本の評・紹介ページ


007   本の評 99年1月

   本の紹介  ( by 竹柴 俊徳 ) 


「五体不満足」
(乙武洋匡著)
  書店でこの本が店頭に積まれてあるのを見て、まず真っ先に私は、「ああ、あの彼か」と思った。そしてそれと同時に「あれ?」と驚いた。
 
 最初に「ああ、あの彼か」と思ったのは、以前テレビで彼のことを紹介していたのを見たことがあったからだ。むしろ作者が手と足がほぼ付け根のところからない、ということも映像で見て知っていたし、その彼が階段を登ったりするのも見ていたにもかかわらず、「あれ?」と思ったのは、その本の表紙の彼の写真をじっくり見て、「こんなに、胴体が小さかったっけ」という驚きだ。

 思わず手に取って、何ページかめくってみると、今度は意外にも写真が一枚もない。本の帯には「障害は不便です。だけど、不幸ではありません」「感動は求めません。参考にしてほしいのです」という文字が目に入った。「これは、記録集のたぐいではないな」と思い、思わずレジに持っていっていた。客観的な記録集だったら、こんな感想は書かなかっただろう。

 この本を読んだ第一印象は、「読み易い」ということである、それは子供にも読んでもらいたいという気持ちから、小学校4年生以上で習う漢字にはふりがなをふってあるということに加え、彼のユーモアのある文章のなせるところであろう。

 何気ないことであるが、実はこの事は、この本の核心の部分でもあると思う。彼は今までの障害者=かわいそうという概念を変えたいという思いから、積極的に講演などをこなしているし、このような本を出しているのである。そしてその対象は大人ももちろんであるが、小さな子供もその視野に大きな割合で入っているのである。それは彼自身の子供のころに接した友達が、我々大人が予想できないほど早くに彼とうち溶け合えたという経験からであろうし、その親が子供から逆に教えられるという効果の大きさを彼自身感じられたからであろう。

 そして、彼のこの気配りはユーモアにも通じ、「こんな奴が友達にいたら面白いだろうな」と思わせる。それは障害云々ではない次元の話で、要はその人の人間性であることが、暗に込められているように感じる。そんなわけで、読んでいる最中に、「あれこの作者、手と足がないんだったヨナ」と忘れさせる部分があったほどだ。

 この本は、障害を持っている多くの人の中の、一人の意見である。これを全体の意見であると考えてはならないし、それはある意味、作者の意図に反する。しかし、そういった意味では押し付けでない分、強烈なメッセージ性を感じざるを得ない。そのメッセージとは、「人間如何に生きるべきか」ということではないだろうか。障害を持っている人もそうでない人も、こんな風に生きることが大切ではないですかということが込められているように感じられた。

 自分がクラスにいることによって、クラスのまとまりが出て、およそ今問題となっている、いじめといった世界からは縁遠いものであったという表現で障害者の有益性まで持ち出すということは彼自身本意でなかったのでは、と思うことであるが、それだけ、彼の文章はすべてをさらけ出しているということが強く感じられる。後は、この本を読んだ我々がどのように、この本を参考にしていくかである。すべてをさらけ出した文章に対する真摯な返答は、そのまま読んだ側の責任ある生き方として問われていくのではないだろうか。





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