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038 映画 『父親たちの星条旗』
2006年11月

クリント・イーストウッド監督 『父親たちの星条旗』


 クリント・イーストウッド監督の映画『父親たちの星条旗』を観てきました。
 これは予告で知って以来、一定の評価が耳に入る前に観ておきたかった映画です。内容は非常に興味深いものでした。

 そこに描かれるものは、戦場にたった若者が経験した現実に起こる戦争の惨めさ、悲惨さ。個人を否定し、国の役に立つか否か、たったその一点においてのみ存在価値を認める戦時の国家。
 また、おりしも先の中間選挙ではブッシュ米大統領のイラク政策も「NO」が突きつけられた形となりましたが、厭戦ムードただよう世相をいっきにひっくり返したものがたった一枚の写真だったという現実から見えてくる人間の愚かさ。そしてそれをコントロールできる人間の恐ろしさ。

 切り口は様々でともすれば、まとまりにかけてもおかしくはなかったこの映画ですが、一本の芯を与えているのはアダム・ビーチというネイティブアメリカンの役をした役者さんの演技でした。彼の演技を観るだけでもこの映画は価値があるような気さえします。

 さて、一方でこの映画が話題となっているのは、12月に公開を控える日本側から見た『硫黄島からの手紙』との2部作品であるということです。
 『父親〜』がアメリカ側の目線で捉えた硫黄島での戦争であるのに対し、『硫黄島〜』では日本側から見たものとして映画化されているそうで、非常に「客観的な目線」で同じ戦争を捉えることができると想像されます。
 正義と悪を色分けし、そこからできあがってくるシナリオを何の疑問もなく受け入れてしまいがちな、われわれに警鐘を鳴らすものとなるでしょう。
 当初は2部作ではなかったことを考えると、これはクリント・イーストウッド自身にとっても大きな気づきだったのかもしれません。

 「正義」なんて一方が作り上げる虚構であるという強烈なメッセージとともにこの2作品は世に出るのです。『硫黄島からの手紙』の公開も待ち遠しいです。




by 竹柴 俊徳 




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