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0029 本の紹介 by 松本 智量
「現行憲法は権利ばかりを主張していて義務の記述がない」などと憲法を国民道徳と取り違えている批判が繰り返されているうちはこの国に「人権」概念が本当に根づくことはないでしょう。同様に、無限定に拡がっていく「人権」概念は例えばアメリカの「人道的(人権擁護の)理由」によるコソボ爆撃を現出させています。本書は、いったい私たちは「人権」に何を託しているのかの見直しをせまります。中でも編者宮 崎氏の「犯罪被害者に『人権』などない」という提起は一見いささか刺激的。しかし国権に対するものとしての人権という位置づけを見失った論議は、結局人権の名のもとで戦争を始めるという悲喜劇を誘導しかねません。
「人権」という言葉が濫用される中でクローズアップされてきたのが「犯罪被害者」の存在です。加害者の人権ばかり擁護され、被害者の人権がなおざりにされている、という批判は「人権」という言葉を持ち出すが故に問題を徒に見えにくくしています。人は人権があるから護られなければならないんじゃないでしょう。被害を受けて傷ついている人の立ち直りに必要なのは、第一に丁寧であること。「人権」をはじめとする「便利」な言葉は、いったん手に入れると行動や感情が怠惰になっていくのが私たちの性のようです。お気をつけください。