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 08.01.01 


人材派遣業大手のグッドウィルの
業務停止命令に思う



 人材派遣業大手のグッドウィルが法礼違反を繰り返していたことが発覚し、厚生労働省が業務停止命令を出す方針を固めたとのことである。

 企業が競争力を保つため、雇用形態の見直しを積極的に行い、政府もそれを民間活力と讃えた。そして政府自体も、福祉事業も含めて公共事業を大幅に民間に委託をしていく。そのような流れのなかで急成長したのが人材派遣業だ。
 「人材」とは、個々の能力と意志が伴ってのこそ意味を持つ言葉だと思うのだが、ここでの人材は、ただの駒でしかない。残念なことに現代社会はそれを是とした。人材派遣業が急成長したのはその証左である。

 現在、日本全国どの地域でも老人施設や保育園などの福祉事業の民営化が進んでいる。
 福祉に理解がありそこに情熱を燃やせる経営者に、事業を移管することは基本的にはとても良いことだと思う。もともと、福祉を支えてきたのは公共機関ではなく民間である。
 しかし、現在の動きが望ましい方向に進んでいるとは思いにくい。
 厚労省官僚の机上の立案により、福祉をサービス業と読み替えて民間活力の導入を推進し、施設経営に利潤追求の論理を導入しようとしているように思われるからある。
 民間活力の導入とは聞こえが良いが、要するに補助金の削減への口実である。

 その対応策を保育園の経営サイドで考えるならば、収入については自治体に管理されているため経費を削減するしか方法はない。
 給食費など園児に直接かかわる事業費を削ることはできない、削減するとすれば、事務費の人件費に手を付けるしかない。
 その方法は、短い年月で雇用契約を解除できる契約職員を増やして賃金の高い職員の比率を下げることで対処するしかない。
 しかし、職員の処遇や福利厚生は保育の質を維持する上で重要な要素であることを良識ある事業者は経験上、強く認識している。理想に反した選択を迫られているのである。

 ところが、そんな悩みを無視するかのごとくに、利潤追求が目的である株式会社に施設経営を委託する自治体が増えてきている現実がある。
 聞くところによると、その職員のほとんどが一年契約の契約職員とのことである。
 補助金を出す自治体からは、保育の質など全くの度外視すれば、経費削減の優良施設ということになるのだろう。

 多くの職員は、大学や専門学校で保育や福祉の理念や技術を学び資格を得、希望に燃えて就職したにもかかわらず、現実には技術を発揮できる経験を身につけることもできずに数年で退職しなければならない。
 職員にとっても園運営においても決して望ましい姿ではないと思われる。しかし、福祉の理念なき経営者は、そのようなことに頓着しない。
 経営者側の保育に対する無理解と戦いながら、子どもたちのためによかれと勤務を続けるものの力尽きて退職するという話も聞く。

 保育や福祉に夢を持ちながらも、施設からはじき出されてしまった人々。その人々の、行き着く先のひとつが人材派遣会社ということなら皮肉である。
 福祉行政も労働行政も一手に背負う厚労省、しっかりしないと両方とも大きく後退することになりかねない。
 ものを言えない子どもやお年寄りがそのしわ寄せを受けることのないように、本来の意味で人材を育てる行政をしていただきたいものである。


                             小林泰善 2008.1.1