このところ新書判で親鸞聖人関連の書籍が
発行されています。今年出たものをご紹介。
by 松本 智量 |
『親鸞』
伊藤 益 著(集英社新書) |
著書は筑波大学哲学・思想学系助教授。専攻は日本思想。
副題に「悪の思想」とあることからも分かるように、『歎異抄』を中心に、人間が抱える「悪」という観点から親鸞聖人の思索を思想史上に位置づけていく。その作業において「客観的」であろうとすることは「骨董趣味」でしかないと、自らの「いま」「ここ」(これは最近流行つつあるキーワード)に拘り親鸞と対峙する好著。 |
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『いまを生きるための歎異抄入門』
佐々木正 著(平凡社新書) |
著者は大谷派寺院住職。NHK文化センターでの歎異抄講座をもとに書き下ろされたもので、したがって歎異抄を原文に沿って解説していくが、類書の中で際だつ話材の広さを見せる。古今の文学、養老孟司、河合隼雄、井上洋治、加藤典洋、オウム、臓器移植など、多ジャンル他宗教の方々の言葉や話材が決して浮くことなく聖人の言葉を深める手助けとなる。
「これまでの研究書や解説書を開くことを自らに禁じて、文学や芸術や映画をはじめ、流れる日常風景の中にも
〈内部〉 からの光を見つけ出し、私たちが抱える緊急の生活課題と歎異抄との通路をつけてみたい」という著者の試みは成功している。 |
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『今に生きる親鸞』
吉本隆明 著(講談社α新書) |
『最後の親鸞』他関連の著書も多い吉本の語り下ろし。この本、対象が不明。親鸞に興味はあるが僧侶や哲学者に壁を感じる人、あるいは単なる吉本ファンか。序章及び「親鸞の生涯」「親鸞の思想」「親鸞の言葉」「今に生きる親鸞」の四章からなるが、このうち本書の中心は書名にもなった第四章「今に生きる親鸞」にある。テーマは「善悪」。「宗教が善悪・倫理と結びつくときに、善と結びつくのは本来的ではなく、また、必ず誤差を含むことなしには不可能であることをよく知っていた」親鸞に吉本の共感の多くはあり、おそらく編集者の意図もここを大いに語らせたかったのだろうが、どこでどうなったのか総花的親鸞入門書になってしまいかえって魅力を減じている。
尚、同じ著者の『悪人正機』(朝日出版社)は親鸞思想の本ではないので御注意。余談だが、ネットで「他力本願」を検索するとずらずらと他ネットの引用だけで作ったサイトがでてくる。手抜きサイトの代名詞だそうだが、ずばり『他力本願』というタイトルのページに「このページをお寺と勘違いする人がいるんだけど、どうして?」という管理者のあまりにも素朴な疑問が掲載されていた。いやはや。
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