、新潟小千谷の友人の極楽寺へお手伝いに行って来ましたので、ご報告いたします。私は、寺院のみに特化した観点より、実際に友人に聞いたことと、私が感じたことを書きたいと思います。極楽寺は、中外日報紙、本願新報にて報じられたように、避難所として周辺の被災者の受け入れ、炊き出しのほか、ボランティアセンターとしての役割も担っていました。私の滞在した9日には、その数は二家族まで減り、二週間に及んだ炊き出しも終わっていました。

  避難所となった極楽寺では、被災直後は市役所からの物資のみでしたが、これも、機転の利くご門徒さんがおられて、朝一番で役所に行き物資を回してもらったり、役所に頻繁に掛け合った結果、得られたものであったそうです。そのような積極的なうごきができる方がおられなかったら、行政からの救援物資を十分に受け取ることはできなかったとのことです。

  その後、他教区からの直接的な支援や、流通の回復とともに多くの物資が極楽寺に集まるようになり、長野・新潟教区の有志による炊き出しが始まったそうです。長野・新潟教区の有志は、日帰りできる利点を生かし、現場の必要なものを翌日にはフォローできる体勢をとっていました。9日の時点では関越道も開通し、道路の復旧も進みつつありましたが、いずれも応急処置にすぎず、市内のほとんどの箇所で通常のスピードでの運転はできません。道路のマンホール、橋などは、2,30センチほど隆起・陥没していますし、ほとんどの道路の路肩も陥没しています。応急処置の施していない中の、有志の方々の小千谷への救援活動は相当な困難があったと思います。

  被災寺院の詳しい状況(元上組のみ)に関しては、極楽寺の若院さんである麻田弘潤氏が主催するサイト、「寺たちの地震情報」をご覧ください。

http://teranaoshi.exblog.jp/

  弘潤氏との話の中で大変気になったのは、ご本山と教務所の対応です。まず、ご本山のホームページのサイト上で、救援物資やボランティアを赤十字や行政等を通じて行うように勧めていることに難色を示していました。これでは、浄土真宗本願寺派ならではのネットワークが生かし切れないとのことでした。このネットワークを生かせば、行政の目の届かない被災地をも網羅できるかもしれないとのことです。実際、組内で連絡を取り合ったところ、地域によっての支援の格差が非常に大きかったそうです。一般メディアは、例え一部であっても復旧されたことを大きく報道する傾向があり、復旧されていない地域の印象を薄くしていまう実態があるそうです。そういう意味で、全国のお同行からの物資やボランティアを、他の機関に回さず、本願寺派の築いているネットワークで取り次ぐことは、社会的意義・役割が十分に存在すると思います。民間企業のジャスコ(イオングループ)の対応は迅速で、店舗の大型ガラスがほどんど割れているにもかかわらず、広大な駐車場に早くから巨大エアテントを敷設し、避難所として重要な役割を果たしていました。

  また、ご本山、教務所からの視察が何度かあったようですが、そこから得られるであろうフィードバックが遅いようです。新報での報道やサイトで視察の事実の公開はすぐにされるものの、被災地に対しては何もないそうです。総務さんの視察などの報道を目にすると、多くの物資と潤沢な義援金を被災した寺院が受けているように思われているようですが、そのような、即時的な支援はないそうです。彼は、視察の事実の報道が先行していて、実体的なサポートのないことに嫌悪感を抱いていました。これは非常に大切なことで、支援側の偏った報道や声明は、被災者にとっては大きな不信感と不安感を与えます。支援側としては視察や支援の既成事実を早く伝えたいのはわかりますが、被災者が実質的な支援の享受を受けていない時期の偏った報道は、被災者にとって対外的な慈善アピールにしか映らなくても無理はないと思います。

  この時点での被災寺院の悩みは復興費用の調達に移行しつつあります。私が行った9日にはちょうどご本山よりの見舞い金が送られた日だったのですが、それ以前はタオルが支給されたのみとのことでした。この時点では、ご本山からの義援金の有無すら公式に伝えられていないようでした。その場での多額の義援金の受け渡しは無理にしても、復興の見通しをつけるためにも、今後の本山としてできるサポートプランの説明ぐらいはあってもよいと思いました。ご門徒に援助をあおげない状況下にあって、被災寺院のご住職方のストレスが多少なりとも和らぐと思います。

  先に書きました「寺たちの地震情報」というサイトは、麻田弘潤氏が、被災地の現状を自ら伝え、具体的な支援を求めようと開きました。このサイトは、情報の収集、発信、支援(物資・ボランティア)の受け入れ、義援金の収集、分配など、その機能は多岐にわたっています。これにより被災地の現場で必要なものが何であるかがわかります。この時に彼が言っていたことは「今までは、被災者として支援をただ待っていただけだったが、我々にも、自らできることがある」ということでした。また、このような情報の収集・発信、物資・ボランティアのコーディネートを教務所が引き受けてくれたら、とも言っていました。

  ご本山の有事対策の改善に関してはずいぶん遠くのことのように感じますが、それ以上に、寺を任されている一人として極楽寺さんの支援活動から学ぶ点があると思います。被災直後は行政による支援に頼るほかはありませんが、交通が可能になってからは、長野・新潟教区の有志のような日帰りできるボランティアがとても重要になってくるようです。彼らは代わる代わる毎日の支援を行っています。これにより、被災地の物資やボランティア人員のニーズを翌日に反映でき、交代制により支援者側のモチベーションも常に高く保つことができます。

  また、通信が回復してからは、「寺たちの地震情報」のように、被災者自ら情報を整理・発信することにより、被災地のニーズを正確に無駄なく伝えることは有益だと思います。実際、支援側は何を支援したらいいか正確にはわかりませんし、復興状況によりそのニーズは刻々と変わります。現場の被災者を主導者にして、周辺寺院や教務所が十分に対応できる体勢をとることが大切だと思います。安穏な生活をしている被災者でない人が、視察や調査をしても正確なデータをとることはそもそも無理に近いことです。麻田弘潤氏は、このように被災者側から宗門全体に向けて支援の手を求めています。被災の身でこのような主導者になることは大変難しいと思いますが、現時点で、ご本山・ほとんどの教務所がお同行・本派寺院の支援を外部に回してしまう実情では、本願寺派という大きなネットワークの支援を生かすも殺すも、我々、寺を任される者の手腕にかかっています。

  もし、元上組にお知り合いがいる方がおられましたら、支援先の一つとして「寺たちの地震情報」ブログの口座を利用されてはいかがでしょうか。より早く、直接的な支援となります。また、まだ、若い麻田弘潤氏の手探りの新しい試みでもあるので、行き届かないところは色々あると思いますが、このような災害支援システムの構築に投資をするというような意味合いでも、人ごとではない大変意義あるものだと思います。

http://teranaoshi.exblog.jp/i14/



  極楽寺さんでは、住職さま、坊守さま、もちろん当院さまも、寺としての使命をしっかりと全うされているお姿がありました。これからもまだまだ考えるだけで頭痛のするようなことばかりだと思います。この頭痛が、ご門主さまをはじめとして、すべての宗門の人々にとってのものであるような本願寺派であってほしいと思いました。

                  文責 三浦組長徳寺 中島憲雄