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コラム 09.04.16 



葬儀のお焼香時の挨拶


 お焼香の作法についてお話をしている時に、ご門徒からこんなご意見がありました。
 「最近、お葬式に行くとほとんどのところで、お焼香の時に両脇に座っている親族の方々に丁寧にお辞儀をしています。私も、前の人たちがそのようにしているので同じようにしていますがなにかおかしいと思うのです」と。また、その意見に賛同する人が多くおられました。
 私は、「なにかおかしい」と多くの人が感じておられることに心強い思いがしました。なぜなら、葬儀は故人をお送りする大切な儀式です。遺族の方々は、みなその儀式に参加しておられるのです。また、お焼香に来られた方々も個人を偲んでお葬式に参列されているのです。もし挨拶を交わす必要があるのなら、儀式の時間を避けて行うべきでありましょう。おかしいと感じておられる方々は、そのことに気づいているからに相違ありません。
 しかし、そうは言いましても、最近の葬儀は、挨拶を交わすことを前提として式場が設定されているので、ひとたび挨拶がはじまってしまいますと、それを止めることは難しくなってしまいます。極端な言い方をすれば、遺族や親族は招待する側で、会葬者はお客様です。そこでは、お客様に挨拶をしなければ失礼にあたるという意識が働きます。
 本来、お葬式という儀式においてお焼香のみの会葬者も、式に臨む立場は遺族と同じであります。遺族の立場としましては、わざわざお焼香に来てくださった方々に失礼があってはならないとの気遣いがあることは理解できます。しかし、会葬者に対する挨拶に気を取られてしまって、肝心な儀式が上の空になってしまっては故人に対してまことに申し訳ないことであります。
 また、会葬者の立場でありましても、お葬式という大切な儀式に参列するという意識をもってお焼香するならば、遺族が正面を向いて(すなわち会葬者に背を向けて)儀式に参加していたとしても違和感を覚えることはないはずです。故人を送る大切な儀式であるお葬式の意味を心得ているからです。
 いつの頃から常識と非常識が逆転してしまったのでしょうか。間違っていることはいずれは正さなければならないことと思います。しかし現実には、その傾向は法事をも浸食しつつあります。最近では、読経中のお焼香時にご丁寧に挨拶を交わしている場面に出会うことがよくあります。
 「なにかおかしい」と感じておられる方がいるうちになんとかせねばなりません。

小林 泰善