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 05.08.01 


2005年夏
−最近の靖国をめぐる政治状況について−



   2005年8月、今年も靖国の暑い夏がやってきた。しかし今年はこれまでと、その政治状況が違う。

 その一つは、6月1日、河野洋平衆議院議長が森、海部、宮沢、村山、橋本の総理経験者と会談、前日には羽田、中曽根、細川ら元首相とも意見交換をし、そして7日には国会内で小泉首相と会い、日中関係悪化を懸念して靖国神社参拝の自粛をうながした。

 それに対し安倍晋三氏(自民党幹事長代理)は、6月8日午後の記者会見で、河野衆議院議長の小泉首相への靖国参拝自粛要請に対し、「元外相だが現在は三権の長の立場だ。外交権は行政の長にあるのだから(議長は)もう少し慎重に考えていただきたい」と批判した。(Sankei Web 2005年6月8日)

 安倍氏の批判に対し、当の河野衆議院議長は、「日本の政治は議会政治なんです。国権の最高機関は国会です。三権分立だから議長は発言するな、ですか。いったい何を言っているのでしょうか」と語った。(「単独インタビュー 靖国参拝は慎重に考えるべきだ」、『論座』2005年8月号)

 その二つは、『読売新聞』が「社説」(2005年6月4日)にて「国立追悼施設の建立を急げ」と、建設に消極的だった姿勢を転換し、積極的推進を打ち出した。さらに『文藝春秋』(2005年7月号)の「小泉総理『靖国参拝』是か非か」の識者アンケートに、読売新聞グループ本社会長・主筆の渡辺恒雄氏は、「元・陸軍二等兵」として小泉総理の靖国「公式参拝」は「取りやめるべき」と寄稿した。

 その三つは、日本遺族会会長・古賀誠氏(元自民党幹事長)は6月11日の遺族会の非公式幹部会合の席で、@新たな国立追悼施設には反対する、A首相の参拝はありがたいが、近隣諸国にも気配りと配慮が必要だ、BA級戦犯の分祀問題では政治が宗教に介入すべきではない、と発言した。(『朝日新聞』2005年6月16日)

 後に『朝日新聞』(「風考計」、2005年6月27日)は、「遺族会長の苦悩」、「親中派の立場もさることながら、遺族としての自分の境遇にも根ざしているに違いない」と書いた。

 その四つは、自民党内に「靖国参拝」をめぐって、「推進派」と「慎重派」の二つの勉強会が結成された。「推進派」は「平和を願い真の国益を考え靖国参拝を支持する若手国会議員の会」、安倍晋三氏らが中核で会員63人(6月28日)。「慎重派」は「靖国問題勉強会」、世話人代表は野田毅氏(元自治相、野田氏は「築地聞真会」の代表世話人でもある)で会員27人(7月12日)である。(『読売新聞』2005年7月17日)

 自民党内の「靖国参拝」をめぐる動きは、外交路線やポスト小泉をめぐる世代間の駆け引きと見る向きもあるようだが、それだけでは片づけられない。そこには、「陸軍二等兵」や「遺族」としての戦争体験の有無とともに、目先の「国益」という主権国家の損得関係において靖国参拝を理解しようとするのか、それとも長期的な展望をもって「アジアの中の日本=東アジア共同体」という視点から共存の途を模索するのか、との視点の違いがあるように思う。

 その五つは、1978年7月から1992年3月まで靖国神社宮司を務めた松平永芳氏がさる7月10日、92歳で死去した。(『朝日新聞』2005年7月12日、夕刊) 靖国神社宮司に就任早々、靖国神社の「国家護持」に反対するとともに、いわゆる「A級戦犯」を合祀した。 靖国神社の宮司にして「国家護持」反対を主張して遺族会から批判され、昭和60年8月15日の中曽根首相の「公式参拝」を「非礼参拝」と非難した。すでに宮司を引退していたとはいえ、ある意味で「権力への迎合」を最も嫌った気骨のある宮司であった。(なお、松平氏の「国家護持」反対と「A級戦犯」合祀の理由については、「誰が御霊(みたま)を汚したのか 『靖国』奉仕十四年の無念」、『諸君』平成4年12月号を参照されたい)

 松平宮司に「非礼参拝」と非難された、中曽根首相の「公式参拝」時の官房長官であった後藤田正晴氏も、「A級戦犯には『結果責任』」「小泉首相の靖国参拝は説明つかない」「どれもだめだというなら、新施設をつくるのはやむを得ないかもしれない」と語った。(『朝日新聞』2005年7月13日)

 この6・7月の二ヶ月間をみても、靖国をめぐる政治状況は大きく動いている。

 靖国参拝推進は保守、靖国参拝反対は革新という二項対立の図式を自明の前提にしてきた、これまでの靖国問題への取り組みは見直しが要請されよう。

 保守にも靖国参拝反対があり、そのいわば「慎重派」と、どう靖国問題で連携していくかを模索する時期にきているのではないか。

 たとえ自らは「精神的自立」を自認して元気なタカを攻撃するあまり、穏健なハトまで嫌うような、独りよがりの原理主義に陥ってはならない。

                           

 池田 行信