先日報道された記事によると年間の自殺者数は「8年連続3万人以上」だそうです。
3万人の自殺者(既遂者)がいると、その裏には10倍の未遂者がいて、さらに、自殺した人(既遂+未遂)の影には1人あたり約6人の身近な方が深刻なショックを受けていると言われています。そうすると重大ないのちの問題が毎年約200万人の方に振りかかっているということになります。
五木寛之さんがとある講演で仰っていたのですが、年間3万人以上の自殺者がいるといことは「1年間に大地震が4回もあったのと同じで、6〜7年に1回広島に原爆を落とされることに匹敵し、2年間でベトナム戦争中に落命した米兵の総数をかるく上回る」状況なのだそうです。「日本人は心の戦争、見えない戦争の真っ只中に生きており、日本人のいのちの軽さに大きな危機感」を抱かざるをえないと仰っていました。
このように、現代を生きる私たちにとって「自殺」は避けては通れない大きな「生死(いのち)の問題」と言えましょう。
「自殺」はこれまで個人の問題として考えられてきたように思います。端的に表しているのが国の予算かもしれません。交通事故で亡くなる方の約5倍の方が自殺で亡くなっているという国民の状況にも関わらず、国の予算は交通安全対策の1600分の1しか自殺対策に振り向けられていないという実態があります。単純計算で格差8000倍です!
この状況を改善するために、2006年5月現在、自殺対策の法制化のための「3万人署名活動」が展開されています。署名活動を取りまとめているNPO法人ライフリンク、また署名活動については次のリンク先で確認してみてください。
◆ライフリンクについて http://www.lifelink.or.jp
◆署名活動について http://www.lifelink.or.jp/hp/syomei.html
(署名活動に賛同いただける方は、リンク先から署名用紙をダウンロードし、5月末までに郵送して下さい)
自殺対策基本法(仮称)の成立によって2つのことを目指しています。
1つは、社会の問題だというコンセンサス作りです。これまで自殺は個人の問題として片付けられてきた感が拭えませんが、国・地方公共団体・事業主も相応の責任を持ち、社会が一体となってその対策に取り組むべきことを法律で示すということです。
もう1つは、自殺対策の実効性を高めることです。これまでも対策がまったく取られなかったわけではありませんが、縦割り行政の弊害からチグハグな対応になっていて成果がほとんど無い状況です。(だから8年連続で3万人以上という異常事態が続いているのです!)根拠となる法律ができることで、省庁間(例:警視庁・厚生労働省・文部科学省等)がお互いに連携できるようになるはずです。
自殺が「個人の問題」か「社会の問題」かという点について、もう少し見てみましょう。
歎異抄には「さるべき業縁のもよほさば、いかなる振る舞いもすべし」とあります。人は、いろいろな原因が重なることによって、自分でも思いもよらない人生を辿ったり思いもよらない振る舞いをしたりするものだという意味で、自分の力だけでいつも正しいことをやり遂げられるといった「驕り」を戒める言葉と受け止めています。 つまり「自殺」はいつ誰の身に起こることなのか分からないと思うのです。私は絶対に自殺なんかしないと思っていても、それは「今」の私なのであって、明日、1週間後、1ヵ月後、1年後の私が必ずそのように思えるかどうか、本当は分からないはずです。私が言うまでもなく、諸行無常であり、煩悩具足の私が四苦八苦の世界に生かされているのですから。にもかかわらず、多くの人は、自殺は他人事であり、自分は絶対自殺なんかしないと思っているようです。交通事故より5倍も高い確率で自身に降りかかる可能性があるというのに!
そうすると、個人が頑張れば乗り越えられる、個人が我慢すれば済む、個人が失敗しないように気をつければいい、、、、といったこれまでの考え方では、もう対応できな状況にあると言えるのではないでしょうか。ここで考え方の転換が必要なのだと思います。個人の問題と片付けるのでなく、社会の問題という捉え方で取り組むべきだと。
このように書いている私自身も、自殺の状況をよく知らなかった頃には、自殺は個人の問題と考えていたように思います。しかし、少しずつ自殺対策の活動をし始めて分かったのですが、自殺してしまう多くの方は、追い詰められた末に、もうどうしようもなくなって、本当は生きていたいのに、自分で死んでしまうしか方法が思いつかなくなって、それで致し方なく無念のうちに亡くなっているのです。最終的には個人が決断して自殺しているのでしょうが、そのように追い詰められるところまで、個人がすべての責任を背負い込まなければならないことか疑問だと、最近の私は思うようになりました。社会の問題として取り組むべきだと。
この署名活動・法制化といった流れの中で、自殺によって亡くなる方が少しでも減るようにと願っています。
合掌
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藤澤 克己 |
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