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 05.02.01 


「ご消息を拝読して」


 去る1月9日、「親鸞聖人七百五十回大遠忌についての消息」が発布された。その中でご門主は、親鸞聖人のご苦労をしのびつつ、混迷を深める現代社会の中で宗門の今後進むべき方向についての願いをお示しくださっている。このご消息を拝読して特に印象に残った点について、僭越ながら個人的な思いを述べさせていただきたいと思う。

 「今日では、人間中心の考えがいよいよ強まり、一部の人びとの利益追求が極端なまでに拡大され、世界的な格差を生じ、人類のみならず、さまざまな生物の存続が危うくなっています。さらに、急激な社会の変化で、一人ひとりのいのちの根本が揺らいでいるように思われます。私たちは世の流れに惑わされ、自ら迷いの人生を送っていることを忘れがちではないでしょうか」とご門主は現代社会とその中で迷いを深めている私たちのありようをするどく指摘くださっている。そして「如来の智慧によって、争いの原因が人間の自己中心性にあることに気付かされ、心豊かに生きることのできる世の中、平和な世界を築くために貢献したいと思います」との願いを述べられている。世界的な環境破壊や紛争の続く現実を思うと、このお言葉が深く心に残った。

 また、「布教や儀礼と生活との間に隔たりが大きくなり、寺院の活動には門信徒が参加しにくく、また急激な人口の移動や世代の交替にも対応が困難になっています」と宗門の直面している課題について触れられ、それへの取り組みとして、「人びとの悩みや思いを受けとめ共有する広い心を養い、互いに支え合う組織を育て、み教えを伝えなければなりません。あわせて、時代に即応した組織機構の変革も必要であります。」「その地に適した寺院活動や門信徒の活動を、地域社会との交流を、そして、寺院活動の及ばない地域では、一層創意工夫をこらした活動を進めてくださるよう念願しております」と述べられている。

 ご門主のご指摘の通り、寺院の活動への門信徒の参加は減少傾向にある。その理由には様々な要因があるだろうが、その一つとして寺院活動を行う曜日や時間の問題もあるように思う。それぞれの寺院によって状況が違うので一概には言えないが、休日や夜など門信徒が集まりやすい時間に活動を変更したり、ときには寺院から場所を移して、人の集まりやすい場所で活動するなどの工夫も必要かと思う。それと共に、活動内容の見直しも行い、参加する側にとって魅力のある活動にしていく努力も勿論必要であろう。

 また、世代の交替の問題とも関連するのだが、門信徒への法座や法要の案内が、ともすれば親の世代中心になっており、その子や孫の世代に届いていないという現状もあるのではないかと思う。異なる世代が同居していれば(あるいは近所に住んでいれば)問題ないだろうが、別々に住んでいた場合、親の世代にしか寺院からの案内が届かず、子や孫たちが寺院活動に参加できないということもあるのではないだろうか。家単位ではなく門信徒一人一人の状況を把握して、きめ細やかな対応をしていくことが必要だろう。

 さらに、宗門内の組織の問題として、各教化団体の連携をより密にし「互いに支え合う組織」にするとともに、寺院と組、教区、宗派の役割分担をより明確にし、効率的に活動を進められる体制を作ることも必要であろう。

 私たち東京教区では首都圏都市開教という課題もある。これまで、ともすれば教区とは別枠で都市開教が進められてきた感があるが、教区や組との連携をより密接にし、全体として首都圏の布教伝道を進める体制が求められる。また、従来はどちらかというと離郷門信徒やもともと浄土真宗にご縁のあった方を対象とした活動が多かったように思うが、今後は浄土真宗にご縁のない方を対象に布教伝道する活動の重要性が増すであろう。様々な媒体を利用してPR活動を展開したり、人の集まりやすい場所へ出向いて講演会を定期的に開催したり、カルチャーセンターと提携して歎異抄講座を開くなど、色々な方策を試してみることも必要かと思う。

 以上、いささか個人的な思いばかり並べ立てた感もあるが、今回のご消息はそれだけ様々なことを考えさせてくださる示唆に富んだ内容ともいえる。ご消息に込められたご門主の願いを今一度深く味わい、親鸞聖人七百五十回大遠忌に向けて少しでも広くみ教えを伝えられるよう、できることから取り組んでいきたいと思う。
 


   *ご消息の全文は本願寺のHP(http://www.hongwanji.or.jp)にてご覧になれます。
 

柘植 芳秀