本の評・紹介ページ


 0017   本の紹介  by 松本智量

「他者との「関係」を考える四冊

2000.01.16

 
『「家族」と「幸福」の戦後史』
三浦 展(講談社現代新書)

 人々がもとめるささやかな「幸福」の具現化として表出した郊外のマイホーム群 &団地群。そこで形成された「家族」はかつて我々が「家族」と呼んだものとは質的 に全く異なるものとなっていた。「家族や郊外というものは高度経済成長期の日本に おいていわば意図的につくりだされてきた一種の『装置』である」「家族は人々の欲 望を充足させるだけでなく、同時に欲望を喚起する装置になった」(本書より)豊か さの象徴であった「郊外」がいかに閉塞した人間関係を築いていったかを日本に先行 したアメリカの状況も踏まえて解き明かす。著者は郊外を超える必要を示唆するが、 その道は明かされない。それは仏教者が担わざるをえない課題か。

『子どもの社会力』
門脇厚司(岩波新書)


 人間は社会的動物、と喝破したのはアリストテレスだそうだが、人間ならば成長す ればみな社会性を備えるものとはいえないというのは昨今の日本を見れば明らか。で は、そもそも社会的動物であるとはどういう資質や能力を指しているのかを整理した のが本書。「社会性」が今ある社会に適応していくという概念であるのに対し、今の 日本人に欠けているのは自らの意思で社会を作っていく意欲とその社会を維持し運営 していくのに必要な資質や能力であるとし、それを「社会力」と著者は名づけた。そ れは「生きる力」とも呼べるものだ。なるほど、「信心の社会性」も「信心の社会 力」に換えてみるとだいぶ趣が変わりますね。
 

『最前線』
村上 龍 対談集(ラインブックス)


 教育現場、紛争地、為替市場など、それぞれの現場の最前線にいる人たちと村上龍 との対談集。「彼らの目的は、いうまでもなく『知ること』だ。彼らはかって支配層 が独占し、メディアが媒介していた情報や知識をとりあえず自分たちの側に引き寄せ るために、それぞれの現場を確保し、フィールドに出かけていく。そういう人たちに は、頑張って下さい、という言葉は使えない。頑張らなくてもいいから死なないよう に、頑張らなくてもいいからよい結果がでるように、頑張らなくてもいいから仕事が うまくいくように、そういうことだと思う。そして、機会があればまたどこかでお会 いしましょう・・・」(本書より)私たちが「現場」から何事かを語ろうとしたとき に、それは愚痴以上の何かになっているでしょうか。


『美しき少年の理由なき自殺』
宮台真司+藤井誠二(MEDIA FACTORY)

 99年1月、東青僧と東京教区若手布教使研修会の共催で開かれた講演会での宮台氏 には期待外れとの声が多かった。伏し目がちで独白調の講演、質疑応答では応答がこ とごとく質問からずれている。しかしその時宮台氏は鬱のどん底で、床から起き上が れない状態だった(確かに教務所の北村氏も、連絡が全く取れないと困っていた)と いう。原因は彼の言説に影響された一人の青年の自死だった。宮台氏の、生きにくい 時代を生き抜くための様々なアジテーションに揺さぶられ、そこからも落ちこぼれて いく自分に耐えられずに自死した青年の存在は、宮台氏の姿勢に覚悟を、言説に(彼 の用語を使えば)強度を賦与することとなった。宮台氏はいまだに、第一級の論客で す。
 

 






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