仏教ちょっと教えて 




107 「献杯」するのは?

Q: 法事の席で「献杯」のご発声をと言われることがありますが・・・


A:
 最近よく聴く言葉にこの「献杯」があります。乾杯から派生した言葉です。まずこの乾杯についてお話しましょう。

 慶応大の国文学者の故池田弥三郎教授(1914〜1982)が日本語の乱れた一つにこの乾杯をあげておられます。
 いわく「そもそもわが国で乾杯とは、杯を上げて干す動作を云う言葉であって、乾杯という言葉を出して杯を干すことはなかった。当然『おめでとう』でなければならない。おめでたいからみんなで杯を干すのであるから『おめでとうございます』が正しい日本語の言葉である。不祝儀の場合は献杯で、黙って故人に杯を献じ冥福を祈るわけで言葉は出さないものだ。」とのことです。
 なるほどその道の大家が云うと説得力があります。

 「乾杯」自体が近年始まったものです。
 昭和47年に時の田中角栄首相が訪中され日中国交が回復しましたが、中国で大変な歓迎を受けられ、連日連夜マオタイで「乾杯」カンペイしたことが当時の新聞誌上をにぎわしました。
 中国では自分勝手に酒を飲むのではなくて、誰それさんのために乾杯―カンペイ―といってみんなで飲むので、何度も何度もカンペイします。
 当時の田中総理が帰国されてからカンペイを日本語的にカンパイと直訳され杯を上げたことから乾杯がカンパイとして定着したようです。とは言ってもご法事の席では理屈で押し切ることもできません。

 そこで「献杯」の注意点ですが、浄土真宗では、「冥福」「霊前」の言葉を使いません。
 
 浄土真宗は阿弥陀如来の本願力により、お念仏をいただいた人は即得往生する教えです。ですから冥福(冥土の幸福)を祈る必要はありません。
 したがって「ご冥福を祈り」とは言わず、「故人のご恩を感謝し」とか「これからも私たちを正しい方向に導いて下さることを念願し」、あるいは「謹んで哀悼の意を表し」などの言葉のあとに「献杯させていただきます」と添え、黙って故人に杯を献じるのが適当です。


回答者: 西原 祐治  


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