本の評・紹介ページ


 013   本の紹介  by 岩佐准光


混沌からの出発(道教に学ぶ人間学)

五木寛之・福永光司 共著  中公文庫


 1999年3月に出版されたものです。五木氏と、道教の専門家の福永氏が交互に筆を執られるという形式で書かれています。
 この本では、非常にわかりやすく、道教の教えが紹介されています。
 そして、意外と身近なところに、道教の教えがあるという事を知らされます。また、この本を読むことにより、何故、中国仏教が現世利益に傾いてしまったかがよくわかります。
 この本の中で、福永氏は道教の教えが、浄土真宗の教えとよく似ていると指摘されています。その指摘に対しては、そうかもしれないと思う程度ですが、その中に触れられている「教団としての」浄土真宗に対する批判に対しては考えさせられるものがありました。 「親鸞を清らかに祭り上げようとして、かえって実像の持つ強靱さ、豊穣さを痩せ細らせることにもなっているのです」という一節ですが、門徒の方々にお話しする際、ついついきれい事のみを、伝えてしまっている自分を省みさせられました。
 宗祖という、一人の人間の力強さ、苦しみ、悩みというものを、あたかも伝説化してしまいがちな自分がいることに気づかされます。また、この問題を通して教団全体について考えてみても、長い歴史の中で、組織が組織であるためにいろいろなものを削ぎ落としていくうちに、教団から懐の広さ、力強さが失われていっていることを感じさせられます。
 すっかり、本のメインテーマ「道教」からずれてしまいましたが、このようにいろいろ考えさせられる一冊です。



『 大谷光瑞の生涯 』

津本陽 著   角川文庫

 1996年同社で出版された、『天の伽藍』を改題し文庫化したもので、今年3月に出版されました。

 この物語ででてくる、主人公の大谷光瑞という人物は、破天荒な大胆な人物でした。
 しかし、そういう人物だからこそ、思いっきった事ができたのだということが知らされます。功罪というものが、身内からは決して書けないであろうレベルで表されています。
 また、その当時の本願寺教団が、京都市全体の年度予算を超える予算を持っていた事実や、日露戦争の際の、政府の最大のスポンサーが本願寺であったという事実など意外と知らなかった問題を知ることができます。

 前記の本もそうなのですが、内部からの情報だけでは、つい「木を見て森を見ない」ということになりがちです。そんな忘れがちなことを教えてくれた一冊でした。


  なお、この本は小説であり、一部史実と違うということが、出版当初より指摘されていることは
付け加えておきたい。

 






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