本の評・紹介ページ


0031 本の紹介   by 松本 智量

教育に関して
2001年1月16日
『中央公論』
2001年1月号

  

 ご門主が参加された座談会が掲載された中央公論01年1月号に苅谷剛彦氏の『「学習指導要領」の方針大転換』という短い論説が掲載されています。正に簡にして要のこの論文を乱暴に記すと、これまでは「最高基準」を示していた学習指導要領が、「最低基準」を示すものとなったということ。平たく言えば、これだけしか教えなくていい、と言っていたのが、これだけ教えればいい、となったということです。その本音は、ブルーカラーに教育は必要ないということ。

 それがどういう未来展望の元に策定されたのか。それがどういう未来を導くのかを精緻に検討した本を紹介します。



『機会不平等』
斎藤貴男著
(文藝春秋)

   日本社会が戦後、「平等」を旗印に押し進めてきた教育は結局「結果平等」ではないか、それでは努力したものや能力あるものは報われないではないか、との財界からの声を後押しに進められてきた教育改革は、実は「機会不平等」を確たるものとするだけであったことをあきらかにするレポートです。財界(と、それにリードされる政界、マスコミ、そして大衆も)が思い描くのは、端的に言えば階級社会の実現です。それは本当に私たちが望んでいるものなのか。

   
ここで宗教者は問を与えられます。どんな職業も貴賎なし、と説くのはよしとして、その職業が選択の余地が無いものであり、なお職業によって低収入が確としたものであったならそれでもなお貴賎なしと言えるか?

   同テーマを扱った『不平等社会』佐藤俊樹著(中公新書)、『僕はアメリカに幻滅した』小林至著(太陽企画出版)もぜひ併読をお薦めします。



さらに、教育が人をどう育てるかのレポート。
『カルトの子 心を盗まれた家族』
米本和広著
(文藝春秋)

   カルト、と呼ばれるオウム真理教、エホバの証人、統一教会、ヤマギシ会の会員の子として育てられるということがいったいどういうことであるのか。修復が極めて困難なトラウマを負ってしまった子を前にしてそれでも、「今の社会でカルトといえない価値感が何処にあるのか」と問われて何と答えよう。米本氏の『洗脳の楽園』とともに、特に伝道布教を旨とする仏教者には必読の書と断言します。







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