仏教ちょっと教えて 




110 お彼岸にお供えするのは?

Q: お彼岸にお供えするのは おはぎ?それとも ぼたもち?


A:
 「暑さ寒さも彼岸まで」 暑さも寒さもやわらぎ、一年で最も過ごしやすいのがお彼岸の頃です。お彼岸は春分の日、それから秋分の日をお中日として前後三日、合計七日間をさします。

 彼岸のルーツはというと、「彼岸」とはもともと仏教用語。梵語の「波羅密多」(はらみつた)を漢訳した「到彼岸」のことをいいます。そして彼岸に対する言葉は「此岸」。
 此岸というのは、苦しみの世界、迷いの世界としての私たちが現実に生きているこの世界をさします。
 その反対の彼岸は、楽しみの世界、よろこびの世界としての、私たちがまだ到達していないさとりの世界をいいます。
 そのさとりの世界に至る行を修するのに最もよい時期がこのお彼岸というわけです。

 本来ならば仏教の修行は一年を通して行ってこそはじめて意味があるわけですが、一般の人たちは修行に専念するわけにはいきません。
 そこで、一年を通してもっとも気候のいい季節を春と秋に選び、せめてこの期間だけでも仏教の実践を行うことによって、少しでもさとりの岸である彼岸に近づこうと願ったのです。

 これは日本独自の仏教行事で、他の仏教国にはないものです。最初に彼岸会が行われたのが聖徳太子の頃といわれ、平安時代初期に盛んになったようです。
 それ以来、仏教にとって大切な行事として長く伝えられてきました。現在日本にある国の祝祭日の中、仏教行事に由来するものは、春秋のお彼岸の中日である、春分の日と秋分の日の二日だけですから、私たち日本人のこころになじんだ仏教的伝統といえるでしょう。

 またお彼岸が七日というのは、「六波羅蜜」という仏教の実践項目の数によります。
 六波羅蜜とは布施・持戒・忍辱・精進・禅定・般若のこと。
 わかりやすくいえば“施しをするという実践”“いろいろな規律を守るという実践”“じっと我慢をするという実践”“努力をするという実践”“心を集中させるという実践”“正しい智慧を得るという実践”ということです。
 前後六日間に、六波羅蜜の一つずつを実践し、お中日の一日だけは、まとめて全部実践してみようということなのです。

 一般にお彼岸には、ご先祖のお墓参りに出かけます。そしてお供え物の定番は、おはぎ。これらの風習は江戸時代頃から始まったようです。
 なぜおはぎか?というと、諸説あり。小豆が古来より邪気を払うとして先祖の供養と結びついたという説や、砂糖やお米が大変貴重だった時代に、先祖におはぎを供えて近所にお裾分けすることが大変な功徳を積むことになったからという説。
 またあんことお米、二つのものを「合わせる」から先祖と心と心を合わせるという意味で始まったという説もあります。
 けれどなぜお彼岸とおはぎが結びついたのかははっきりしないのが本当のところのようです。
 ちなみに春彼岸には「ぼたもち」、秋彼岸では「おはぎ」と呼ばれますが、実は同じもの。春には牡丹、秋には萩と、花の時期によって呼び名が変わる風流な食べ物です。さらに花のイメージから、おはぎは粒あん、ぼたもちはこしあんで作るのだという話を聞いたことがあります。

 お彼岸はお墓参りとすっかり馴染んだ行事ですが、これは「彼岸」を死後の世界、すなわち「あの世」と理解し、あの世に行ってしまったご先祖に対する供養の期間と誤解したことから生まれた風習と思われます。
 しかし、私たちはご先祖からの“つながり”に感謝するこころを大切にしてきたからこそ、お彼岸は日本に仏教行事として定着したともいえます。
 感謝のこころが忘れかけられかけている現代こそ、お供え物のおはぎ一つにどれほど先人方の思いが込められてきたのか思いを巡らせてみたいものです。
 そろそろお彼岸を迎える時期となりました。今年は本来の意味を改めて問い、私自身が自分の日頃の生活を省みる「仏教週間」として、彼岸に至る道を聞かせていただき浄土を想うご縁と致しましょう。

回答者: 西原 龍哉  


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