今年は福沢諭吉の百回忌に当たるということで、いくつかの記念の催しが開かれているらしい。
ここに紹介する論文は学術雑誌に発表されたものであるけれども、私たち真宗に関わる者にとって興味深い内容が見られるので、紹介しておきたい。
本論文は副題に「真宗を中心に」とある通り、福沢と真宗との関わりに焦点を当てた考察である。一般的には福沢は、「無信仰」を標榜しており、敬虔な信者として特定の宗派に属することはなかったとされている。しかしながら、福沢は真宗に関連して多数の論考を発表しており、それらの分析が本論文の中心を占めている。
「御文章」の活用や、僧侶の説法などに着目し、真宗の布教方法に肯定的な評価を与える、一方、当時の東西本願寺教団のあり方には批判的で、清沢満之らの教団改革を支持し、かなり突っ込んだ意見も述べている。いわゆる「真俗二諦」との関わりも注目されるところである。
ところで、福沢家が代々真宗の門徒であり、彼の思想形成には篤信な母親からの影響が大きかったことなどは周知の事実であろうが、福沢の宗教論説に惹かれて多くの僧侶や寺族が慶應義塾へ入学していたことや、慶應義塾の仏教青年会が福沢の発案で発足したことなど、新たに教えられた点も多い。
以上、福沢の宗教観という本論文全体の中心テーマを必ずしも紹介したことにはなっていないが、個人的な立場から興味のある点のみ紹介させて頂いた。
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