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 06.10.16 


暴力の連鎖を断ち切る

  世界を駆けめぐった衝撃。10月9日に北朝鮮が核実験をしたと発表しました。8番目の核兵器保有国になったということです。

  この実験の成否や信憑性はいずれ判明するにしても、武力や威嚇をもとに体制の保全を図るということは、あってはならないことです。しかしこれが隣人の実体。我々はどうつき合っていけばいいのでしようか。

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  韓国では、1998年から金大中大統領が行ってきた太陽政策が批判され、転換期を迎えています。本来それは「単純に北に優しい政策ではなく」、

『「一切の武力挑発を許さない」「北の吸収統一を排除する」「和解協力を推進する」という3大原則があった。しかし北朝鮮は、南北会議でも6者協議でも、相手の譲歩を引き出したい時には対話をじらし、拒み、韓国は支援偏重へ引きずられた。』
(2006.10.13.朝日新聞 朝刊1面より)

ということです。つまり外交により自国の利益を上げるという手腕は、皮肉にも北朝鮮が一番優れていたということなのでありましょう。その手法はまったく評価しませんが。

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  元外務省の佐藤優さんは自著「国家の罠〜外務省のラスプーチンと呼ばれて〜 新潮社」の中に、外交交渉のプロとして、対ロシア時代の外交の基本を、

『「私は日本のナショナリストだ」と言うと、ロシア語のニュアンスでは、「私は日本人至上主義者で、外国人は排除されるべきだ」という意味になる。これに対して、「私は愛国主義者(パトリオート)である」というと、常によい意味である。ロシア語のニュアンスでは日本の愛国者とロシア語の愛国者が手を握ることは可能なのである。』

と示されています。その国に住むものとして、どんな形であれ自国を愛することは当たり前のこと。愛するがゆえに批判的でも良いのです。しかし本当に自国を愛するものは他国の心情も理解出来るはず。それがパトリオートという立場です。ですが至上主義者は、排他的ゆえに交渉の余地がないということです。

  愛国心云々が話題になっていますが、我々の主張するものは「日本人至上主義」になってはいないでしょうか。至上主義同士は交渉出来ないのです。そして残された道は戦争しかないのでしょう。過去の歴史がそうであったように。

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  仏教詩人のあいだみつをさんはこの様な詩をよまれています。

  「セトモノと セトモノと ぶつかりっこすると すぐこわれちゃう どっちか やわらかければ だいじょうぶ やわらかいこころをもちましょう そういうわたしは いつもセトモノ  みつを」(「しあわせは いつも」相田みつを 文化出版局)

  こちらが正義であちらが悪という単純な二元論・至上主義ではなにも解決しないでしょう。今までも解決していないのですから。セトモノの“自覚”あるところに次の一歩が生まれます。そして「何故あちらもセトモノになったのか」という視点を持てた時に方向が定まるのではないでしょうか。

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  仮に北朝鮮が核ミサイルを持ったとします。「日本も撃たれたら撃ち返すように核武装すべきだ」という主張が声高に論じられます。これに乗じて憲法改正、軍隊保持の議論が加速していくのでありましょう。しかし、撃たれたら撃ち返すでは外交失敗です。撃たれたおしまい。それを撃たせないのが外交です。政府とは、国民の代表として、撃たせない、争いをしない方向へと舵取りをしていくべきものでしょう。

  国連の北朝鮮制裁決議案とは別に、日本は独自の制裁決議案を実施します。それは国連の制裁案よりもより厳しいものです。対話と圧力といいますが、どれほどの対話がなされたのでしようか。

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  浄土宗の開祖であり、親鸞聖人がお師匠様と慕った法然上人は、9歳の時に父親を目の前で殺されました。父親絶命の時に至りて、幼い息子に「怨みに報いるに怨みを以って為さず」と言い残しました。法然上人はこの言葉を胸に仇討ちに走ることなく、比叡山へと趣き出家されました。

  本当であれ嘘であれ、北朝鮮は核という最後のカードを切りました。それは見方を変えれば、一番苦しい時ということです。こっちを向いて欲しいというサインなのです。ちょうどタリバンが、アフガニスタンのバーミヤン大仏を爆破し、その後のアメリカ同時多発テロへと繋がっていった時のように。

  「やるか、やられるか」。人類を支配してきたこのおぞましい暴力の連鎖。その鎖を断ち切るのは、“将来”であってはなりません。今この時こそ、鎖を断ち切るべきではないでしょうか。


 高林 二郎