本の評・紹介ページ


0028 本の紹介   by 竹柴 俊徳

『自分を好きになる 子を育てる先生』
諸富祥彦 著
図書文化
2000.11.01

 著者は千葉大学教育学部助教授で、教育学博士、上級スクールカウンセラー、臨床心理士、認定カウンセラー、学校心理士の資格を有する方です。

 著者によれば、最近の子供達は「私なんて大したことできない」「どう生きたって変わらない」と、捨てばちになり、刹那的な快楽に身をゆだね、向上心をもてず、社会に敵意を感じ始めているという。

 その社会的背景を通して、子供達の心を次のように分析している。男の子にとって『巨人の星』や『あしたのジョー』『タイガーマスク』に代表される貧困の中で苦難に立ち向かうヒーロー像が常にある「高度成長の時代」(=ガンバリズム)が、昭和51年、1ドルが200円を切り、高度成長の時代が終焉すると、貧しさを背景にしたマンガが子どもの感覚にフィットしなくなった。代わって、ギャグとSFものが主流となり、感覚に訴えるものが多くなり、世の中のために生きるのはいやだけど、自分のためにならがんばるという「自己実現の時代」(=自分主義)となった。しかし、それも終わり現在は、環境問題や政治不信、社会全体の閉塞感の中、長引く平成不況でリストラにおびえる父親の背中が目の前にある、いくらがんばったところで、輝かしい人生が待っているとは思えないという「むなしさの時代」(=脱力主義)に入っているという。

 こんな時代だからこそ、究極的には、「生きることの意味」がのしかかってくる時代でもあるといえる。
 宮台真司氏は「生きることに意味もクソもない」と叫び、自分を好きになれない若者の共感を得た。
 しかし、作者はこれに対して、本書の中でも異をとなえ、自分を好きになることの重要性を強調する。それは個を超えた「つながり」の中で始めて「私は私でありうる」というとらえ方で、私たちの生きる意味も生まれ、私たちがこれからどう生きるかの答えが見いだされてくるという。

 大人達が若者の感覚についていけず、「最近の若い者は・・・」と文句をいい、おろおろするのがいつの時代でもあることだ。現代の若者にどの様に接すればいいかわからない方、また宮台真司氏の著書を読んだ方には、お勧めである。






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