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コラム 08.04.16 



聖火リレー妨害に思う


   チベット問題が世界の注目を浴び、中国のチベットに対する人権抑圧への抗議の動きが高まっています。北京オリンピックの開会式にブラウン英首相が欠席を表明するなど具体的な動きもありました。

  ケニアの女性環境活動家でノーベル平和賞受賞者のワンガリ・マータイさんが、タンザニアのダルエスサラームで行われた聖火リレーへの参加を辞退したのは、マータイさんのチベット情勢への懸念からの個人の意志の表明であり、とても大きな意味を持つものであったと思います。

  チベット問題の解決のために、中国に対し意見を表明することはとても大切なことであると思います。世界に門戸を開いて平和の祭典であるオリンピックを開催する中国にとっては、チベット問題への抗議を内政干渉だと突っぱね続けることはもはや不可能だと思います。オリンピックが、中国の民主化に弾みをつけることを期待します。

  しかし、聖火採火式に人権活動家が乱入したニュース映像が世界中で放映されたのをきっかけに、ロンドン・パリ・サンフランシスコで聖火リレーが妨害されたりコースが変更されるという出来事がありました。繰り返し放映されるニュース映像を見ていて、疑問がわいてきました。

  オリンピックの聖火は平和の象徴であり、聖火リレーは平和の行進です。単なる理想論との指摘もあろうかと思いますが、あえて言うならば、聖火ランナーはオリンピックの精神をつなぐために走っているのではないでしょうか。聖火リレーの妨害行為は、チベット問題への抗議の対象としては的外れであり、マスコミのカメラを意識した売名または自己顕示の行為とも思えます。

  今後、抗議行動のあり方によっては、これからの聖火ランナー予定者や、北京オリンピックに参加する選手たちに、人権という名の踏み絵を課するようなことになりはしないかと懸念します。ニュースで繰り返し流される、ロンドンでのトーチを奪われそうになった女性ランナーの当惑した表情が脳裏に残っています。ヒステリックな抗議行動は、結果的には4年に1度のオリンピックの成功を願う人びとを当惑させ、もともと中国嫌いだった人びとを喜ばせ、さらには中国のヒステリックな対応を招いただけだったのではないでしょうか。

  私たちは、中国のチベットに対する人権抑圧を憂慮し早期の民主的な解決を願っています。そしてまた、北京オリンピックの成功を願っています。中国は、オリンピックという自らに課した人権の踏み絵を、いま広げたところなのだと思います。その結果をしっかりと見届けなければなりません。聖火は、私たちの願いを中国につなげる炎と理解するべきではないでしょうか。


小林 泰善